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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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21. 再会②



 テーブルにお茶を用意すると、殿下は優雅に「かたじけない」と言ってカップを手に取った。

 その仕草はいかにも王子様だ。いえ、本物の王子様なんですけどね。


 私の視線に気づいた彼は、「ん?」と小首を傾げた。

 かっこよさに加え、可愛らしさまでアピールするとはあざとい。イケメン有罪。

 王宮に戻って一体何を学んだのか。これが帝王学というやつか。けしからん。


 優雅にカップを持ち上げたアレス殿下は、一口飲んで、遠慮がちに質素な部屋を見回した。


「ところであんたは、何でこんな場所に住んでたんだ?ここだと大好きなイケメンに会えないだろう」

「そうなんですけど…………色々ありまして」


 怪訝そうに聞かれ、私は苦笑した。


「実は……あなたが王宮に戻った後、突然イケメンに興味が湧かなくなってしまったんです」

「は?興味が湧かない………?」

「あ、正確には執着が弱くなったと言いますか…………格好いいなあ、とか、わぁ素敵!みたいな感情はあるんです。でも、『おっしゃ逆ナンしてやろう!』みたいな、ぐいぐい迫っていくパッションが湧かないというか……」

「あれほどイケメンにホイホイ釣られてたあんたが………?」


 殿下が素で驚いている。同意しかない。


「はい。すわ、一大事、何かの呪いかと、"解呪の魔女"に見てもらったんです。

 そしたら衝撃の事実が発覚しまして。……実は、私のイケメン狂いって、呪いのせいだったんですよ!」

「待て、意味がわからない」


 殿下は頭痛に耐えるような顔でこめかみを押さえている。ですよね、私も意味がわかりませんでした。


「えーと、簡単に説明しますと、私が節操なくナンパしたり、男運が超絶悪かったのは、実は呪いにかかってたせいだったんです。驚いちゃいますよねーあはは」

「あはは、じゃねえだろ!何を呑気な……!」


 へらりと笑ったら殿下がキレた。懐かしいなこの感じ。


「というか、まだ続きがあるので話してもいいですか?」

「……続けてくれ」

「はい。で、そのイケメン狂いの呪いは、私に新たにかけられた祝福と打ち消しあって、綻びが生じている状態だそうです。そのせいでイケメンへの執着が薄れた、というのが"解呪の魔女"の見立てでしたね。

