後半戦
昼飯を食って、後半戦が開始された。
「あのやり取りの後だと、少し萎縮しますわね」
「まぁ、フェイトにとっての壁だからよ
あまり気にしないで良いだろう」
「はい、私は少しずつでも確実に成長したい。
いつかマグナを越えるために」
「本当にあなたは向上心という部分さえ
シャナに似ていますわね」
フェイトの言葉を聞いたイリスが
少しだけ笑顔を見せる。
実際、俺に挑もうとしてるのは
今の所、シャナとフェイトの2人だけだ。
ドリーズでさえ、俺に勝つことは諦めてる。
それなのに挑もうとするのはマジで凄いな。
「本当にあやつはシャナとよく似ておるのぅ。
向上心がそのまま歩いてる様じゃな。
実に良いとは思うが
マグナに勝つのは無理じゃぞ」
「断言しないで!」
こんな風に、向上心の塊であるドリーズさえ
俺に勝つのは無理って断言するレベルだからな。
「ふふ、しかし挑戦も良い物ですわ。
私にはそこまでの向上心は難しいですが
あなたの挑戦に興味はありますの。
ですので、私と言う壁を少し体験してくださいな」
「はい、イリスさん!」
そんなやり取りの後、勝負が始まる。
イリスの武器はアースと同じで槍と盾。
実際、色々な武器を使ってる騎士達の中でも
ギルフェリーは槍と弓兵しか居ないからな。
戦争では対策されたら厄介になるだろうが
魔物相手であれば統率を取りやすく
かつ、確実に国を守るのであれば丁度良い。
前衛で足止めし、後衛で削るのは戦いの定石だしな。
「イリスさんは守り特化……
攻撃はカウンターがメイン。
そう考えると、私との相性は悪い」
「そうですわね」
相性が悪いイリスを相手にフェイトは攻めるのを躊躇ってる。
実際、スピード特化のフェイトに取って
カウンターを主体にする相手は不利だろう。
アースとの戦いではあちらはフェイトの速度には
決してついていくことが出来なかった。
その為、攻撃をしても相手の虚を付けていた訳だ。
だが、イリスは騎士団長だ。
今まで見てきた騎士団長の強さから考えても
その連中に挑もうとしてたイリスが弱いわけがない。
「しかし、攻めなければ状況は動きませんわよ?」
「そうですね……だから!」
攻め方を決めたであろうフェイトが短刀を投げた。
即座にイリスはその攻撃を軽く捌いた。
同時にフェイトは駆け出す。
「ここ!」
「甘いですわ!」
「うぐ!」
攻撃を仕掛けたフェイトの剣を盾で流したな。
そして、隙を晒したフェイトへ槍が伸びる。
「いえ! まだです!」
だが、フェイトはもう1本の剣を用いて
イリスの攻撃を何とか捌いた。
流されるのを想定していたからなのか
あまり流されたときにバランスを崩さなかったからな。
何とか対処することが出来たって事か。
「ほぅ、二刀流ですのね」
「はい、あなたに勝つには手数しか無い!」
基本的に剣1本で戦うフェイトではあるが
守りに秀でてるイリスを相手にして勝つには
手数で勝負するしか無いと判断したらしい。
恐らく何度も攻撃を仕掛け、隙を作るつもりだ。
「だから、このまま攻撃!」
「ふふ、そう易々とは崩されませんわよ!」
そのままフェイトはイリス相手に連続攻撃を仕掛ける。
だが、守りに秀でてるイリスはその攻撃を捌く。
死角を付いた攻撃も全て対処してるな。
まさに攻撃に傾倒した攻めに攻める攻撃。
イリスはその攻撃を防ぐ事を楽しんでる様子だ。
「あの手数を捌くのは流石だな」
「だね、フェイトの攻撃が甘いわけじゃ無い。
かなり鋭いし、死角も狙ってる。
それでも盾で視界を塞がれないように動いてる」
「副騎士団長の方はすぐに死角を作られたのになぁ」
「う……すみません」
やはりイリスの防御能力はアースの比じゃねぇな。
アースだったら何度も死角を突かれていただろう。
「さてフェイト、そろそろ動かしますわよ?」
「く、うわ!」
フェイトの攻撃に完璧に合わせて盾を振った。
完璧に合わされたフェイトは大きくバランスを崩す。
そこをイリスが槍を突き上げての攻撃。
「くぅ!」
だが、フェイトはその攻撃をギリギリで回避。
しかし、このままだと転落してしまうだろう。
それを察したフェイトはそのまま体勢を大きく崩す。
「なら!」
そして、バク転を用いての反撃を試みる。
狙いはイリスの顔なんだろうけど。
