両親の記憶
デイズが鎧を作ってる音が聞える。
警鐘では無い大きな音が聞えるってのも
案外悪くないって気がするな。
さて、ジュリアは資料とかの整理中。
ミントは料理を作ってる最中で
フェイトはいつも通り訓練場だろう。
で、シルフは俺の背中に抱きついたまま。
さてさて、俺は何をするべきかねぇ。
「にーに、聞きたいことがあるの」
「何だ?」
「……お父さんとお母さんって
どんな人だったの?」
そうだよな、シルフは両親の事は全く知らねぇ。
そりゃそうだろう、父さんはシルフが
母さんの腹の中に居るときに
母さんを庇って命を落としちまってた。
そして、母さんはシルフを産むと同時に死んだ。
シルフは一切両親の事を知らない。
今まではシルフが辛い思いをするだろうからと思って
父さん母さんの事をシルフに話した事は無かった。
だが、今度起こるであろうアンデットの宴。
それでは父さんも母さんも目を覚ましちまう。
それも、確実に死ぬ前の美しい姿で。
だが、その姿と中身は決して父さん母さんでは無い。
アンデットの宴で生まれる、ただそっくりな偽物。
「……そうだな、そろそろ教えてあげないとな」
「うん、知りたいの」
「あぁ……じゃあ、まずは父さんから話そう。
父さんは凄く優しい人でな。家族の事が大好きだったんだ。
村でも唯一の男として、ずっと頑張ってた。
畑仕事も得意でな、いつもニコニコ笑ってたよ」
「にーに見たいに?」
「そうだなぁ、もしかしたら俺よりも明るい笑顔だったかもな。
どんな時もニコニコとしててな。
俺もまぁ、そんな父さんの事を尊敬してた。
まぁ、小さいときから俺は父さんより強かったが
所詮は力だけでな、心は今でも父さんにゃ劣る」
俺の父さんは本当に良い人だったとしか言えない。
料理も出来ないし、炊事洗濯も出来なかったのはそうだが
それでも自分に出来る事を頑張ってやろうとしてたしな。
感謝の言葉も忘れなかったし、周りを見下すこともねぇ。
周りもそんな父さんのことは気に入ってたし
特に畑仕事を父さんはよくやってたからな。
村に危機が及んだときも父さんは自分で向ってた。
正直、俺がでた方が楽なのは父さんも承知だったろうが
子供に危ねぇ事はさせたくないって言ってたな。
だが、あん時……森で散歩してた時だな。
その日は母さんも調子が良かったようで
久々に外を歩きたいって言ってた。
だからまぁ、安全な森の中を散歩してた。
しかしだ、そん時に運が悪い事に魔物の襲撃。
俺は父さんの指示で村の安全確保に走った。
そりゃな、俺の方が移動速度が速いわけで
火急に村の安否を探るなら俺が適任だ。
で、村の襲撃を仕掛けてきた魔物を排除して
さっさと合流しようとしたら父さんが
母さんを庇って腹を貫かれてた。
その後は良く覚えちゃ居ない。
気付いたら俺の目の前には首無し死体が転がって
そのまま消え去ったって訳だ。
「……父さんは、ヤベぇ時も村人を第一に考えてな。
でも当然、俺達家族の事も大事にしてた。
でもな、流石に病気には勝てないよな」
「……にーにでも病気には勝てないの?」
「うーん、病気ってのは自分の問題になるからな。
俺なら勝てるかも知れないけど、
父さんは流石に俺ほどには頑丈じゃ無かったからな。
まぁ、俺が頑丈すぎるだけで
父さんも滅茶苦茶凄いんだけどよ」
俺は転生して病気になったことは無いからな。
この肉体で病気も払いのけられるのかどうか
そりゃ分からないが、今は払いのけてる。
老いたらどうなるのかは知らないが
そんときゃそん時だ。また何億年も
あの地獄で焼かれるのはごめんだが
ご褒美があるってなら頑張れるってもんだ。
「あ、因みにな、シルフの白い髪の毛は
父さんとお揃いなんだぜ?」
「そうなんだ、お母さんは?」
「兄ちゃんみたいな黒い髪の毛だ。
因みに母さんは獣人種じゃ無かったな。
だから、獣人種は父さんの影響かな」
あの村に住むのは獣人種ばかりだった訳じゃねぇが。
婆さんと爺さんは獣の耳が生えてたわけだから
父さんは純血の獣人種だったって言えるのか?
あの村の爺さん婆さんは父さんの両親だしな。
母さんの両親は結局分からなかった。
母さんが言うには母親が有名人すぎて
知り合いが少ない場所が良いと思ったのと
父さんに一目惚れしたから結婚したとか言ってたな。
魔法を使えてたって考えると
シャンデルナ出身だったり? とか思うけど
詳しくは教えてくれなかったな。
「この耳はお父さんと同じ、髪の毛もお父さん……
お母さんと私は何処が似てたのかな」
「そうだなぁ、優しい所と炊事洗濯全部が出来る事と
頑張り屋さんで誰かを助けてあげようとするところ。
後、甘えん坊な所も似てるかも知れないなぁ。
後はシルフは美人だし、そこも似てるって感じかな」
シルフが母さんに似ているのだと考えれば
将来、シルフも胸が大きくなるのかも知れねぇなぁ。
母さんも結構大きかったし、少し今も成長してる。
大きくなったシルフ用のブラジャー用意した方が良いか?
