5つの壁
「さ、まずは誰が相手かな?」
「副騎士団長が倒された順番はどうだ?」
「なら、最初はリーデルフォンか?」
「分かりました」
意外とリーデルフォンもこの座興に乗るらしい。
倒された順ってなると
まずはリンを最初に倒してたから
最初はリーデルフォン。
次はアートスだったな。
と言う事はシャーリス。
その後はアースを倒してたから
イリスと戦う事になって
最後はカイスだったから
4番目にはジーニスと戦うのか。
恐らくだが最後はシャナだな。
「それぞれ、挑める時間は20分。
それなら、全員と戦えるんじゃ無いか?」
「はい、20分以内に攻撃を与えたら良いんですか?」
「あぁ、それで良い。
ただし、その間に完全に負けたと言う状況になったら
その戦いは負けたって事で、次だ」
「はい、分かりました!」
リーデルフォンを前にしてフェイトが剣を構えた。
当然だが真剣では無い、摸造刀だ。
ただの模擬戦で真剣は不味いからな。
「それではフェイトさん。まずは先鋒として私が。
私が得意なのは特殊属性魔法。
その中でも防御が最も得意なのは承知してますね?」
「はい、リーデルフォンさんの特殊属性魔法は
シャンデルナ様に匹敵するのも聞いてます」
「えぇ、当然ですが壁を張るだけでは味気ない。
なので、今回は小規模の壁を展開して立ち回ります」
「はい!」
リーデルフォンが得意なのは特殊属性魔法。
その才能はかなりあるんだろうが
流石にシルフレベルでは無いんだろうな。
シルフは城を1つまるっと守れるレベルだが
リーデルフォンはどれ位なんだろうな。
「騎士団長の防御魔法は本気であれば
家を1つまるっと覆えるくらいはあるけど
それを小さくして防ぐんだ。
そんな所、あまり見たこと無いかも」
「当然じゃな、壁を張って防ぐだけでは味気ない」
「行きますよ! リーデルフォンさん!」
「えぇ、どうぞ」
フェイトは合図と同時に一気に間合いを詰める。
かなりの速度ではあるが、リーデルフォンは
フェイトの攻撃に視線を動かすだけ。
「うぅ!」
攻撃を仕掛けたフェイトだが、壁に阻まれて届かない。
全体に防御を張ってるわけでは無いな、一部だけだ。
「空中で止まったな、あれが防御魔法か」
「相変わらず、インチキ臭いですわね、魔法なんて」
「反撃もしますよ、フェイトさん」
「っと!」
防がれて少し動揺してるフェイトに向けて
即座に攻撃を仕掛けた。
驚きながらもフェイトはその攻撃を避けて
即座にリーデルフォンの背後に回り斬りかかった。
「後ろも駄目!」
「えぇ、何処に攻撃が来るかを
あらかじめ予想すれば問題はありませんよ」
背後の攻撃を防がれてすぐに再び攻撃が伸びる。
「く!」
副騎士団長達との戦いでは無傷だったフェイトだが
今回のリーデルフォンの攻撃は当った様だ。
「な! 当ったのか!?」
「フェイトは剣には当ってない筈ですが」
「避けたはずなのに……でも、これってまさか」
「見えない壁を張れると言う事は
見えない武器も用意できると思いませんか?」
「凄い! 防御魔法の応用だ……
守ることに特化してる防御魔法だけど
その防御魔法を武器に付与して
リーチを伸ばしたんだ」
「ほぅ、面白い扱い方が出来るのじゃなぁ」
あまり接近戦は得意じゃねぇって言ってたが
実際は結構切れ者なんだな。
だが、そんな事が出来るなら当然アリだな。
防御魔法は透明だ。よく見れば見えるが
即興で見抜いてリーチを把握するのはキツいだろう。
特にフェイトは即座に反撃に移れるように
攻撃はギリギリで避けるように立ち回ってる。
そんなフェイト相手にこの見えない攻撃は効果的だな。
