武の極み
シャナと戦って、問題無く俺が勝った。
まぁ、自分の事を最強だとか
そういう風に言ってた手前
あっさり敗北だなんて冗談じゃねぇしな。
「……そんな、シャナが…」
シャナの敗北に動揺したのは騎士だけじゃない。
お姫様も同じ様に驚愕の表情を浮かべていた。
彼女の敗北は異常だったのは間違いないな。
「予想はしてたけど、流石ね……
あのシャナさんがほぼ手も足も出ないなんて……」
「……」
「得意気な表情で腕組んじゃってまぁ……
あまり喋らないけどやっぱ愛嬌あるわね
シルフちゃん」
「にーには、最強……」
「見りゃ分かるわ」
いやぁ、相変わらず可愛い表情だな、シルフ。
と言うか、フェイトはあまり驚いてないな。
まぁ、フェイトは俺と1ヶ月以上一緒に居るし
目の前で色々やってたから、俺の実力を疑ってなかった。
まぁ、そう言う事だろうな。
「さて、これで分かってくれたか? お姫様。
俺が超強ーってな、冒険しても良いかい?」
「……か、構いませんわ」
唖然とした表情は戻っては居ないが
リスティア姫様はなんとか冷静を装って
俺の問いに答えてくれた。
「……本当、世界は広いな」
姫様の返事が聞えると同時に
大きく倒れていたシャナがゆっくりと立ち上がった。
結構な勢いで叩き付けちまったと思ったが
彼女はかなり平気そうな表情をしていた。
かなーり頑丈だってのがよく分かるな。
普通なら意識吹っ飛んでるぜ。
ま、死なねぇように加減はしてたけどな。
「私が手も足も出ずに敗北する。
そんな事、思ってさえいなかった。
最強と呼ばれて長いが……それも終りだな」
「他にも色々な男も居るんだろ?」
「あぁ、私に挑戦してきた男達も多かった。
だが、その全てを倒してきたわけだからな」
「ふーん、なんで挑まれてたんだ?」
「君も男なら分かるのでは無いか?
最強と謳われる女なんて……気に入らないだろ?」
「いんや? 女の子なのにスゲーなって思う。
で、挑戦してみてーなって思うかな。
気に入らねぇとは思わねぇさ」
「……そうか」
俺の返事を聞いた後、やはり少しだけ表情が変わり
少しして、嬉しそうな微笑みを見せてくれた。
そして、硬かった表情も崩れ、
女の子らしい、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「最初に敗北した相手が、君の様な男で良かった。
私はまだまだ、君にはほど遠いが
また、君に挑戦しても良いかな?」
シャナが俺に向けて、笑顔で手を向けてくれた。
彼女は俺に対し、敬意を示してくれてるのが分かった。
「構わないさ、何度でも相手してやるさ。
相手が女の子でも男でも関係無く
俺はいつでも、腕組んで格好付けながら待ってるぜ?
その過程で俺に惚れてくれても良い。
安心しな、席は空けて置くぜ!」
俺はシャナが差し出してる手を力強く握る。
いつでも先で待ってると、そう思いながらな。
「ふふ、武の道を歩むのに疲れたら
女の道を歩みたいと思うかも知れないからな。
その時が来たら、君の隣に座るとしよう。
だが、まだその時じゃない。
私はまだ、武の道を歩みたい」
「じゃあ、武の道の最終地点で待っててやるよ。
最初に言ったとおり、腕組んで格好付けてな」
「今度から私は挑戦者だ。目的地が出来た私は強いぞ?」
「望む所ってな!」
こう言う関係は結構大好きな関係と言える。
ライバルって言うのは、やはりいつでも男の憧れだ。
ま、今の状態じゃ俺とシャナはライバルじゃなく
王者と挑戦者って立場なんだがな。
「……シャナ様が、笑ってる…」
「凄く綺麗な笑顔……」
「……良かったですね、シャナ様」
そんなやり取りを見ていた騎士達だったが
少しずつ響めきが収まり、驚愕の声から
歓喜の声へと、ゆっくりと変わっていった。
絶対的な強者だったシャナの敗北を見たが
同時に騎士達は彼女の新たな始まりを見ることが出来た。
彼女を尊敬していたであろう騎士達は
彼女のこの新たな歩みを目の当たりにして
幻滅する訳では無く、応援する事を選んだんだな。
そりゃ、とてもとても素晴らしい事ってな。
俺とシャナはその歓喜の声を背にして
ゆっくりと闘技場から姿を消した。
「……マグナ、改めて謝罪させて。
最初、あんな酷い事を言って……悪かったわ」
「何度も聞いたぜ、その謝罪。気にすんなって。
1ヶ月も前の事さ、今更気にもしねぇよ」
フェイトからしてみりゃ、男はヤバい奴って印象だ。
それにまぁ、最初の俺はへんてこな奴だったからな。
いやまぁ、今も変な奴って自覚はあるんだが
まぁ、この世界の男の中じゃ、まだまともな方だろ。
「にーに……グ!」
