最強の女騎士
周りの騎士の子達は彼女を最強と言ってた。
生半可な男じゃ、手も足も出ねぇってな。
さて、これでしっかりと試すことが出来るぜ。
俺が生半可な男なのかどうか。
「武器はどうする? 鎧は?」
「必要無いさ」
「……何を馬鹿な」
「俺にゃ、この肉体があるんだ。
それにま、生半可な道具じゃ邪魔でね」
「……何処まであなたは自分に自信があるんだ?」
「何処までもさ、自信がねぇとあそこまで言わねぇ」
自分にしっかりとした自信を持つ。
俺が今までやって来たことは誇れることだ。
それを自覚すりゃ、自信なんてもんは付くさ。
だが、相手を侮っちゃ足下すくわれるってね。
こいつは色んな子がつえーと言う女の子だ。
そんな相手を侮ってちゃ、男じゃねぇからな。
俺は強いし、相手も強い。それで良い。
「私としては、その方がありがたい。
あなたを倒せる確率は少しでも上げたい」
「圧倒できると、そう言わないのかい?」
「まさか、私も戦いに身を置いている。
相手を侮ることは決してしない。
フェイトが大人しくあなたに従ってるところからも
君の実力が本物であり、君が人格者である証拠。
その様な相手が弱いとは思えない。
故に、私は油断せずあなたと対峙しよう」
おぉ、結構良い感じの人だな、この人。
ふふん、あまり相手を見下さねぇタイプなのか?
それとも、フェイトの実力を認めてたからかな。
自分が実力を認めていたフェイトが俺を認めてる。
そう判断し、俺は見下すような相手では無いと
そう考えて対峙してるのかも知れないな。
「……さぁ、準備は良いか?」
彼女に付いていき、闘技場のような場所へ来た。
恐らくだが、騎士達が正式に戦う時に
ここで戦うのだろう。
正式な戦い、決闘に近い場所であるが故に
国王がその光景を見るための玉座もある。
特に奇妙なギミックなどもない。
完全に己の実力のみで戦う場所なのだろう。
シャナの装備は槍と盾、そして腰には剣がある。
兜はしておらず、鎧はさっきと変わらない。
「なんであいつ、武器も何も……」
俺が姿を見せ、周囲の騎士達の響めきが聞えた。
「しゃ、シャナ様を馬鹿にしてるの!?」
そして、少しして周囲の騎士達はその様な事を口走る。
周りの騎士達は彼女に心酔してると言うのがよく分かる。
「落ち着けお前達! 彼は私を馬鹿にしてるわけでは無い!
それが、彼の男としての戦い方なのだ!」
「しゃ、シャナ様……」
俺に対するブーイングをシャナが一声で沈めた。
自分達が心酔する相手の怒号だ。
周囲の騎士達は一斉に押し黙る。
「すまないな、マグナ殿」
「いや、気にしないでくれ。舐めてるって思われてもしゃぁないさ。
俺の事をよく知らねぇのさ。仕方ない事だ」
「……感謝する。だが、勝負に手は抜かない」
「あぁ、手加減不要だ。さぁ、やろうぜ!」
その会話の後、俺とシャナは同時に構えた。
「そうだ、先に言っておくけど
攻撃を躊躇う必要はねぇからな?
思いっきり刃物で攻撃してくれても構わねぇ」
「……死ぬぞ?」
「死なねぇ、自信がある。手加減不要だ」
「……」
俺の言葉を聞いて、シャナは少しだけ表情を変えた。
少し不安そうな表情ではあるが、彼女の目付きが変わる。
「分かった」
「うし、そう来なくっちゃ」
「始め!」
その会話の直後に鐘が鳴り響き、戦いの開始を告げた。
その大きな鐘の音と同時に、シャナは一瞬で間合いを詰める。
「はぁ!」
「へへ」
あのガッチガチの鎧を着けてるとは思えねぇ速さだ。
ほんの1歩で自分の間合いに入る事が出来るんだな。
突きの速さも相当だ。ドラゴン攻撃よりもはえぇ
「はは! はえぇな!」
「な!」
俺はその槍による攻撃を掌で受け止めた。
彼女の槍は俺の肉を裂くことは出来ず
逆に槍の方が折れてしまった。
「な!?」
同時に周囲の騎士達が大きく響めいた。
当然だが、かなり衝撃的な瞬間だからな。
本来であれば、大きく動揺するだろう。
だが、流石は最強と言われてたシャナだ。
彼女は当事者でありながら、周囲の騎士とは違い
あまり大きな動揺なんかは見せずに即座に身を引く。
「ふん!」
同時に躊躇うことなく折れた槍を俺に投げてきた。
