作戦会議
フェイトと騎士団長達の戦いが終わった。
その後、あまり長い時間では無いにせよ
ちょっとした作戦会議を行なう事になる。
今回集まった理由は本来こっちだからな。
「では、本命の情報交換を行なおう。
お互いの対策案を発表としようか」
「だな」
「その前に、これを」
対策案の発表前に、ジュリアが全員分の資料を渡す。
資料には色々な絵が記されており
その絵に、細かい説明等が描かれていた。
どうやら、あの後ジュリアはデイズの描いた
設計図風の描き方を参考にしたみたいだな。
「ほぅ、スゲー出来だな」
「うん、自信作だから」
その資料を見て、ドリーズがまた悔しそうな表情を見せた。
「うぐぅ、分かりやすいのじゃ……流石としか言えぬ」
「ジュリアさんの得意分野でしょうしね。
そう悔しがらなくとも良いでしょう。
それに、私としてはドリーズさんの絵も
凄く可愛らしかったので、嫌ではありませんでしたわ」
「ま、まぁ、絵は良いんだけど……やっぱり字だよね」
「字は練習したのじゃ、ほれみよ!」
そう言って、ドリーズがフェイトに教わった字を見せる。
あまり綺麗な字では無いのだが、あの時と比べれば
かなり形が整っており、成長を感じる物になってる。
「ほぉ、あの時より随分と上達してるな」
「当然じゃ、努力したのじゃからな!
フェイトには本当に感謝するのじゃ!」
「まぁ、私も戦いの練習手伝って貰ってるし
これ位はお安いご用という奴よ。
でも、まだ下手よね、ここ、ここは真っ直ぐ」
そう言って、ドリーズの書いた文字の横に
しれっとお手本を書いて、細かく指導する。
まるで学校の先生みたいだな、フェイト。
「むむ、やはり主の字は綺麗じゃな」
「そりゃまぁ、字は良く書くし」
「こうか? これでどうじゃ?」
「駄目ね、最後に力を無駄に入れ過ぎてるから線が歪んでるわ。
力を入れすぎたら、線は歪んじゃうわ」
「うーむ、む、難しいのぅ」
騎士団長達の前で滅茶苦茶指導してるな、フェイト。
面倒見良すぎるなぁ、マジで学校の先生だ。
「……あいつは実は学校の先生に向いてるんじゃねぇのか?」
「多才すぎるよね、フェイト」
「えっと、文字の練習も良いのですが、あまり時間が」
「む! そうじゃな!
折角の時間を無駄にするのもよくない。
文字はまた、余裕がある時にマグナと共に
フェイトに教わるのじゃ」
そう言って、ドリーズは自分が書いた紙を折りたたんで
懐に戻した。今回は燃やさないらしい。
多分だが、後で参考にするつもりなんだろうな。
「こほん、では改めてこの資料を用いて説明しよう。
まず、アンデットの宴が発生した場合
主らは急いで市民の避難なり対処を行なうのじゃ。
無論、どちらにするにせよ、事情は市民に伝えるべきじゃ。
放置するにせよ、避難させるにせよ、アンデットの宴時は
太陽が暗闇に飲まれる。世界の終焉に近い光景となる。
事情を知らなければ、市民などは暴徒かしてしまうじゃろう。
そうなれば避難も何も無く、暴徒かした人間達が
誰かしらを殺すリスクがある。特に男じゃな」
そうだよなぁ、アンデットの宴が発生した場合の光景とか
そりゃ、何も知らない奴からしてみりゃ
世界の終焉にしか見えないもんなぁ。
そうなれば、破滅思想に囚われちまって
どうせ死ぬならで怨みを晴らすために男を殺すリスクがある。
「世界の終りだと誤解されれば、
最後に怨みを晴らそうとするかも知れぬ。
他の男共はマグナと違い貧弱じゃし、怨みも買っておろう。
じゃが、アンデットの宴で男が死ぬのは非常に不味い。
男のジョーカーとなれば、魔法も特殊能力も扱える。
更に肉体の爆発的な強化と重なれば、非常に厄介じゃ。
その為、男をどのように保護するかも重要となろう」
「確かにな、男は怨みを買いやすい。危機的状況に便乗し
男を殺そうとする奴は一定数生まれるだろう」
「ま、元々男達を避難所にってのは、中々リスクあるけどね。
色々な女の子達も集まってくるわけだし、その状況で
男達が暴走しないという保証も無いしね」
「……特に、ギルフェリーはリスクが大きいですわね」
ギルフェリーは人口の3割は確実に男を嫌がってるしな。
貧困層は総じて男嫌いだというのが間違いない。
そいつらと男を合わせるのはリスクでしか無いな。
「シャンデルナとバスロミアは何とかなりそうですが
ギルフェリー、ラングレー、ビスティックは危ないですよね」
「そうだね、まずシャンデルナは魔法で男を制圧できる。