「やっぱり騎士団長の戦いに関する発想は凄いや」
「防御魔法によるリーチの変更……」
「フェイトには天敵になり得ますね」
「……流石ですね、リーデルフォンさん。
でも、私だって負けませんとも!」
攻撃を受けてもすぐに起き上がり即座に接近する。
「な!」
だが、今度は武器を振う事が出来てない。
ありゃ、フェイトの腕付近に防御魔法を張ったな。
「防御魔法は器用に使えば色々と応用が出来ますよ」
「は! いった!」
腕が途中で止まったことで動揺したフェイトに
リーデルフォンの攻撃が当る。
「戦いは苦手とか言っておきながら
フェイトに2発ぶち込むとは流石だな」
「本当に便利ですわね、防御魔法」
「正確には特殊属性魔法ですがね」
「……防御の魔法、頑張って見る」
「だな、あそこまで自在に防御魔法を出せたら
かなーり色々と出来そうだもんなぁ」
とは言え、流石に無制限には出せないんだろうな。
自分の周りには展開できるって所か。
そうじゃねぇと、ゴブリンアーミーで死傷者は出ねぇ。
「しかしのぅ、魔法に頼り切った立ち回りと言える」
「自分に出来る事を最大限に鍛えてるんだし
お前的には問題無いんじゃねぇのか?」
「うむ、奴個人には。しかし問題は部下じゃな。
騎士団長の絶対的な強さを前にして
魔法だからと逃げ道を作られてしまう。
勝てないと諦める、才能だからとのぅ。
じゃが、フェイトは勝つつもりじゃな」
かなり翻弄されてるフェイトではあるが
まだ戦う気力は失ってない。
ここからどうするつもりなんだろうな。
「細かい防御魔法……でも!」
そう呟き、フェイトが短刀を取りだして投げる。
当然だが、リーデルフォンはその攻撃を防御魔法で凌ぐ。
「うし!」
即座にフェイトが動き出した。
フェイトは手を伸ばしながら掛けるが
防御魔法でフェイトは止められる。
だが、フェイトは展開された防御魔法を掴んだ。
「お?」
「そして!」
「おっと!」
リーデルフォンの視線が防御魔法を掴んだ
自分の手に向いてすぐに短刀を投げた。
視線をそっちに誘導しての不意を突いた攻撃。
防御魔法を広く展開するわけでは無く
細かく展開すると宣言されてたからだな。
リーデルフォンの視線誘導からの奇襲攻撃。
シャナが仕掛けてきた奇襲だ。
だが、流石は騎士団長なだけはある。
ギリギリでフェイトの攻撃に気が付き
防御の魔法でその攻撃を防いでいた。
「うりゃぁ!」
「ん!?」
見抜かれたときの作戦も考えてたみたいだな。
リーデルフォンが投げられた短刀に意思を向けてすぐ
掴んでいた防御魔法を足場にして飛び上がり
完全に上空から攻撃を仕掛けた。
これも反応が少し遅れた訳だが
「凄いですね、フェイトさん」
「な!」
魔法の展開速度が非常に速いリーデルフォン相手では
その攻撃に気付かれた地点で仕舞いだった。
速攻に発生した防御の魔法に防がれ
フェイトの摸造刀はへし折れた。
それだけで無く、フェイトはその防御魔法に着地させられる。
「うぇ!?」
予想と違うところで着地させられたことで
少しバランスを崩したフェイト。
「へ!?」
更にバランスを崩した所に足場が消えたのだろう。
よりバランスを崩したフェイトが驚きながら地面に落下。
何とか受け身を取ったが、
フェイトの首元にリーデルフォンが摸造刀を向けた。
「私の勝ちですね、フェイトさん」
「……流石ですね、リーデルフォンさん。
私もまだまだだなぁ、空中戦は失敗しました」
少し悔しそうな表情を見せてるフェイトだが
この敗北には仕方ないと納得してるのだろう。
少し満足げな笑みを見せていた。
