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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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20. 再会①

 


 塔に久々の来客だ。

 相手の気配を探ってみたが、特に悪意はなさそうだ。ただ、先触れも何もないので、誰が何の目的で来たのか見当もつかなかった。

 居留守を使うべきか悩む。


 警戒する一方で、突然の訪問者という非日常に、わくわくしてる自分もいる。

 最近、塔での引きこもり生活に、少し飽き飽きしていたのも事実だった。


「……まあ、出ても構わないですよね。何かあれば、魔法でブッ飛ばすだけですし」


 そう思い直し、客の待つ玄関に向かう。


「はぁい、私がローゼンヴェルデ・クロイラインです!どなたです、か…………?」

「久しぶりだな。元気そうで良かった」


 心地よい低音が耳朶を打つ。

 ドアを開けた先に立っていたのは────天上の彫刻のような美貌を湛えた、秀麗な青年だった。


 え、めっちゃくちゃ好み。


 魂が震えるレベルで性癖に刺さった。

 私は彼を見つめたまま、麻痺したように動けなくなっていた。

 時間が止まったかのような沈黙。

 そこでふっと金縛りが解けて我に返った。

 久しぶり……とは。

 どう見ても知らない人ですが。


「…………えーと……どちら様ですか」


 無難な誰何の言葉。けれど──青年はいたくお気に召さなかったらしい。数秒ほど固まった後で、ぐわっと紫の目を見開いた。


「おいコラ、あんた、オレの顔忘れたのかよッッ!!?」

「オレオレ詐欺なら間に合ってます」


 冷たく言い放つ私。ますます愕然とする青年。

 いや誰ですか。あなたなんか知らんがな。


 君子危うきに近寄らず。

 さっとドアを閉めようとしたら、一瞬早く相手の足が隙間に挟みこまれた。


「いってぇ……!あんた、今、思い切り閉めただろ!!」

「ちょっとぉ!足ひっこめてくださいよ、ていうか帰れ!しつこくすると氷漬けにしますよ!?」

「だから、オレはあんたの弟子だったアルなんだって!!」

「えぇッッッ!!?」


 今度は私が驚愕する番だった。

 僅かに開いた隙間から、目を真ん丸にして相手の顔を見つめる。


 藍色の髪に、紫水晶のような透明感のある瞳。

 きれいな顔立ちには、弟子だった頃の面影があるような、ないような…………


 いやないですね。全然ない。

 うちの弟子はこんなにチャラくなかった。全くもって別人だ。


「嘘ですよね……!?アルは可愛かったけど、もっとちんちくりんでしたよ。そんな色気駄々漏れの、いかがわしい顔じゃなかった……!」

「いかがわしいとか、あんたホント失礼だな!!」


 「よしわかった」と足をドアに挟んだまま、青年は目を据わらせた。


「今から、オレとあんたしか知らない秘密を言うぞ。それで認めろ」

「な、何を言い出すんですか……?」

「一、オレの二の腕には二つ並んだ黒子がある。あんたはオレが寝てる間に、鼻と口をペンで描き足して、オレにキレられた」

「…………記憶にありますね」


「二、イジュの街で、あんたが三股かけた男の一人が、オレにちょっかいをかけた。怒ったあんたは、そいつの髪を一本残らず凍らせた」

「…………そんな事もありましたね」


「三、あんたのお気に入りのパンツはシマ…………」

「あぁーッッッ!もう結構ですッ!!…………ていうか、今すぐそれ忘れてください!!」

「…………オレが、あんたの弟子だと理解したか?」


 勝ち誇った笑みを浮かべた青年を涙目で睨む。

 勝ち誇るなよそんなんで……と思ったけれど、下手に突っ込めば、私の恥ずかしい過去がさらに暴露されかねない。自重だ、自重しよう。


 というか、この人類の宝のような麗しい青年に自分のパンツについて語られるとか、精神的損耗が甚だしい。

 その辺に下着干しっ放しにしてた私が全部悪いんですけどね。あまりに放置されてるのを見かねて、さりげなく他のと一緒に畳んでくれたアルに文句を言える立場ではない。


 一国の王子にパンツを畳ませた魔女は私くらいだろう。最悪の黒歴史だ。


「本当に、あなたは"アル"なんですね……」

「そうだと言ってる」

「すっかり大きくなって、まるで別人みたいですよ、アレス殿下」


 深々とため息をつくと、目の前の青年はふてぶてしく笑った。確かにそれは、かつての弟子、アル少年を思い起こさせるような笑顔だった。


 がっくり項垂れてると、アルは扉を開け、私の肩に「まあ元気だせ」と手を置いた。

 呆れと哀れみの混じった紫の瞳が、頭一つ上からこちらを見下ろす。


「…………何ですか、その物理的上から目線は。身長伸びすぎじゃないですか。あーあ、あの可愛かったアルがこんなんなっちゃって!」

「あ?誰のために、必死に牛乳飲んだと思…………じゃなくて不敬だぞ」

「ハイハイ失礼いたしました!」

「あんたは本当に変わらんな……」

「だって魔女ですから」

「…………取りあえず邪魔するぞ」

「嫌だって言っても、どうせ入るんでしょう。どうぞ」


 彼を塔に招き入れる。ふと見上げると、今さらバツが悪くなったのか、彼の頬はうっすら赤みを帯びていた。

 久しぶりの再会なのに、私達は一体何をやってるんだろう。




「ちゃんと生活してるんだな」


 部屋を見回したアルは、開口一番にそう言った。


「そりゃ一応は」

「ならいいがな。餓死してないかとか、家の中でゴミに埋もれてないかとか、どこかで行き倒れてないかとか、ずっと心配してたんだ」

「さすがにそれはないですよ」


 笑って否定したが──今のは嘘だ。


 アル……アレス殿下と別れた後、私は三回ほど餓えて死にかけた。危うく魔力も暴走しそうだった。

 うっかり食事を忘れたのが原因である。

 正直に伝えたら怒られるのは必至なので、一生黙っておこう。


「お一人でいらっしゃったんですか?」

「いや。部下は、少し離れた所に待たせてある」

「ちょっと無用心では……」

「別に、あんたと会うのに、無用心も何もない」


 あっさり言うけど、私はもう二度と会えないだろうと覚悟してたっていうのに。

 なんだか悔しいから、久しぶりに会えて嬉しいとか絶対言わない。


「とりあえず、お茶を淹れますね」

「すまない」


 椅子を勧めて、そそくさとキッチンに逃げる。


 魔法でお湯を沸かしながら、私はため息をついた。

 元弟子と二人きりになる、なんて状況は微塵も予想していなかった。非常に落ち着かない。


 生意気な元弟子が実は由緒ある国の王子様で、今は王太子になった上に、目が覚めるような魅力的な美青年に成長していた、とか。

 さらに彼は、高貴な身分に相応しい威厳まで身に付けている。

 口調はあまり変わってない気もするけど、見た目の変化は大きい。あれはさすがに緊張する。

 昔はただのクッソ生意気な少年で、緊張とかなかったのになぁ……と少々遠い目になった。


 同時に、いつまでも変わらない自分の異質を思う。


 彼はもう、私より年上にしか見えない。

 魔女はその大きな魔力ゆえに、不老かつ長命だ。魔女ではない普通の人達は、みんな私を置き去りにしてしまう。

 その事実を改めて突きつけられた気がして、何だか胸が痛かった。



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