日常の幸せ
あの襲撃の後、フェイトは寝ちまった。
危なかった、本当に危なかった。
あと少しでフェイトがゴブリンに攫われて
一生、泣き続ける事になっちまう所だった。
「フェイトを何故攫おうとしたんだろうな…」
「強きメスじゃったからじゃろう。
当然じゃ、フェイトは強いからのぅ
強き子を残すには強き女子を攫うのは当然。
他の兵共は眼中に無かろうとも
強く優秀なメスであるフェイトは
殺さずに得ようとしたのじゃろう」
他の国じゃ、ゴブリン襲撃時に兵は殺されてた。
もしかしたら、一部は誘拐されてたのかも知れない。
一定の強さが無い場合は殺され
一定の強さがあれば攫われる。
フェイトは一定の強さがあったから攫われそうになった。
「金ゴブリンの数も多かったしのぅ。
1人相手にあの数は相当じゃろう。
それだけ向こうもフェイトを得たかったのじゃな。
じゃが、そのお陰で被害は無かったと言える。
金ゴブリンが全てフェイトに向ったからこそ
他の兵達は誰1人として襲撃されなかった。
同時に、奇襲を受けたのがフェイトで無ければ
その相手は確実に急所を裂かれ殺されておったろう」
フェイトがあそこまで涙を流したところを
俺は初めて見た。
オーガに襲われてるときも涙を流してなかったフェイトが
あの時は本気で涙を流し、必死に抵抗してた。
だが、あの怪我で10匹に囲まれてる状態じゃ
流石のフェイトも抵抗しても無駄だったって訳だ。
「フェイト……凄く泣いてた……」
「あぁ、俺が居ればあんな目には……」
「間に合ったのじゃ、そう悔むな。
フェイトもお主を怨むことはせぬよ。
しかし、みっともない位に泣いておったのぅ。
まぁ当然か、此奴も冒険者、
ゴブリンの事は知っておろう。
あのままだとどうなるかを理解して
涙を流したのじゃろうな」
部屋で寝かせてるフェイトを見て
どうしても申し訳ねぇ気持ちが出て来た。
「ま、マグナ様……フェイトちゃんは…」
「あぁ、大丈夫、寝てるだけだから」
「よ、良かった、あ、泣いてる……
だ、大丈夫フェイトちゃん、わ、悪い夢でも」
「いや、いや……」
フェイトの寝言が聞えてくる。
全力で何かを拒むような言葉を続けてる。
悪い夢を見てるのは明確だろう。
「来ない、で……は、離し……いや……」
「ふぇ、フェイトちゃん!」
「来ないで! お父さん!」
「え!?」
「あ……あれ?」
大きな寝言と同時にフェイトが目を覚ました。
「ゆ、夢……」
「何じゃ、親に襲われそうになった夢を見たのか?」
「あ……あれ!? ここ、部屋……
え!? ま、マグナ……マグナ!」
「おぉ!」
起き上がったフェイトが俺に抱きついてきた。
「あ、ありがとう、ありがとう……ほ、本当に……
わ、私……私は……」
涙声でフェイトが俺にお礼の言葉を告げてくれてる。
フェイトにとって、あの瞬間は絶望的な瞬間だったんだな。
俺に抱きついて涙を流すほどには。
「ごめんな、フェイト、俺が居なかったせいで
恐い目に遭わせちまって」
俺もフェイトの背中に手を回し、謝罪を告げる。
普段の俺ならテンションが爆上がりになりそうだが
今の本気で弱ってるフェイトに抱き付かれてる状態じゃ
そんなテンションにはとてもじゃねぇがならない。
「普段強気ではあるが、やはり根は女子じゃな」
「にーには私のにーに……でも、今は良い。
フェイト辛そうだから……」
「ありがとう……あ、あなたのお陰で私
まだ幸せに生きていける……自由で居られる
あなたが来なかったら、わ、私、私は……
お姉ちゃん達みたいに、奴隷になって……
ただ、子供を生むだけの機械になって……
じ、自分の事なんて考えられなくて……
大事な……大事な思い出も忘れて……
私が私じゃ無くなって……
そんな、そんなの、死んだ方がマシ……」
やっぱり家族の事でどうしようも無い
トラウマがあるんだな。