だが、悔しそうな表情は当然ある。
「あれが防御魔法か。色々と出来るんだな」
「うん、見事としか言えないね。
飛び上がったフェイトの動きを見た感じ
あれ、足下に防御魔法を張って
無理矢理フェイト着地させた感じでしょ?」
「えぇ、一瞬不自然にフェイトが空中に立ちましたしね。
そのまますぐに落ちた所から考えても
即座に足場を消して落下させたと」
「完全にフェイト特攻の立ち回りだな。
高速戦闘の天敵と言えるかな」
1回目は危なげなくリーデルフォンの勝利。
そして、二戦目。
フェイトは少し呼吸を整えて構え直した。
「じゃぁ、次は俺だな」
嬉しそうに今度はシャーリスがやって来た。
シャーリスは大剣を扱うのが得意らしい。
剣技でもフェイトとは互角らしいが
「大剣ですか?」
「あぁ、俺が普段使ってるのはこいつだからな」
「フェイトとの相性は悪そうだが」
「全力でぶつかるんだ、本気の方が良いだろ?」
「……はい! 相性が良いからと言っても油断はしません」
「あぁ、それで良い。俺達は甘い相手じゃねぇからな」
その言葉の後に、フェイトがいつも通りに構える。
シャーリスも大剣を構えた。
「行きます!」
やはり最初に動いたのはフェイトだった。
スピード特化の戦いを得意とするフェイトだしな。
当然、先に動いて主導権を握ろうとする。
「はん」
「うわ!」
だが、フェイトがどう来るかをすぐに分かってたのだろう。
シャーリスは素早く大剣を振いフェイトを狙う。
まさかの速度で動揺しながらも大剣を避けたが。
「スピードが消えちゃ持ち味行かせないぞ?」
「くぅ!」
速度を一旦殺したことで
すぐに動くのが遅れていたフェイトに
かなりの瞬発力を持って一気に接近した。
全体的な移動速度はフェイトの方に軍配が上がるだろうが
瞬発力だけなら、シャーリスの方が上だな。
「良く防いだな、流石だ」
「く、くぅ!」
シャーリスの拳による攻撃を何とか防いだフェイトだが
力に押されているのが表情からも分かる。
拳を使うんだな。相手が剣だったらどうするんだ?
とか思ったが、籠手があるから関係無いのか。
「へ、俺の片腕相手に両手ってのはどうなんだ?
まだまだ鍛え方が甘いな! フェイト!」
「は! あっぶな!」
そのまま片手で大剣を持ち上げてフェイトに振り下ろす。
焦りながらもフェイトは何とかその大剣を避けたが。
「ほら、避けられるか?」
「は、あぐぁ!」
そのまま一気に動いたシャーリスがフェイトの腹に
かなり強烈な一撃を叩き込んだ。
「ケホ! ケホ!」
「これで終りじゃ!」
「ケホ……ッ!?」
「ねぇよなぁ!」
腹を殴られてかなり悶えてるフェイトに向って
両手で握られた大剣が振り下ろされた。
「はは! そうこねぇとな!」
だが、フェイトはギリギリでその攻撃を避ける。
あれはかなり手加減してるな。
あの場面、確実にフェイトに叩き込むなら
縦に振り下ろすんじゃ無く、横に振れば良かった。
とは言え、まだフェイトとの戦いが楽しみたいからだろう。
あえて避けやすい方で攻撃したって事だな。
「かなりのパワータイプというのがよく分かるのぅ」
「スピードもかなりあるしな」
シャーリスは正直、あの大剣に目が行くが
本命は瞬発力なのはよく分かるな。
後は、多分普段はもっと荒々しい戦い方なんだろう。
副騎士団長達とフェイトが戦ってた戦場の様に
武器とかが散らかってる状況のが強い。
しかしなぁ、戦い方はかなりバーサーカーだが
あれで軍事国家の騎士団長なのを考えると
絶対に統率能力にも秀でてるだろうな。
「クク、しかし騎士団長というのは
人にしては強い者が多いのぅ。