バスロミアは男を制圧できるバルキュリー部隊がいる。
でも、ギルフェリー、ビスティックは個人能力はあまり高くない。
数が多くないと魔法を使える男に逆に制圧されるリスクがある。
そして、ラングレーは武器が特殊で何とかなるかもだけど
……そうだね、模擬弾を皆に配るようにしようかな」
「どう言う事だ?」
「ラングレーの技術をあなた達に貸し出すよ」
その言葉に、他の騎士団長達が反応した。
ラングレーの技術を貸し出すと言う事は銃を渡すと言うことだ。
それは、ラングレー的にはかなり勇気が要る選択だろうな。
「本気か? 分かってるだろうが、それは」
「あぁ、ラングレーの技術があなた達に渡るリスクがある。
でも、今はそんな事を言ってる場合じゃ無いからね。
どっちにせよ、銃と言う優位性が無くなるのも時間の問題だし」
バスロミアが銃を量産しようとしてるみたいだしな。
当然、シャナが指揮をするバスロミアは銃器の重要性に
即座に勘付き、研究をしてただろうしな。
ビスティックもそうだろうが、バスロミアには劣るだろう。
「銃と言う優位性を最悪失うとしても」
「私達のやるべき事は市民の安全を守ることだからね。
ここを妥協することは許されない。
国益を優先して、大事な物を見失う訳にはいかない。
国王様を説得して、何とか通してみようと思うよ」
「ふむ、当然じゃな、国益を見て国を滅ぼしては意味が無い。
じゃが、ラングレーだけが不利益なのは良くないと思うがのぅ?」
そんな風に言いながら、ドリーズは周囲の騎士団長達を見た。
「……そうですね、シャンデルナも動きましょう」
「え!?」
「魔法の情報を公開するように働きかけます」
「な!?」
リーデルフォンの言葉で一斉に騎士団長達が反応する。
これもかなり度胸が居る事だろうな。
シャンデルナ最大の武器だ、魔法って言う技術はな。
「そ、それは!」
「元より、シャンデルナ様は魔法を一般の方々に共有したい。
そう思い、魔法の技術を研究し、シャンデルナに広めてくださった。
シャンデルナ様の意思を尊重するのであれば
他国の方々にも魔法を共有するのは当然です」
「……そうか、俺達も何かやった方が良いな」
「そうですわね……」
とは言え、特殊な技術があるって訳じゃ無いしな。
シャンデルナは魔法、ラングレーは銃器。
ビスティックは軍事力、ギルフェリーは資源力。
そんで、バスロミアは国土だからな。
シャンデルナやラングレーに対して出せる物は無い。
だが、バスロミアに何かを求める事は他国は出来ない。
ゴブリンアーミーを無事に切り抜けることが出来たのは
間違いなくバスロミアのお陰だからな。
「まぁ、そう言うまどろっこしいのは後で良いだろ。
貸し借りとかはまぁ後で、今はアンデットの宴を切り抜ける事だ。
だから、それは後で考えりゃ良いだろ」
「その通りじゃ、貸し借りなど、どうでも良い。そもそもじゃ
主らが借りを返すべき相手は儂らじゃろう?
儂らへの返しはこのアンデットの宴を無事に切り抜けること。
その為に主らは全力を尽くさなければならぬ。
情報の独占や技術の占領は愚行じゃ」
「えぇ、分かってます」
「うん、理解してるよ」
とは言え、一気に状況が急変することは無いだろうな。
シャンデルナにはジュリアの様な
魔法の研究が大好きな研究者が沢山居る。
なら当然、魔法の技術を進めるのはシャンデルナだろう。
そして、ラングレーも同じ様な事だ。
恐らく銃器の資源を1番確保出来る国がラングレーだし
その技術を1番進化させられるのもラングレーだ。
だから、情報が多少広がった程度で周囲の国々が
一気にラングレーの技術に匹敵することはねぇだろう。
「それに、元々争ってるわけでも無いしね。
戦争するわけでも無いんだ、情報共有して
技術の進歩を促すのも大事だろうしね」
「えぇ、他国にまだ見ぬ魔法の才を持った人達も多い
その様な人達を見付ける事が出来れば
魔法の研究も捗るという物です」
「そうだね、色々な可能性の考察が広がる!
情報は大いに越したことは無い。
それに、魔法ギルドを広げる良い機会だし!」
「ですが、いつか必ず借りは返しますわ」
「あぁ、借りっぱなしは癪だしな」
「うん、必ず君達の行動に報いてみせるよ。
ジーニス、リーデルフォン」
2人は良い笑顔を見せる。まずは上を説得する。
そんな雰囲気を2人から感じた。
市民を守る、騎士としての表情だな。
やっぱり騎士団長と言う立場に立ってるだけはあるな。