「へへ! 格好良かっただろ」
「ん」
いつも通り、シルフはポーカーフェイス風ではあるが
相変わらず、可愛らしいドヤ顔を見せてくれてる。
そして、ゆっくりと俺の元に歩いてきて両手を挙げ
俺にいつも通り、だっこと暗にお願いしてきた。
当然だが、シルフは俺に対し
大して言葉は必要無いと知ってる。
意図を簡単に察する事が出来た俺は
いつも通りの流れでシルフを抱き上げる。
「ん、と」
文字にすりゃ、たった二文字なのだが
シルフ語で、これはありがとうという意味だと分かる。
「随分と仲が良いんだな」
「あぁ、俺の大事な妹だ。可愛いだろ? 超可愛いだろ?」
「あぁ、可愛いな。しかし、あまり喋らないのか?」
「喋る、にーにに言葉は……不要
私とにーには……以心伝心……」
「なる程、かなり信頼してるらしい。
私には喋ると言う事は、あまり言葉を発さないのは
兄に対してだけだと言う事だな。
嫌ってるわけではなく語る必要が無いから……か」
「ん」
俺以外と会話するときは普通に会話するんだよな。
俺もシルフと普通に言葉を交わしたいとも思うが
まぁ、語る必要も無いほど信頼してると言う事だ。
そう言う意味での信頼なんだから、あまり言わねぇ。
「そして、フェイト。君も彼と仲が良いな」
「え? い、いえ、そこまで仲が良い訳では……」
「嘘が下手だな、君は彼の事を確かに信頼している。
そうだろう? 男嫌いの君が彼とは平気そうに会話をしてる。
彼を制止することも躊躇わず、彼を止める為に
彼を攻撃してたりもしてたしな、理解してる証拠だ。
自分がそんな事をしても、彼が怒ることは無いと」
「……」
「図星だな、ふふ、相手を理解する
あるいは、理解しようとすると努力すると言う事は
相手を信頼してる、あるいは信頼しようとしてる証拠だ
興味が無ければ、その様な感情はそう生まれないからな」
「そ、その……い、一応信頼は……そうですね、はい」
フェイトが顔を真っ赤にしながら言葉を返してる。
可愛いぜ! やっぱり赤面ってのは可愛いもんだ!
こう、恥ずかしがってる表情ってのはやはり可愛い!
いやぁ、マジでフェイトをハーレムの一員にしてぇな。
まぁ、俺は強制はしたくないタイプだからな。
ならば、格好いいところを見せて
しっかりとフェイトを魅了して行かないとな!
そして、フェイトの方から近寄って貰うぜ!
「ふふ、ならこれからも仲良くするんだ」
「え? どう言う……」
「君と彼との関係を見させて貰った訳だ。
彼の護衛は、君にお願いしようかと思う」
「え!? い、いやまぁ、確かにそのー」
「彼の実力なら護衛などは不要だろうが
国としての規則もあるしな。
それに、君は冒険者であり
彼も冒険をしたいと言っている。
となれば、やはり君が適役だと言えるだろう。
だが無論、これは私の願望でしかない。
君は私の部下ではないからな。
だから、お願いという形になる。
1番は君の意見ではあるが、どうだろうか?
彼の護衛をお願い出来ないだろうか。
報酬等も我々から出す様に働きかけよう」
シャナが頭を下げて、フェイトにお願いをしている。
フェイトも少しだけ困惑して、頭を悩ませてる。
だが、ある程度悩んだ後、小さく頷いた。
「……わ、分かりました」
「本当か!?」
「おぉ!」
俺とシャナがフェイトの言葉に対し、同時に反応した。
勿論だが、俺もシャナも嬉しいから反応したのだ。
当然だが、俺はフェイトと一緒に過せると言うだけで
かなり嬉しいのは間違いないからな。
「で、ですが、ほ、本当に私で良いんですか?」
「君の言葉に彼も反応した。それで十分だろう」
「た、確かにマグナも反応しましたけど……で、マグナ。
あんたは私で良いわけ?」
「勿論だぜ! フェイトみたいな可愛い子が護衛なんて
願ったり叶ったりってな!」
「……そ、そう、でも、あんたの護衛になっても態度変えないわよ?」
「大丈夫だって」
「後、ハーレムに入るつもりも無いわ!」
「それは入って欲しいが、強制はしないっての。
何、俺の格好良さを見せ付け続けて
そっちから入れてくださいって言わせてみせるぜ!」
「い、言うわけ無いでしょ!? 誰があんたみたいな!
あ! 後、お、襲わないでよ!?」
「まだ言ってんのかぁ? 安心しろって、襲うわけ無いさ」
「……ま、まぁ、信頼するわ」
「ふふ、お願いを聞いてくれてありがとう、フェイト。
では、姫様にもこの事を伝えてこよう」
「は、はい」
その後、シャナが姫様にフェイトと俺の事を伝えてくれて
正式に俺の護衛がフェイトという事になった。
ふっふっふ、これは願ってもみないチャンスだな。
シャナとフェイトにはしっかり感謝しねーとな!