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寂れた村

あの話し合いの後、俺達が向った場所は

帰り道の道中にあったの俺達の故郷だった。

付いてきたのはフェイト、ジュリア、ドリーズ。

シャナも興味はあったようだが

時間を優先して、バスロミアに急ぎ帰還した。


久々に見たが、寂しいな。

俺達が生まれ育った村

もう、誰も住んでねぇ廃村だがな。


婆さんの家が最後で、もう原形は無い。

死現の森からそこそこ離れた場所に

俺達の故郷はあった。


「……ここ? あなた達の故郷」

「あぁ、もう誰も住んじゃいねぇ」


昔は栄えてたと婆さんはよく言ってた。

だが、不思議な事にこの村の男は

一夫多妻という選択を取らなかった。

その結果、この村は完全に滅びた。


「寂しい場所ね」

「あぁ、不思議なことでな。

 俺達の村じゃ、男は生涯

 1人しか女性を愛さなかったんだ」

「な、何で?」

「はは、村の英雄だったか。

 その英雄は生涯、ただ1人の女を愛し

 その女も男に深い愛を捧げてた。

 その2人の間にはただ1人の子供が生まれる。

 その子供は男であり、その男もまた1人の女を愛し

 村の窮地を救い続けてた。

 以降、男が1人の女を愛し続け

 最初の子供は男だったらしくてな」

「そ、そんな事があるの!?」

「さぁな、婆さんの与太話さ。実際は知らねぇよ。

 因みにオチはいつか男が1人の女以外を愛してしまい

 その日以降、村は災禍に見舞われてしまった。

 結果、村人の半数以上が命を落とし

 男が最初に愛した女は災禍に巻き込まれて

 死んでしまった。その後、災いが収まった。

 だから、男は女1人だけを愛せと言う話し。まぁ」


既に滅びちまってる村を俺は再び見た。

結局は人が増えなくなり、滅んじまった俺の故郷。

そりゃそうなるだろうよ、男1人なんだから。

むしろ、よく俺達の代まで持ったもんだよ。


「村は滅んじまった。

 村を災禍から守るために続けた習わしの結果

 滅んじまったら世話無いよな」

「……そうね」


少しだけ寂しそうな表情を見せたフェイトが村を見る。

シルフも少しだけ寂しそうに滅びた村を見た。


「哀れな物じゃ、種としてその行動は誤り。

 しかし、強く否定は出来ぬ。

 人は愛などと言う物を好んでおるからのぅ」


不思議な効果があったのか、俺達の遺伝に

何かしらの秘密があったのかは分からねぇ。

俺達の婆さんが適当に話してた作り話だったのか

本当の話だったのかも知らない。


ただ、俺達が生まれたときには既に

殆ど滅んでたような村だったってだけだ。

若いのは父さん母さん、そんで俺とシルフ程度。

婆さん達は年老いてて、1人1人死んでった。


結果、最後に生き残ったのは俺とシルフだけ。

当然、この村の生き残りは俺達だけだ。


「……やっぱり、仕方ない事なのかしら」

「ん?」

「いや、何でも無いわ」

「仕方ない事じゃよ、主らはオスが生まれにくい。

 なのに、そのオスが1人のメスとしか子を残さぬ。

 それを続けていれば滅ぶのは目に見えておるよ」

「あのクソ親父やクソ兄貴がやってる事が

 正しいなんて、あたしは信じたくない。

 でも、この光景を見ると……

 正しかったんじゃ無いかって

 そう、思っちゃう気がする」


1人の女の子だけを愛し続けた結果

滅んでしまった人が居たであろう場所。

崩壊した寂しい建物を見て

少しだけ、ジュリアは涙を流していた。

優しい子だな、やっぱりジュリアは。


「正しいわけ無いわ! 娘に手を出すなんて異常よ!

 自分の娘を薬漬けにして! その一生を終わらせる!

 嫌がってる女の子を無理矢理襲って

 その子の自由と幸せを奪う事が正しいわけが無い!」

「そうだな、俺もそう言うのは良くねぇと思う。

 あくまでお互い同意の上じゃねぇとな。

 しっかりと愛してれば、それで良いと思う」


ハーレムを作るってなら、やっぱり全員に

しっかりと愛情を注がねぇと駄目だよな。

相手を性奴隷だとか、そんな風に思って良いわけがねぇ。

全ての女の子をリスペクトして、共に歩むべきだ。


「女の子は自分1人を愛して欲しいって思う物よ」

「メスの理想を押付けるべき環境では無い。

 オスとメスの比率が例え同じじゃとしても

 その全てが番となるわけでは無いからのぅ。

 上位の遺伝を持つオスが

 全てのメスを得るのが自然じゃ。

 子を強く未来に生かすためには

 素晴らしい遺伝を繋がねばならぬ」


ドリーズはやはり、現実主義って気がするな。

自然の中で生きていたドリーズだし

そう言う思想が根本にあるのだろう。


「はぁ? 遺伝とか関係無いわよ!

 男女ってのは心で繋がるべき!」


普段、恋愛など興味無いと言ってたフェイトだが

フェイトにもしっかりとそう言う思想があったようだ。

少しだけ、安心した気がするよ。


「心が繋がるのも、所詮は遺伝子の相性が良いだけじゃ。

 もしくは、相手の遺伝子に魅力を感じておるだけじゃ。

 愛じゃとか、運命じゃとかは存在せぬ。

 ただ、そのオスとであれば、強き子を残せる。

 そう、本能が判断したまでじゃ」

「そんな訳無いよ! 愛情って言うのはあると思う!