流石に動きが速いな、あの子。
「っと」
俺はその槍を僅かに避け、槍を叩き落とす。
俺が強打した槍は空中なのに一瞬でへし折れる。
「やはり凄まじい実力だな」
本来なら呆気に取られるであろう状況だが
シャナは冷静に懐から小型の刃物を取り出し
こちらに向かって3本投げてくる。
「色々と隠し種があるんだな」
こちらに飛んで来たナイフを
指で挟んで同時に受け止める。
その後、少しだけ力を込めてへし折った。
「接近戦は不味いか」
小声でそう呟き、彼女は距離を取りながら
こちらに向かって先ほどと同じ様にナイフを投げる。
こっちはそのナイフを結構当たり前の様に避ける。
「隙ありだ!」
「おぉ!」
攻撃を仕掛けながら、俺の隙を狙ったのだろう。
彼女はいくつもの攻撃に紛れ混ませ、1本だけ
死角となる場所からの攻撃を仕掛けた。
上手いなぁ、低い位置で2本重ねてナイフを投げ
俺が上のナイフしか視認出来ないようにして
払った後に、もう1本で攻撃って訳だしな。
基本的に避けるでなく、
弾くのを逆手に取ったトリックか。
「な!」
だが、分かってることだがその攻撃は俺には入らない。
半端な武器じゃ、俺の肉体にゃ傷も付けられねぇさ。
死角に隠して投げたナイフも、俺の肉体にゃ刺さらず
岩にでも当ったかのように弾けた。
「こりゃ驚きだな、っと、およ?」
「取った!」
おぉ! 驚くと思ったが即座に動いたか。
俺が2本目のナイフに目が行ってた隙に
一気に間合いを詰めての一撃。
「く!」
だけど、その攻撃も俺の肉体にゃ通らない。
「へへん、硬いだろ?」
「しま! うぐ!」
接近してきた彼女の腹部に一撃を叩き込む。
俺が拳を叩き込んだ場所の鎧は砕けた。
「……ケホ、こ、この攻撃力」
「加減はしたぜ? 死んだら大変だしな」
「……き、器用な事をするな、鎧のみを破壊とは」
「本来なら意識飛んでるとは思うぜ?
あんたが精神力がスゲーだけだ」
砕けた鎧から、傷だらけの腹部が見えた。
歴戦の騎士と言うだけあって、体中傷だらけなんだな。
「本気で殴打していれば、あの一撃で私は死んでた」
「その通りだ、本気でぶん殴ってりゃ、あんたは死んでた。
腹をぶち抜くことになるか、内臓ぶっつぶれるか。
そのどっちかってのは良く分かんねぇが
少なくとも吐血はしてたと思うぜ?」
「……だろうな」
そう呟きながら、彼女は破損した鎧を脱ぎ捨て
ゆっくりと腰に付けてあった剣を抜いた。
「まだ戦うか?」
「無論だ……身軽になったしな」
「本番だな」
「……あぁ」
あの鎧を着けてる状態でのあの動きだしな。
本来であれば、鎧がない方が早いだろう。
「しゃ、シャナ様が鎧を……」
「正真正銘の本気……初めて見る」
周囲の騎士達も響めいている。
「はぁ!」
「おぉ!」
さっきの何十倍もはえぇな!
こっちの反撃を受けねぇように即座に離脱もしてる。
距離を取ると同時に素早く動いてナイフを投げ
俺に的を絞らせねぇように動き回ってるって訳か!
だが、俺の肉体に傷は早々付けられねぇ。
それは向こうだって理解してるはずさ。
だから、なんか狙ってるんだろうな。
「取った!」
周囲から投げられてるナイフを弾くと同時に
一瞬の強風が吹いたと思ったら
目の前にシャナが剣を振っていた。
彼女の狙いは首元だ。
「へ! 待ってたぜ! お嬢さん!」
「な!」
当然、彼女が本気で取りに来るならそこしかねぇ。
俺の脆い部分。そして、一瞬で降参させる為にも
首元に刃を置きたいってのは分かる。
俺を殺すわけにはいかねぇからな。
そんくらい予想してた俺は即座に反応し
彼女の剣を右手で掴んだ。
「く! まさか、読まれ!」
「あぁ! 速い相手にゃ、カウンターってな!」
「あぐ!」
すぐに剣を振り回し、彼女を大地に叩き付けた。
「かは……」
「シャナ様!?」
「……み、見事だ……マグナ殿」
「降参って事で良いかい?」
「……あぁ、私の負けだ」
彼女が負けを認め、少しして鐘が鳴る。
周囲の騎士達は全員、大きく響めいていた。
最強だと思っていた騎士団長が男に負けた。
それは彼女達に取っては大きな衝撃だったんだろうな。