女王の戦い
ドリーズは怒りを抑えながらも
ゴブリンの女王をただ睨んでいた。
「貴様、よくも儂の部下を殺したな」
「部下、知らない。邪魔な虫
落とせと命じただけ」
ドリーズの言葉に女王が応えた。
ここで部下を大事にしてる女王であれば
お前達も部下を殺しただろうと
そう言ってきそうな物だが
ゴブリンの女王はその言葉を言わなかった。
「ほぅ、主はお前も部下を殺しただろうと
そうは言わぬのか?」
「部下、どうでも良い、どうせ増やせる」
「そうか、当然じゃが儂と主は相容れぬか」
「当然、あのお方に力を貰っておきながら
あのお方の意思に反するお前、許さない」
「あのお方じゃと?
儂は決して誰からの施しは受けてはおらぬよ」
「そんなはず無い」
その言葉と同時にゴブリンの女王が動き出し
ドリーズに接近していった。
他のゴブリンとは違う、かなり素早い動きだ。
「む!」
ドリーズがその攻撃を受け、少し焦った表情を見せた。
「ただのゴブリンの女王如きが、この力とはのぅ」
「お前、何故耐えられた……いや、当然だ。
あのお方の力、貰ってるから」
「何度も言わすな、儂は誰からも施しは受けておらぬ。
少なくとも、この力にはのぅ」
「嘘だ」
地面を蹴り、大地を抉りながらドリーズに飛び込んだ。
あの速度、あの地面を蹴る力は異常だ。
ドリーズも焦りながらも、その攻撃を空中で捌く。
「ふん!」
「む!」
更に大規模な魔法が上空からドリーズに向けて放たれた。
あれは恐らく風の魔法だ、大規模な魔法。
シルフが使う風属性程じゃないだろうが
その規模は異常だ、だが、そこはドリーズ。
風属性は明らかにドリーズには不利な魔法だろうが
その風の魔法に対抗しながら、放たれたカマイタチを
割と余力を持って避けた。
「え!?」
「上空は儂のテリトリーじゃよ、小娘。
風の魔法に多少弱かろうとも
貴様程度の力ならば対処は可能じゃ」
「しま! あぎ!」
上空で満足に動け無い女王の後ろに回り込み
ドリーズが全力で女王を蹴り落とした。
女王は地面に激突し、派手に土煙をまき散らした。
てか、上空で首が1回転したように見えたが。
あれは死んだ様な気もする。
「これで死んだか? 小娘」
女王が落下した場所に降り立ち、ドリーズが近付いた。
「む!?」
だが、その場所から強力な風の斬撃が放たれる。
とは言え、だ、相手はあのドリーズだ。
普通なら喰らうであろう攻撃だったが
あいつは即座に反応して攻撃を全て避けて距離を取る。
「無駄に頑丈な奴じゃな」
確実に死んだと思ってたゴブリンの女王が
ゆっくりと起き上がって、首を元に戻した。
普通は死んだだろうが、どうやら人の様な体だが
その再生能力と生命力は人の比では無いらしい。
「お前、嘘吐きだ。あの方から力、絶対貰ってる」
「貰ってはおらぬ」
「なら、何故私と戦える! あのお方から力を貰って
何千倍も強くなった、この私と!」
「くく、借り物か、主の力は。
少しは評価したかったが、無理な話しになったのぅ」
「答えろ!」
「愚問、主と儂では過ごした時が違う。
ただの借り物で強くなった程度で
この儂に、貴様如きが勝てるはずも無い」
「嘘だ! あのお方から力を貰った
この私が、負けるはず、無い!
魔王様、力を、私に力を!」
「む?」
ゴブリンの女王が胸元にあった結晶を掴んだ。
そして、それを自分の顔付近で砕く。
結晶から紫色の霧のような物が噴き出してきて
ゴブリンの女王を完全に包み込む。
「何じゃ、その霧は」
知的好奇心なのか、ドリーズは攻撃をしなかった。
あの結晶が何なのか分からない
あの霧が何なのか分からない、
だから見ようとしたんだろう。
多分だ、俺も同じ事をするだろうなぁ。
ちょっと危険な香りはするが、まぁ興味には勝てねぇ。
「お?」
霧が晴れ、ゴブリンの女王の姿が見えてきた。
さっきと比べて、随分とムキムキになったな。
だが、体格はあまり変わらなかった。
しかしながら、瞳からはより生気が失われてる。
「がぁああああああ!」
「む!?」
最初とは比べものにならない速度で動き出し
一瞬でドリーズに向けて拳を振った。
動揺しながらも、ドリーズはその攻撃を避ける。
「っと、何じゃ、随分と凶暴になったのぅ」
「がぎがぎいがぁああ!」
地面を最初よりも派手に粉砕しながら飛び上がる。
最初とほぼ似たような構図だ。
上空のドリーズに飛びかかるゴブリンの女王。
ただ最初と違うのは
「うむ」
「ぎ!」
ドリーズが一瞬の動揺も無く
一瞬でゴブリンの女王の首を
両断したことだった。
「確かに最初と比べれば随分力が強くなった。
儂の全力に近付けるレベルにはのぅ」
「が、がぁ」
「じゃが、身体能力だけでは勝負にならぬ。
理性を失い、ただ攻撃のみしか目に入らぬとは。
残念じゃよ、ゴブリンの女王よ。
自我を破壊してまで強くなってもこの程度とは」
上空で消えていくゴブリンの女王。
ドリーズは上空で、女王の方を見ていた。
「所詮、借り物の力などその程度じゃ。
努力して得た、本物の力には敵わぬ。
身の丈に合わぬ力は、所詮自らを滅ぼすだけ。
さらばじゃ、ゴブリンの女王よ」
その言葉と同時に、ゴブリンの女王は完全に消滅した。
そして、ドリーズはこちらに降り立つ。
「マグナよ、お陰で部下の仇が取れた、感謝するのじゃ」
「いやなに、気にすることはねぇさ。
しかし、ちょっときな臭せぇな」
「うむ、あの宝石は何じゃろうな……
ゴブリンの女王が身に纏っておった、あの結晶。
あの結晶から放たれた、よく分からぬ霧。
どうも、禍々しい魔力を感じたが」
「心当りとかはねぇのか?」
「無い、儂は今まで、あんな結晶を見たことが無いのじゃ」
ドリーズでも今まで見たことが無い謎の結晶か。
明らかに異常だな、警戒は怠らねぇ方が良いか。
「あの結晶が魔物の女王を
無理矢理生んでる可能性はあるのぅ」
「可能性はあるな、お前には無いけど」
「当然じゃ、借り物の力など、儂は捨てる」
「はは、だろうな」
ドリーズはかなりストイックな性格だからな。
そこら辺は、やっぱりフェイトに似てるかな。
ま、だから努力して来たんだろうしよ、こいつは。
「そんじゃ、帰るか」
「うむ」
「しかし……魔王か、面白いじゃん」
魔王ってのは、やっぱり冒険にゃ付きものだ。
ちょっと面白そうな目標が出来た事で
俺も少しだけ頬が緩んだ。
「気が早いぞ、まずは残党狩りじゃ」
「だな」
ゴブリンの女王を倒したことでか知らないが
ゴブリン達の統率が一気に崩れた。
連携がガタガタになった残りのゴブリン達は
連合部隊で無事、全員排除することが出来た。
これでまぁ、今回のゴブリンアーミーは完了か。




