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01. "氷花の魔女"

 


 私、ローゼンヴェルデ・クロイラインは魔女である。そんなことより聞いてほしい。


 私はイケメンが大好きだ。

 何なら三度のご飯より好きだ。植物が日光を浴びて成長するように、可能ならば常にイケメンを浴びていたい。略して「イケ浴び隊」。

 隊員は私一人。ダサいとか言う人は凍らせちゃってもいいですか。


 そもそも私は美しいもの、かわいいものが大好きだ。

 美少女。犬、猫。あるいは、小鳥。

 でもイケメンはその中でも特別。なぜだかわからないが、彼らの存在には強く心惹かれてしまう。


 思うに、イケメンは私に無い物──ガッシリとした骨格、低い声、ざっくばらんな性格など──を持ち合わせているからだろう。

 無い物ねだりは人の性。

 己と異なる存在に惹かれるのは、自然の摂理。


 イケメンに対する私の情熱は、海より深く、山のように揺るぎない。私にとって、空気や水と同じくらい必要不可欠なのだ。


 といっても、そんな私の衝動は、本質的には観賞用の魚や美しい花を愛でる行為に近いかもしれない。だって、イケメンにちやほやされたいかといえば、全然そうは思わないから。

 どちらかといえば、私がイケメンをちやほやしたい。誉めちぎりたい。うっとり眺めてたいだけなのだ。


 というわけで、私の信条は、


 ・イケメンを常に視界におさめたい。

 ・ひたすら彼らを眺めたい。

 ・イケメンは正義。

 ・イケメンは人類の財産。

 ・イケメンは神が与えた奇跡。


 というものだった。

「ただの面食いじゃないか」というツッコミは甘んじて受けよう。

 でも、これだけは言わせてほしい。

 私の持論は「イケメンとは外見のみに非ず」である。つまり、


 性格イケメンもまた、イケメンである。


 そう。これは非常に重要なポイントだ。

 要するに、私の心臓がキュンとしたり、ドキドキしたり、はわわとなってしまうのが、私にとってのイケメンなのだ。

 ただしこれらの条件は、あくまで「私にとって」である。価値観は人それぞれだ。

 だから、各人が己のイケメン道を追及することを願ってやまない。




 繰り返しになるが、私はイケメンが好きだ。

 一般的な恋とは違うかもしれないが、私はこの感覚を恋と呼んでいた。


 イケメンを発見すると、花から花へ飛びまわる蝶のように、フラフラと寄っていく。そんな私には、イケメンにまつわる失敗エピソードが山のようにある。

 たとえば。

 イケメンにお菓子をあげると言われてついていった先が、極悪非道な盗賊団の隠れ家だった。

 盗賊団の一味である男に騙され、私は人買いに売られるところだった。


 でも、頭がどれだけお花畑だろうと、私は曲がりなりにも魔女。盗賊なんかに遅れは取らない。かくして、私は人知れず、盗賊と熾烈な戦いを繰り広げた。

 結果は圧勝。盗賊は全員、夏でも解けない氷像にしてやった。彼らはさながら、雪祭りの雪像のようになっていた。

 凍った盗賊の像を騎士団に引き渡したら、騎士団から表彰されたり、地域のみなさまに感謝されたり、ちょっとしたお祭り騒ぎになったのも思い出深い。

 盗賊の氷像が一列に並べられた光景は、今でも語り草になっているらしい。


 そういえば騎士団に盗賊を引き渡した際、どうやって盗賊のアジトを見つけたのか、と不思議がられた。

 それについては、適当な理由をでっちあげた。「イケメンにお菓子をあげるとか言われて、ホイホイついていった」なんて言えない。

 万一、騎士団の公式記録にそんなものが載ったら、夜中に侵入して燃やすしかなくなる。

 幸い、事実を知るイケメン盗賊は氷像である。私が黙っていれば永久にバレない。


 他に大きな失敗と言えば、八股をかけて、スプラッタな修羅場に発展した件だろう。

 八股の一人が逆上し、私のお腹をナイフでざっくり刺したのだ。


 いやホント、あの時はもうダメかと思いましたね。何とか一命は取り止めたけど、ドバドバ流血してる自分に治癒魔法をかけまくるなんて、二度とやりたくない。

 八股かけた自分のせいだから、自業自得だけど。ええ。


 これらの経験から、私は深い教訓を得た。

 すなわち、「修羅場になったら一目散に逃げろ」。


 おかげで、刃傷沙汰は多少回避できるようになった。ただ、イケメンを追いかける性癖は治ってないので、根本的解決には至っていない。


 そういえば、イケメンにまつわる失敗談を笑い話として弟子に聞かせた所、「全ッ然笑えねえよバカ!!」とむちゃくちゃ怒られた。

 彼は反抗期の真っ最中だけど、あんなに怒るのも珍しい。根は良い子だし、おバカな師匠を本気で心配してくれたのだろう。反省しかない。


 そう、反省はするのだ。一応は。なのに……私の性癖は全く治る気配がない。

 反省はその場だけで、すぐに忘れる性格だからなのかな。ある意味、前向きと言えなくもない。


 そんな残念魔女が私、ローゼンヴェルデ・クロイライン。通称"氷花の魔女"。

 以上が、ざっくりした私の紹介だ。




 ──飛んで火に入る夏の虫のごとく、イケメンに吸い寄せられる私。

 どうしてこうなっちゃったんだろう……と、真面目に考えてみたことはある。


 私はいわゆる記憶喪失で、"魔女"になる前の──人間だった頃の記憶がない。気がついたらすでに"魔女"だった。

 いつ魔女になったかは不明。記憶がある分だけなら、魔女としてざっくり三百年は生きている。


 魔女の中には、延々続く人生に耐えきれず、精神を病んでしまう者がいる。私もそうなのだろうか。

 あるいは、記憶を失くす切欠の出来事とかに、何らかの影響を受けているか。

 どちらにせよ、どうにか心のバランスを取ろうとした結果、こうなっちゃった感は否めない。


 否めないけど──まあ、考えても仕方ないですよね!

 人生という旅に、恥はつきもの。

 長生きするほどに、恥ずかしい過去は積み上がっていく。それなら開き直らないとやってらんない。




 そんな事より。

 イケメンは癒し。明日を生きるための糧。

「イケ浴び隊」唯一のメンバーである私は、これからも粛々とイケメンを愛し続けていく所存だ。刺されない程度に。


 …………でもこれ、弟子に言ったら「いい加減にしろ!」と泣くまでド詰めされる案件ですよね。想像しただけで泣く。

 まあ、言わぬが花でしょう。「イケメン好き」は、一生治る気がしませんもん。


 あ、そういえば弟子にも誰にも言ってないことがもう一つありました。

 それは──最高で八股、彼女なしのイケメンを見るや即座に落としにかかる、とんでもない性悪属性の私だけど……


 実はキスもまだしたことがない、純情魔女だったりするのは秘密だ。

「純情ビッチ」みたいな渾名をつけられたら、さすがに恥ずかしくて外を歩けないですしね……!



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