「良い判断ですわね」
だが、フェイトの反撃をイリスは澄ました顔で避ける。
「くぅ!」
「さぁ、これはどうします!?」
そして、一歩踏み込んでからの
槍を大きく振り回しての2重カウンター。
「きゃぅ!」
だが、そこはフェイト、2重カウンターに反応し
ギリギリで剣でその攻撃を防ぐが
「あ!」
力があまり入らなかったのだろう。
右手で握ってた剣が手元から離れた。
だが、一瞬受け止めたお陰なのか
ギリギリイリスの射程から身を翻しながら離れる。
その間に剣を両手に構えていた。
「まだまだぁ!」
2重カウンターで大きな隙を晒したと判断したフェイトは
即座に接近して反撃を狙った。
「いえ、甘いですわよフェイト!」
「な!?」
だが、3発目の振り回し。大きな攻撃を仕掛けて
結構な隙が出来ていたと思われてたイリスだが
そのまま槍を強く握り、反撃とフェイトに仕掛ける。
「くぅ!」
ギリギリ、フェイトは3発目を避けた。
大きくバランスを崩しそうになるが踏みとどまり
一気に再度接近して仕掛ける。
「今ならいける!」
勝負を決めようと振り回した一撃だった。
「私が何を得意とするか、お忘れですの?」
「な!? うそ!」
カウンターは無いと踏んでの攻撃だったからなのだろう。
全力で振われた攻撃はあっさりとイリスに流されて
再び明らかに大きな隙をフェイトが晒した。
「はぁ!」
「はぐ!」
そして、トドメのカウンターを喰らった。
「ふふ、私の勝ちですわね!」
「う、うぅ……負けました、イリスさん。
凄い防御能力ですね」
「それが私の誇りですので」
ほぉ、終始フェイトを圧倒した防御能力だな。
やっぱりフェイトにはスピードが足りないな。
「大したもんだな、あの防御能力は流石だ。
フェイトの攻撃を全て完璧に防ぐなんてな」
「無論ですわ、防御において
私は一切の妥協はありませんの」
「ふむ、騎士団長達は得意の方向性が違うのぅ。
そしてフェイトに足りぬ物が明らかに分かる」
「あぁ、良い経験かもな」
そして、次の試合はジーニスとフェイト。
「さ、フェイト。悪いけど私はすぐに終わらせるよ?
4発で倒すから」
「いえ、12発撃たせて勝ちます!」
銃と剣、相性は確実にジーニスの方が上。
だか、距離がかなり近いからな。
接近戦闘になったらどうする気なんだろうか。
ジーニスの強さってのは早撃ちだったか?
今回、フェイトが持ってるのは短刀だった。
明らかに接近戦に持ち込むためだな。
投げて接近するつもりなのだろう。
そりゃな、生身で近付いたら確実に撃たれる。
銃が撃たれて避ける事は不可能だろう。
だから、遠距離攻撃を仕掛けるしかない。
逆にジーニスは拳銃を1本だけ。
2挺拳銃が本命だったらしいが手加減してるな。
「行きます!」
試合が始まり、フェイトが短刀を10本投げる。
「甘いね!」
「くぁ!」
宣言通り一瞬だったな。
自分に当るであろう短刀を3発で撃ち落とし
即座に出来た空間を通してフェイトを撃った。
「はい、宣言通り4発」
そして、投げられた短刀を全て避けた。
「う、うぅ……近付くことすら出来なかった」
「銃って卑怯だと思いますわ」
「あぁ、卑怯だと思うな、魔法もだが」
「得意で挑むのは当然でしょ?」
帽子を銃口で少しだけ上げてウインクを見せた。
「まぁあれは仕方あるまい。
人間ではあの速度は反応出来ぬじゃろうしな」
「シャナだったらどうするんだ?」
「そうですね、引き金を引く瞬間に
相手が狙ってる場所から動いて避けます」
「不意打ちなら?」
「殺気を感じて避けるだけですね」
「シャナなら出来るって言う安心感があるなぁ
見えないゴブリンに気付いてたしね……あはは」
色々な意味で、やっぱりシャナが最強なんだなぁ。
実際、シャナの強さはかなり上だもんな。
「さ、そんじゃ大本命だ」
「そうだな。フェイト、君と戦うのは久し振りだね」
「は、はい、シャナさん!」
フェイトの表情が明らかに明るくなった。
憧れを前に喜びを見せてる子どもの様だった。
フェイトに取って、シャナは1番憧れてる相手だ。
その相手に挑めるのは本当に嬉しいんだろう。
そりゃ、他の騎士団長達にも憧れてたのはそうだが
やっぱり1番憧れてるのはシャナなんだろう。
フェイトの戦い方を見れば分かるよな。