 運命もきっとあるんだ、だから!」

「やれやれ、強情な奴らじゃ。

 まぁ良い、ここは大人しく譲歩しよう。

 儂はこの思想を誰かに押付けるつもりは無い。

 主らがそれで良いと思うのならそれで良い。

 それで幸せを感じる事が出来るのであれば

 それは主らにとって正しい事じゃからな」


口喧嘩に発展しそうになったが

やはりドリーズは長い時を生きてるだけあって

そこで強情になる事は無かったようだ。


少なくとも、2人の思想は

ドリーズの根本にある思想にも近いからな。


「じゃが、忘れるなよ? 主らのその思想を

 全ての存在が肯定するわけでは無い。

 弱いままでは、主らはその思想を貫けぬ。

 この世界は力こそ全てじゃ。

 弱いままでは、主らの思想は踏みにじられ

 否定され、拒絶しようにも拒絶は出来ぬ」

「……」

「じゃがら、努力だけは怠るでないぞ?

 その思想を自分の物としたいならのぅ」


ドリーズが最も重要としてる思想がこれだ。

何かを言うにしても、意見を貫こうとしても

強くなければ何も貫く事が出来ない。


「儂は守られておる立場である癖に

 努力もせず、ただ守られておる立場に甘んじ

 自らの思想が絶対正義のように語り、振る舞う。

 そんな生き物が大っ嫌いじゃからな。

 努力をしておる者が語る言葉は評価する。

 じゃから、今回は退くとしよう。

 主らは努力をしておるからのぅ」

「……ありがとう」


フェイトが何かを思い出したような表情を見せ

小さく、ドリーズにお礼の言葉を告げた。

きっと、ゴブリンに攫われそうになった時のことを

思い出しちまったんだろうな。


「さて、話が長くなってしまったのぅ。

 大事な話ではあるが、ここでする話でも無い」

「だな、墓に行くぞ、シルフ」

「ん」


シルフの手を握り、俺は両親が眠る墓へ来た。

崩壊してる家のすぐ隣だ。

昔、父さん母さんと協力して作った

小さな畑の中に墓を作った。

ここには父さん母さん

爺さんと婆さんの墓がある。


手入れを出来てなかったからか

墓の周りは草がボウボウに生えてた。


「すまねぇな、父さん母さん。

 爺さん、婆さん」


爺さん婆さんは父さんの両親だ。

母さんの両親は村出身じゃ無いらしい。

だから、この場にその墓は無かった。


確か放浪の旅をしていた女性だったはずだ。

この村にやって来て、父さんに出会い

一目惚れして、この村に住むようになった。

ふふ、ある意味運命の出会いなのかもな。

父さんも嫁さん居なかったのは奇跡だ。

いや、そもそも年頃の女性が居なかったのかもな。

そこら辺は、結局教えられてなかった。


「久々に帰ってきたよ」

「草がボウボウね……どうするの?」

「あぁ、全部綺麗にするよ」

「ん、分かった」


ゆっくりと墓に近付いて雑草を抜く。

当然だが、至極あっさりと雑草は抜ける。


「シルフちゃんの魔法を使えばすぐなんじゃ」

「駄目だ、こう言うのはしっかり自分でやるんだ。

 魔法なんて使って速攻終わらせたら

 自分でやったとは、少し違うからな」

「そう言う思想、あなたにもあるのね」

「当然さ、家族には最大の敬意を表するべきだ。

 まぁ、今まで帰ってこなかった俺が言っても

 あんまり説得力はねぇだろうがな」


例え食い物が無くなって来たってなっても

ここに居て手入れしてやってた方が良かったかもな。


「仕方ないと思う……食べ物が無かったから」

「すまねぇな、シルフ。ひもじい思いをさせて」

「大丈夫、気にしてない。

 にーにが一緒に居てくれたから

 それだけで、私は満足だったから」

「そうだな、俺もお前が一緒に居てくれてただけで

 満足だったよ」


シルフが俺と一緒に居て良かったと思ってくれたなら

兄として、俺は誇らしい気持ちになる。


「本当に、仲が良いな……羨ましい」

「でも、今は皆と一緒に居る時も楽しい」

「はは! それは俺もだな!」

「本当に……よし、手伝うわよ、マグナ」

「お? 良いのか?」

「えぇ」

「勿論あたしも手伝うよ!」

「儂も手伝おう。大事な事じゃ」

「サンキュー、お前ら」

「ん、ありがとう、皆」

「気にしないで、これ位当然よ」


俺達は全員で協力して墓の手入れを終わらせる。

そして、手入れが終わった後に全員で手を合せた。


「なぁ、父さん、母さん、爺さん、婆さん。

 これから目を覚ますかも知れない。

 その時は、俺達が皆を止めてやるよ。

 痛いだろうが、優しい皆が誰かを傷付ける。

 その方が辛いだろうから、痛み程度は堪えてくれよ。

 それが終わったら、俺達の新しい家に連れてってやる。

 だから、少しだけ待っててくれ」

「……」


これから起こるであろうアンデッドの宴。

その災禍に父さん母さんも爺さんも婆さんも

皆、確実に巻き込まれちまう。

だが、皆が望まない事をしちまう前に俺達が止める。

何も孝行出来なかった俺が出来る、唯一の親孝行だ。

皆は俺が止める。絶対にな。

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