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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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18. "解呪の魔女"



 善は急げ。

 翌日、私はブラント王国の王都に降り立っていた。

 ブラントの王宮魔法師である"緋炎の魔女"に、"解呪の魔女"を紹介してもらうためだ。

 持つべきものは顔の広い友人ですね……!


 王宮を訪れ、取り次ぎをお願いして、案内された応接室で待つ。

 暫くすると、"緋炎の魔女"レーネがやってきた。

 妖艶な赤毛の美女は、色っぽい笑みを浮かべて「元気~?」とひらひら手を振った。


「レーネ!ご無沙汰してます!」

「久しぶりね~ロゼ。急にあたしに会いに来るなんて、何かあったの?」

「それが……」


 経緯を語って聞かせると、彼女は頬に片手を添えて、「なるほどね~」と首をかしげた。


「そうねえ、見た感じ、特に呪いがかかってるようには思えないけど……あたしも呪いの専門ってわけじゃないものね。"解呪の魔女"を紹介するのは構わないわよ~」

「わぁ、本当に助かります。ありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げると、レーネは「いいのよ~」と笑って、それから少し心配そうに眉を寄せた。


「でもあなた、男関係の修羅場で一度死にかけたでしょ。男に興味ない方がいいんじゃないの~?」

「それじゃダメなんです……!」

「そうなの?」

「はい。イケメン狂いではない私なんて……そんなの、そんなの私じゃないんです!!!」


 きっぱり断言すると、レーネは「そっかぁ~」と頷いた。


「あたしがモテなくなったら世も末だなぁと思っちゃうけど、そんな感じかしらね~」

「多分そんな感じです!」


 二人でうんうん頷きあう。

 少し違う気もするが、深く突っこんではいけない。"緋炎の魔女"レーネは、一度機嫌を損ねると一級危険物と化す。穏便に話を進めたいなら、あえて波風を立てる必要はないだろう。


 そこで、そういえばと首をかしげる。


「"解呪の魔女"さんって、とっても人見知りなんですよね。あえてとてつもない山奥に住むくらいの……」


 そういう人にいきなり会いに行って大丈夫なのだろうか。居留守を使われたりとか……と心配になって尋ねると、レーネは「今は違うわ」と首を振った。


「あの子、最近結婚してこの王都に住んでるのよ~」

「結婚……王都……!」


 へぇええ、と目を丸くする。

 何となくいいなぁと思ってしまった。そんな私に、レーネは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「信じられない奇跡が起こって、今はラブラブ新婚なの~。案内ついでに、あたしも二人を邪魔しに…………ううん、顔を見に行こうかしら」


 この人、「邪魔しに」って言った。


「ヨハンナの夫はこの国の騎士団長なの。今日彼は休みだから、二人で家にいると思うわ。

 ヨハンナに先触れを出しておくわね~」


 レーネは色っぽく片目を瞑って見せた。

 それから赤毛の魔女は魔法で小さな鳩を作り、窓を開けてそれを空に放つ。


「それじゃ行きましょ」


 振り返ったレーネは、私にニッコリと笑いかけた。




 私達は早速、転移魔法で王都の住宅街に移動した。

 ──そうして、ヨハンナさんの自宅前にやってきたのだけれど。


「…………何をしにきた、"緋炎の魔女"」


 ────入口を塞ぐように立ちはだかった、非ッッ常に凶悪な面構えの男が、私達をじろりと見下ろした。

 頬にざっくり入った傷が、ただ者ではない感を強調していますね!


 背筋の凍りそうな凶悪な顔つきだが…………よくよく見ると、イケメンと言えないこともない。

 顔のパーツは左右対称。

 鍛えられた肉体美は素晴らしいの一言。それに気持ちがいいほど背筋がスッと伸びている。実に姿勢がよい。


 彼がヨハンナさんの夫だろうか。

 人様の夫をどうこうする趣味はないので、逆ナン対象にはならないが、私的にはイケメンカテゴリーに余裕で入る。

 まあ、雰囲気は殺し屋ですけどね……!


