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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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17. 呪いかもしれない

 


 ──アルとお別れして1ヶ月。時間が過ぎるのはあっという間だった。

 彼が去ってからというもの、私は泡の抜けたエールのように、実にやる気のない日々を送っていた。


「なんとも張り合いがありませんねえ……」


 カウンターに顎を乗せて一人呟く。

 色々あったけど、アルと過ごした二年間は、私にとって充実した日々であったようだ。


「楽しかったなぁ…………アルの作るご飯もおいしかったしぃ…………」


 思い出に浸って日がな一日ぼーっとする。そして、気がついたら何時間も経ってたりする。

 まるで干からびたカタツムリのようだ。


 まあ、アルがいなくなったのは悪いことばかりじゃない……と自分に言い聞かせてみる。

 うん。言い聞かせてる時点で、相当引きずってる気がする。それは置いといて、良かったことを数えてみよう。


 まず、食い扶持が一人分減った。でもよく考えたら、食費の大半は私が使ってましたね。

 あと、コツコツ貯金してたからしばらく働かなくて良い。私に何かあってもアルが生活できるように、と貯めてたお金だ。

 でも、もう必要ないんですよね……


 あとは……うーん、良かったことってこれくらいですね……


 はぁ、とまたため息をつく。

 自分でもびっくりするくらい怠惰に過ごしている。だけど、誰にも迷惑かけてないしね。開き直ってしまおう。

 店の入口をぼんやり眺めながら、私はまた取り留めのない思考に身を委ねる。




 …………今いる街、シュレーデンは王都から遠い。アルは「ラズダル国内でもここなら見つからないだろう」と考えてた節があった。


 しかし結果的に発見されてしまった。王宮から私が依頼を受けたことで、王子捜索の網に引っ掛かったのだ。

 予想がつかなかったとはいえ、あの依頼を引き受けなければ見つからなかったんだと思うと、申し訳なさが先に立つ。

 アルは「別にあんたのせいじゃない」と言ってたけど、やっぱり責任は感じる。


 ただ──

 想像だけど、アルは母国ラズダルのことが心のどこかでずっと気になってたんじゃないかという気がする。

 でなければ、あんなにスパッと王族に復帰する決断なんてできないと思うのだ。


 ラズダルは政変で一時期荒れた。

 それに対する王族としての責任感とか、自分だけ逃げた後ろめたさとか…………そういう重たいものを、彼は子供なりに抱えていたのではないだろうか。

 潔く王宮に戻ると決めた彼の横顔は、どこまでも毅然として気高かった。

 向こうがアルを見つけなくても、彼はいずれ王宮に戻って、己の責任を果たそうとしたと思う。


 別れ際、元弟子になった少年は、「また会いに来る」と言ってくれた。

 その言葉は本当に嬉しかったけど、現実的に考えれば、二度と会うことはないだろう。

 だって彼は、次期国王の息子だ。怪しさ満点の魔女に、「久しぶり!」とかって気軽に会いに来れる身分ではない。


 そう思うと寂しいが、アルと出会えたのは良かったと思う。

 一緒に過ごした二年間、彼はいつも素っ気なかったし、いっぱい怒られたけど、楽しかったこともたくさんあった。

 一つ一つの思い出が心を温めてくれるから大丈夫。


 まあ、それはそれとして……


 私にはもう一つ、重大な変化が起こっていた。

 個人的にはこっちの方がヤバい。

 何がって───イケ浴び隊の隊長である私が、イケメンへの情熱を失ってしまったのだ…………!




 この私が………八股かけて刺されても、まったく反省することなくイケメンを追っかけてた私が、イケメンに興味を失くしたなんてどう考えても異常事態だ。

 いや、正確には興味関心の全てを失ったわけではない。イケメンを見たらドキドキするし、わぁすごくカッコいいですね!とは思う。


 でも、何をおいてもデートに誘いたいとか、間近で愛でたいとか、フラフラついていきたいとかいうほどの、強烈なパッションがあまり湧いてこない。

 日によって若干波はあるが、全体的に興味が薄くなったのは事実だった。


 訳が分からない。

 自分が分からない。

 こうなってしまった以上、私以外のメンバーがいないイケ浴び隊は解散するしかない。一人結成、一人解散とか空しすぎる。いや、そうじゃなくて──


 さすがにおかしい、と私は自問自答した。

 一般の女性はこれが普通かもしれないが、私は今までが普通じゃなかったので、テンションの上がらなさにどうにも戸惑ってしまう。

 今日もそれで悶々としていたが──ふとあることに気づいて、カウンターからガバッと顔を上げた。


「もしや、これって呪いでは……!?」


 ──アルが最後に言った言葉を思い出す。


『……オレは、いつか必ずあんたに会いに来るからな!それまで、絶対に変な男に引っ掛かんじゃねえぞ!』


 もしかしてこれが原因──?


 呪いについてはざっくばらんな知識しかないが、それを記憶の底から引っ張りだす。

 たしか……強い魔力を持つ者は、魔力を言葉に乗せて相手を縛ることがあるという。あるいは「言霊」と言い換えてもよい。

 無意識でも、それは希に起こりえる。


 魔獣や聖獣なら、言葉を介さずに強力な呪いをかける事も出来るが、人の呪いはそこまで強くない。

 自然に解けるケースがほとんどだ。


 だが、アルは結構な魔力の持ち主だ。

 彼が「変な男に引っかかんじゃねえぞ」と言い、私が「ハイ」と答えた事で、呪いが発動し、イケメンへの情熱を失わせたのでは──?


 と、そんな仮説を立ててみた。

 まあ、まだ呪いだと決まったわけではない。

 だけど本当に呪いなら……どうやって解決したらいいのだろう。再びカウンターに突っ伏したところで、私はふと、ある人物を思い出した。


「……たしかレーネの知り合いにいましたよね!呪いに詳しい魔女が!!」


 再度ガバッと顔を上げる。

 よし、と気合いを入れ、私はカウンターから立ち上がった。

 思い立ったが吉日。

 "緋炎の魔女"レーネに会って、呪いのエキスパート──"解呪の魔女"を紹介してもらおう。


 ここは専門家にきちんと見ていただいて、呪いだったらサクッと解呪してもらえばよい。

 そしたら、再びイケメンを全力で愛でることができるのでは……!?


 アルに「変な男に引っ掛からない」と約束をしたものの、そもそも王子である彼とは二度と会えないだろう。

 会えない相手のそんな縛りに囚われるなんて、単なる理不尽だ。イケメンは私の人生の活性剤なのだ。


 ……性懲りもなくそんなことを考えながら、私はさっさと店を閉め、遠出の準備を始めたのだった。



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