フェイトを圧倒するとは流石じゃ」
「まぁ、向こうも負けるわけには行かないだろうしな」
「負けません、負けませんよ!」
「あぁそうだ! 勝つ気で来ねぇと面白くねぇ!」
自分に憧れてる見込みのある相手を前に
大人しく負けるってのは嫌だろうしな。
「瞬発力でも勝てないし、力でも勝てない。
短刀による攻撃も無い。
絶対に避けられるし効果がないから……
だから、私がするべき事は1つ!」
一気に再び接近。即座に振われる攻撃。
今回は最初の攻防もあり、相手の攻撃速度を見誤る事も無く
攻撃を何とか避けての追撃を仕掛ける。
「スピードで勝負か」
「えぇ、そこでしか敵わない!」
「良いね! 自分の得意で全力で挑む! そうこねぇと!」
だが、フェイトの攻撃は全部避けられてる。
反撃を受けないように動いては居るが
確実にいつか捕らえられるな。
当然、フェイトもそれは理解してるだろう。
多分だがその時だな。その時に仕掛ける気だ。
「流石の速さだが、単純な動きだけじゃ!」
「分かってますとも!」
反撃に転じてきた攻撃を避けてのカウンター。
「当れぇ!」
「へ、勝負を焦ったな」
「あぎゅ!」
だがまぁ、その攻撃を完全に予想されてたな。
速攻で攻撃を避けられて
フェイトの腹に容赦ない膝打ちが入った。
「あ、あぐ……」
腹を押さえながらうずくまるフェイト。
当然だが、この隙だらけの状況ならやられる。
「やっぱりお前は最後、カウンターを狙う癖があるな。
いや、間違った判断じゃねぇぞ?
シャナが得意な立ち回りだしな。
だが、シャナと違ってスピードと視線誘導が甘ぇ。
そんなんじゃ、狙ってますって言ってるようなもんだ。
対策されるのは当然だろ?」
フェイトの立ち回りはシャナの立ち回りを参考にしてるしな。
しかしそうか、シャナは反撃を良く狙うんだな。
俺と戦った時は反撃よりは攻撃を狙ってた訳だが
俺を怪我させないで無力化するには
それが最善と判断したんだろう。
「はぁ、はぁ、や、やっぱりまだ駄目ですね……
でも、諦めない……いつか、絶対に越えます……」
「あぁ、いつでも挑んでこい。
ま、今は一旦休憩だな」
「仕方ありませんわね。
しかし、シャーリス。
流石にやり過ぎですわよ? 腹部に攻撃など。
もしも当り所が悪ければ、フェイトの体に障害が」
「いや、かなり手加減したって」
「パワータイプの手加減は手加減なのか怪しいですわ」
「まぁ、フェイトも覚悟してるって。
私達に挑むって決めたのはフェイトなんだから」
「は、はい、イリスさん。
心配してくれてありがとうございます。
ケホ、で、でも……覚悟はしてます。痛い位当然。
誰よりも強くなる為に、私は痛みなんかに負けない……」
「……良い決意ですわ。ですが、今は休憩ですの。
私としても、万全なあなたと戦いたいので」
「わ、分かりました」
フェイトのハッキリとした熱意を見た騎士団長達は
フェイトに向けて、かなりの期待の眼差しを向ける。
副騎士団長達はフェイトに尊敬の視線を向けていた。
「……フェイト、本当に凄いや」
「うん、凄く痛そうなのに消えてない覇気。
やっぱり凄いわね、フェイトちゃん!
私はそんなフェイトちゃんに憧れたの」
「私もだね、あの瞳に、そしてあの優しさに。
……私も頑張るよ」
「私も頑張るわよー!」
フェイトが必死に頑張ってる姿を見て
ミントとデイズも嬉しそうにしてる。
ジュリアはフェイトに尊敬の念を向けてるのも分かった。
「絶対に使える様になるよ、フェイトさん」
「あぁ、俺もそう思う」
だが、まずは休憩だな。
ふふ、今日はかなり有意義になりそうだ。