 それにしても、こんなに威嚇されるなんて、レーネはどんだけ二人の邪魔をしてきたんだろう。

 私はとんだとばっちりだ。

 だが狂暴な圧力を物ともせず、"緋炎の魔女"は「あなたに用はないわ」と堂々と言ってのけた。その図太さを見習いたい。


「ヨハンナにお客様を紹介しに来ただけよ。別に休日の夫婦水入らずを邪魔しようなんて思っちゃいないわ~」

「…………」

「…………」


 無言でレーネを睥睨する凶悪男。笑顔でそれを弾き返すレーネ。居場所のない私。


「あっレーネ、いらっしゃい……そちらが、ロゼさんですか?」


 そこに降臨した救いの女神。

 現れた彼女は、何とも可愛らしい女性だった。小動物のように男の影からひょこっと顔を出している。

 一気に緊張感が和らいで、胸を撫で下ろしていると、小動物……ではなく女性とパチッと目が合った。その瞬間、彼女がさっと頬を染めた。


「あの……初めまして。私が"解呪の魔女"ヨハンナです……よろしくお願いします…………」


 小鳥のような声。恥じらうような仕草。


「かっ……………わいいぃぃ!! え、なに、この人があの凶悪男の奥さんなんですか!?」

「そうなの、本当に奇跡なのよ~」

「…………でも、夫は優しいところもたくさんあるんですよ……」

「…………」


 ヨハンナさんはさらに顔を真っ赤にして、控えめに夫を庇った。壁のように立ちはだかっていた男は、さらに苦虫を噛み潰したような顔になる。

 こわいので、こちらはなるべく視界に入れない。


「はい、私が依頼人のロゼです!ヨハンナさん、今日はお世話になります!!」


 気がついたら、私はシュタッと手を上げて、元気よく挨拶していた。




 ──私たちは、ヨハンナさんの案内でリビングの長椅子に移動した。向かい合わせの椅子に、私とレーネ、ヨハンナさんとその夫である騎士団長がそれぞれ座る。


 コワモテの騎士団長──カディスさんは、せっかくの休みに乱入してきた邪魔者にたいへん苛ついた様子だった。

 だけど──妻をチラチラ見て様子を窺う視線は、まるで、大々大好きな主人に構ってもらいたい大型犬だ。


 一方、奥さんのヨハンナさんは、初対面の私に緊張しているのか、構ってほしそうな夫君の様子に全然気づかない。

 教えて差し上げた方がいいのか、悩む。

 いや……余計なお世話だろう。気づかないフリが正解だ。


 この二人、一見すると「人さらいと被害者」にしか見えないが、本当の意味で囚われちゃってるのは騎士団長さんの方だ。間違いない。


「この子はあたしの友人で、"氷花の魔女"ロゼ。少し事情があって、呪いがかけられてないか確認してもらいたいそうなの~」

「分かりました。では、詳細をお聞かせ願えますか?」


 レーネが本題を切り出すと、ヨハンナさんは真剣な顔になった。そんな表情もかわいい……

 いや、そんなこと考えてる場合じゃない。


 私は邪念を振り払い、ヨハンナさんにこれまでの経緯を話した。それから彼女に体のあちこちを触れられ、呪いの有無を確認してもらう。


 そして────衝撃の事実が判明した。


「────結論から言いますと、ロゼさんは呪いにかかっています。でも、それは非常に古いものですね」


 一度言葉を切ったヨハンナさんは、少し困った様子で続ける。


「元々の古い呪いに、新しい祝福がぶつかって、呪いの方に綻びが出ている。そういう状態です」


 ……よくわからない。どういうこと?



ヨハンナとカディスが少しだけ再登場。


◇この二人が出会った頃のお話→

 “解呪の魔女”は恋をした ~ウサ耳の呪いを解いたら、コワモテ騎士様に溺愛されました



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