 ちなみに、この呪いは超強力で、"解呪の魔女"でさえ完全には解けないと言われました」

「……なるほど」


 殿下は、驚愕と戸惑いと哀れみが入り交じった、何とも言えない表情を浮かべている。


「私自身は呪いをかけられた記憶がないので、もしかしたら記憶喪失前に何かあったのかもしれませんね」

「……あんたは、三百年から前の記憶がないんだったよな」

「ええ、そうです」


 そう、私の記憶は三百年より前がない。

 三百年前といえば、大陸全土を巻き込んだ戦乱の時代だ。

 その混乱のさなかに呪いを受けた可能性はある。仮に、記憶喪失に呪いが影響しているのであれば、呪いを解けば記憶が戻るかもしれない、とも考えた。


 だけど……これは、"解呪の魔女"でも消せない呪いだ。彼女が無理だと言うなら他の誰にも解けないだろう。


「記憶はいいとしても、三百年イケメン狂いでやってきたので、すーーーっごく落ち着かないんですよね。

 私としては、祝福の方を消して、イケメン大好きな自分を取り戻したいんです。たとえ男運の悪さがセットでも……!!」

「アホか!」

「あだっ!」


 拳を握って力説すると、スパーンと頭をはたかれた。


「あんたはよく変なのに引っ掛かって、騙されたり殺されかけたりしてたじゃねえかよ!死んだら元も子もねえんだぞ!!」


 それは仰る通りである。


「でも、生き甲斐を失くしちゃった気分なんですよ……」


 私は、頭を押さえながらしょんぼりする。しかしここで大事な質問を思い出した。


「あ、ところで祝福かけたのって殿下ではないんですか?」

「は?オレはそんなことはできないぞ」

「では、無自覚なんでしょうか……タイミング的に殿下かなと思ったんですが」


 うーんと私は首を捻った。

 だが、祝福の専門家が存在しない以上、確かめたり解除する術がない。ヨハンナさんが「悪いものではない」と言ってたので、放置するしかないだろう。


「……そんなわけで、イケメンに対する執着が薄れちゃったんですよね。それで街に住まなくてもいいか、と塔に引きこもってたんです」


 長くなった説明を終え、ふと見ると────

 「オレの八年分の努力は何だったんだ……」と殿下は頭を抱えてブツブツ呟いていた。呪詛のような独り言がこわい。


 これはもしかしてあれでしょうか。

 イケメン狂いなダメ師匠を心配してたのに、知らない間にしれっと更正してたから、「コイツ無駄に心配させやがって」的な鬱憤がふつふつと湧いている……とかなのだろうか。


 実際、節操なかったですからね……

 軽く三股とかやってたし……


「殿下、あなたは私の事を心配してくださってたんですね……お気持ちはとても嬉しいです」

「そうだけど、そうじゃない」


 どっちだよ。

 殿下は気持ちが落ち着いたのか、ようやく顔を上げた。


「あんたがホイホイイケメンについていかなくなったのは、いい事だと思っていいのか?」

「危険は減ったと思いますよ。たとえば、殿下はものすごく好みの顔ですが、家に無条件で上げることはしなかったでしょう」

「そこはホイホイつられろよ」


 えっへんと胸を張ったら、殿下は微妙な顔でボソリと呟いた。


「今何と」

「何でもない」


 何でもない、と言いながら、殿下は非常にご不満そうである。

 仕方ない。話題ごと変えてしまおう。呪いの話は殿下の情緒に良くなさそうだ。


「殿下、そういえば、よくこの塔を探し当てましたね!」


 棒読みでちょっとわざとらしかったが、アレス殿下は話に乗ってくれた。


「いや、結構大変だったぞ。あんたは街に住んでると思ってたし、周辺国にも手を広げて探したんだ。まさかラズダル国内のこんな所にいるとは予想外だった。灯台もと暗しだな」

「それはお手数をおかけしました。それで、私にどのようなご用件でしょうか」


 やっと本題に入れた。

 王子自ら足を運ぶくらいだから、よほど大事な用があるんだろう。そう思ってたら。


「いや、あんたに会いたかったから…………てのは嘘で、別件だ」


 冗談を言った殿下が、自分で言ったくせに照れてそっぽを向いた。

 …………わぁ。元弟子がデレた。

 古今東西、イケメンのデレには相当な破壊力がある。今、心臓が串刺しになった。


 思わず胸を押さえていると、殿下の纏う空気がふと変わった。

 居ずまいを正し、正面からキリッとこちらを見据える姿は、まさに次期国王の威風が漂っている。それは、魔女の私でさえつい圧倒されてしまうほどであった。


「──"氷花の魔女"よ。オレは今日、弟子としてここに来たのではない。ラズダルの王太子として正式に頼みがあって参った。どうか、我が国にあなたの力を貸してほしい」

「はいっ、いいですよ!」


 元気良く返事したのに、「あんた軽すぎだろ!!」と即座にお叱りをいただいた。

 いやいや、みなまで言わずとも分かってますって。


「殿下は私の大事な元弟子ですから。あなたの依頼なら、張り切って何だってやりますよ!」

「──今『何だってやる』と言ったか?」

「はい!あ、でも報酬はください」


 金額の交渉はさせていただきます。

 そう言うと、アレス王子は天井を仰いでから、私を再度見た。そして、「とりあえず王宮に移動しようか」と、それは優美な笑みを浮かべた。


 …………何だろう。殿下の笑顔が、絶妙に胡散臭い。


 少し引っ掛かったけど、まあいいか、とその時は受け流した。

 そして数時間後。

 二つ返事で受けたこの依頼を、私は心底後悔する羽目になった。



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