いや、気が早すぎるな。
まぁ、そん時が来たらミントにお願いしてみるか。
「美人さん……私が?」
「あぁ、滅茶苦茶美人だぜ!」
「……あ、ありがとう」
少しだけ頬を赤らめてお礼を言ってくれた。
やっぱり可愛いところ多いよな、シルフって。
「じゃあ、この流れで母さんの話をしようか」
「うん」
「母さんはな、結構面倒くさがり屋だった部分があったんだ。
父さんや俺に美味しい料理を用意するために
頑張ってたのは間違いないんだけど
そこ以外は、結構面倒くさがり屋でな。
家事をする時以外は魔法を使って物を運んだり
魔法を料理に応用すれば楽なのでは? とか言ってたり」
「あ、もしかして」
「そう、シルフが魔法を応用して色々やってたけど
母さんも結構近いことしてたんだよな」
「あ、だからにーに、すぐに分かったの?」
「あぁ、そうだな」
今考えてみると、やっぱり似てるよなそこら辺。
魔法を色々と応用して家事を熟してみるの。
まぁ、理由はシルフと母さんで違うけど。
母さんは楽したいから魔法を応用しようとしてたが
シルフは俺に美味しい料理をが理由だったしな。
やっぱり料理に関してはミントが居る訳だから
母さんよりもシルフの方が真摯に向き合ったのかも知れない。
やっぱり料理を楽しんでる人を見てたら
料理は楽しい事だって学ぶだろうしな。
やっぱり誰と付き合うかってのは大事だと分かる。
本当、フェイトと出会えてマジで良かったよ。
シルフの教育的にもフェイトと出会えたのは
本当に喜ばしいことだったしな。
俺以外の誰かと交流できるようになったのは
間違いなくシルフの成長に繋がるだろうしな。
「そうなんだ……お母さんと同じ……えへへ」
少しだけ嬉しかったのだろう。
シルフが自分の掌を見ながら、小さく笑った。
自分の行動が顔も知らない母親と同じ行動だった訳だ。
そりゃ、こんな風に嬉しい気持ちにもなる。
「だから、シルフは母さんにもそっくりなんだ」
「……にーにもお父さんとお母さんとそっくりなんだ」
「あぁ、当然だろ? 俺達は家族だからな」
「うん!」
嬉しそうに頷いたシルフだったがすぐに表情が変わる。
両親の事を少し知れて、自分達が似ていると分かって
嬉しかった気持ちもあるだろうが
そんな両親の事を何も知らないし顔も見たことが無い。
そう思うと、やはり暗い気持ちになるのだろう。
更にはこれから、アンデッドになった両親と会うことになる。
だが、乗り越える事だって出来るはずだ。
ドリーズの話では父さん母さんのアンデッドは
2人にただそっくりなだけの偽物。
周囲に害しか振りまかない偽物。
でも、本物の父さん母さんは優しいと
シルフは俺を通してだが知ることが出来たんだ。
だが、無理強いはしない。
シルフが戦いたくないと思うのであれば
俺はシルフをフェイト達に預けて2人を止めに行く。
「……にーに」
「シルフ、改めて言うが、無理に戦う必要は無いぞ?
父さん母さんの姿をしたアンデッドと戦う事になる。
そして、その2人を倒さないといけないんだ。
所詮は偽物だが、容姿はお前が会いたかった
お父さんお母さんその物なんだからな。
それに、俺達を育ててくれた婆さんの偽物も
お前が遭った事が無い爺さんの偽物も居るんだからな」
「にーには行くんだよね?」
「あぁ、偽物でも父さん母さん、
爺さん婆さんの姿をした奴らが
周囲を傷付ける様なんて見たく無いからな。
皆だって絶対に嫌だろう。だから、必ず止める」
俺達がやるしか無いからな、あの2人は特に。
爺さん婆さんは年老いて命を落としているから
蘇っても肉体的には衰えているだろう。
だから、俺達以外でもどうにかなるかも知れない。
だが、父さん母さんは違う。
あの時の話を考えてみれば、父さんは肉体的にも
かなり強かったのは間違いないだろう。
それが強化されてる状態なのだから
俺かドリーズじゃないとどうしようもねぇ。
更には母さんだ、魔法まで使えると言う事は
母さんの能力はかなりぶっ飛んでるのは間違いない。
魔法の才能は母親から遺伝すると言うのだから
化け物染みた魔法適性を持つ俺とシルフの母さんには
俺達並の才能があるのは間違いないだろう。
このレベルになれば、ドリーズでも苦戦は間違いない。
更に魔法だ、被害の規模は半端じゃねぇだろう。
「誰かが皆を止めないといけない。
でも、シルフ。お前が無理に付いてくる必要は無い。
きっと俺が行くだけでどうにかなるだろう。
お前が辛い思いをする必要は無いんだ」
「……いや、にーに。私も行く、絶対に」
「……偽物とは言え 父さん母さん
爺さん婆さんを殺す事になる。
それでもか? シルフ」
「ん、それでも行く。お父さんお母さん
お爺ちゃんお婆ちゃんとしっかりとお別れしたい。
偽物でも、私は最後に皆に会って、お別れしたい」
シルフの目には間違いなく不安や怯えが見える。
だが、それ以上の決意がハッキリと見えた。
まだ小さいのに、本当に辛い事になるだろう。
だが、ここでシルフを無理矢理引き剥がすのは無いな。
お兄ちゃんとして、俺はシルフの決意を尊重する。
「分かった、じゃあその時が来たら」
「ん……行く」
「あぁ、お前の事は絶対にお兄ちゃんが守ってやる。
だから、その時が来たらしっかりとお別れしような」
「ん、ありがとう」
いつもの小さなお礼とは違い、ハッキリとしたお礼だ。
シルフにとって、生まれて初めての大きな決断だ。
今までは俺の言葉に従ったり、否定したりの
ちょっとした決断程度だった。
だが、今回は違う。俺の意見とは全然違う大きな判断。
きっとシルフにとって、大きな一歩に違いないだろう。
だから、俺はシルフの決断に寄り添い、歩む事にした。