だから、そんな風になりたくないから
フェイトはずっと努力してた。
「フェイトちゃん……」
「あ、フェイトさん泣いて……うん、そうだよね。
あと少しでフェイトさん……ゴブリンに誘拐されて
あたし達がもっと強かったら、あんな事には……」
「そ、そんな風に言わないで、ジュリアちゃん……
だ、だって……皆が居なかったら……
皆が頑張ってくれてなかったら、わ、私……
もっと早く誘拐されて、マグナが間に合わなかった…
そんな可能性だってあるんだから。
だから、感謝してる……あなた達にも」
「あぁ、俺もお前らに本気で感謝してる。
頑張ってくれてなかったら間に合わなかった。
ギリギリだったからな、マジでありがとう。
フェイトと一緒に戦ってくれて。
お陰でフェイトが一生泣いちまうような
そんな最悪な状況にならないで済んだ」
ずっと泣いて生きるなんて辛すぎるからな。
ほんの短い人生、折角幸せな時間を得たのに
その時間を全部泣いて過ごすなんて最悪だ。
楽しい時間を楽しめないのはマジで辛いからな。
「フェイト、本当にすまねぇな。
一緒に連れて行けば良かった」
「……いや、その……良いのよ、うん。
むしろ、ほら、この方が良かったって思う。
だって……多分、私達がいなかったら
シャンデルナは滅んでるから」
「まぁその可能性はあるのぅ。
部下からも話は聞いたのじゃ。
儂は人間を過大評価しすぎておった。
主のような素晴らしい一部の人間とばかり
触れ合っておったせいじゃな」
「何があったんだ?」
「いや、今は大丈夫じゃろう。
フェイト達の活躍でまともにはなった様じゃし」
「そうか、ありがとな、フェイト。
シャンデルナを守ってくれて」
「あ、頭撫でないでよ! み、耳に手が当ってるわ!」
フェイトが顔を真っ赤にしながらちょっと怒る。
だけど、普段みたいに攻撃をしてくることは無い。
と言うか、ちょっとだけ身を委ねてくれてる気がする。
あんな風に言って、顔を赤くして目を瞑ってるし。
「フェイトちゃん嬉しそうね!」
「う、うぅ! 嬉しくなんか無いわ!
ま、マグナ! も、もう止めてよ!」
「お、はは、悪かったな!」
ちょっとだけ怒ったふりをされたから
俺はフェイトの頭を撫でるのを止めた。
「主、実は甘えん坊じゃな?」
「ち、違うわ!」
「末っ子じゃろ? 甘えん坊じゃろ?」
「そりゃ、私は下から数えた方が早いけど!
妹も沢山居るわよ!」
「妹、ドンドン増えるのよね、私も凄く多いわ」
「あたしは1番下だけどね
いや、腹違いの妹は居るけど
同じお母さんから生まれた妹は増えてないし」
「まぁ何にせよ、甘えたきゃ甘えてくれよ。
俺はお兄ちゃんだからな」
「にーには私のにーに……撫でて!」
「悪い悪い、はは、そうふて腐れるな」
「ぶー」
ちょっとだけふて腐れてるシルフを撫でると
シルフもすぐに幸せそうに笑ってくれた。
「さぁ! 儂も撫でるのじゃ!」
「にーには私のにーに」
「な! 良いでは無いか撫でて貰うくらい!」
「にーにに撫でて貰えるのは私だけ」
「ズルいのじゃシルフ! 儂も撫でて貰うのじゃ!」
「そう喧嘩すんな、大丈夫だって
別に俺の手はどっか行かねぇから」
「私も撫でて貰いたいわー!」
「あ、あたしも……」
「……ふふ、ありがとう、マグナ」
いやぁ、今日は色々な子から撫でて欲しいと
ねだられるぜ!
ま、シルフを少しだけ説得して全員を撫でた。
ミントはニコニコで俺に身を委ねてくれて
ジュリアは顔を真っ赤にしながらも
俺のなでなでを受けて恥ずかしそうにしてた。
しかし、あの巨大な魔女帽子をわざわざ脱いで
その帽子を抱きしめてる状態で
顔を真っ赤にしながら俺に頭を向けてくれるのは
滅茶苦茶可愛かった!
本当に間に合って良かった。
フェイトも一緒に笑ってくれてるしな。
こう言う日常が1番って奴だ。




