2度目の襲撃
私達だけで対処しなければならない
2度目の襲撃。
私は弓兵だけど地上で戦う事になる。
そりゃね、私は結構な戦力だしね。
「……まだマグナさん達が帰ってきてないのに」
「えぇ、滅茶苦茶なハイペースね」
シルフちゃんが森をいくらか焼き払った影響か
結構早めにゴブリンを発見できてる。
最初は滅茶苦茶だと思ったけど
実は意外と良い効果をもたらしてくれたと言えるわね。
城壁の上には最初とは比べものにならないほどの
弓兵が配置されて、支給された矢も多い。
私も国から相当数の矢を頂いたから
通常の矢は十分過ぎる程に貯蔵がある。
だけど、爆弾矢等の特殊な矢は少ない。
でも、私の残った爆弾矢を少しだけ解析して
そこそこの数の爆弾矢が用意できた。
まぁ、糸を引っ張って起爆できる形じゃ無いから
私はあまり使えないんだけどね。
で、弾丸は支給されなかった。
これは仕方ないわね、技術がないんだし。
その代わりか、複合矢はかなりの数を貰えた。
「フェイトさん、複合矢なんだけど
知ってるかな? もうひとつの効果」
「え?」
「魔法使いが使えば、属性を付与できるの」
「そうなの!?」
「うん、あまり知られてない技術だけどね
実際は殆ど知らせてない技術。
シャンデルナの切り札の1つだからね。
前回は出来なかったけど今回は出来る」
「どうして?」
「あたしが使いこなせるようになったから」
「どう言う事?」
「フェイトさんが兵士達の訓練をしてる間に
あたしはインフェルノの他にも
この複合矢の練習もしてたんだ。
そして付与できるようになったの。
そうだね、フレイムエンチャント。
ふっふっふ、これがあの時隠した話しだよ
必要ならあたしがフェイトさんに渡すね」
「あの時の……頼りになるわね、内側から焼けるの?」
「うん」
「そりゃ良いわね」
黒ゴブリンへの対抗手段が増えるのは良い事ね。
あいつをいかに対処するかで状況が大きく変わる。
「そろそろね」
ある程度近くに来たゴブリン達が
剣を掲げて、一斉に走り出してくる。
「弓兵!」
最初の合図を送り、城壁の上から
一斉に矢による攻撃が始まった。
普段の立ち回りであれば
先陣は魔法使い達が切るようだけど
今回は長期戦も考慮して弓兵による攻撃だ。
「ぎ!」
地上で見ると、矢の雨がいかに恐ろしいか分かる。
こちらに走ってくるゴブリン達の大半は
上空から降り注ぐ矢の雨に撃ち抜かれる。
矢尻を重くしてることでより攻撃力が増し
ゴブリンに当った矢は総じてゴブリンを貫き
大地に突き刺さってる姿をよく見る。
ゴブリンが魔物で無く、人であるなら
私達の眼前は一瞬で死屍累々とした
おぞましい地獄の光景が広がってるでしょうね。
いや、相手がゴブリンだったとしても
眼前の光景は中々におぞましい物だけどね。
大量の矢が大地に突き刺さってる様は
中々におぞましく感じてしまう部分があるわ。
「やっぱり弓兵は中々に強力な攻撃ね。
そんで、今回は矢も燃えやすくしてるわ」
「うん、お姉ちゃん達、準備してね」
「分かってる、ジュリアも準備して」
「勿論!」
矢による先制攻撃がしばらく続いた後
ゴブリンの何匹が前衛の近くまでやって来た。
「前衛! 構え!」
「はい!」
騎士団長の合図で兵士達が槍を構える。
流石に戦いの細かい指示は行なわないわ。
前衛は基本的に騎士団長の合図で動くようにしてる。
私の役目は弓兵の指揮だからね。
「じゃ、そろそろね!」
国から渡されてる大きな音が鳴る銃。
これは、一斉に合図するために開発したらしい。
正式名称は知らないわ、ただ弾丸はでずに
デカい音が鳴るだけの銃としか私は知らない。
私はその銃を取りだし上に向けて引き金を引く。
大きな音が響き渡り、弓兵達の攻撃が一旦停止。
「よし! 行くわ!」
「お願い、ジュリア!」
同時に地面に突き刺さってた矢の全てに
蔦が繋がり、全部の矢に完全に接続された。
「よし……前衛はしばらく惹き付けて!」
「全員! ゴブリンを惹き付けろ!」
「はい!」
ゴブリンを結構惹き付ける形になり
黒ゴブリンや赤ゴブリン等の色違いが集まってくる。
あと少し、あと少しで一気に仕掛けられるわ。
「……」
城壁の上に視線を向けて合図を待った。
しばらく時間が経って、城壁の上で
大きな銃声が響き渡る。
「よし! ジュリア!」
「うん!」
その合図と同時にジュリアちゃんが行動を始め
リーデルフォンさんも剣を地面に突き刺す。
前衛の兵士達の目の前に妙な空間が生じる。
ゴブリン達の攻撃はその空間に弾かれてる。
あれが防御魔法ね、シルフちゃんがよく使ってて。
「一気に燃えちゃって!」
その空間が展開したのを見た瞬間に
ジュリアちゃんが炎を纏わせて地面に手を当てる。
「フレイムタワー!」
空間の向こう側から火柱が上がる。
同時に一斉に繋がってた蔦に火が灯り
一瞬の間に矢に火が付いて燃え上がる。
その後、爆弾矢に近い爆発が大地を吹き飛ばし
地上に立っていたゴブリン達を吹っ飛ばした。
「よし! 上手く行った!」
「爆弾矢の完全再現は出来ないけど
別方向の再現は可能だったんだから!」
最初に放った矢は爆弾矢の簡易版だ。
自力で起爆できない欠陥品ではあるけど
魔法と組み合わせる事で新しい使い方を生んだ。
それが、この一斉爆撃だ。
シャンデルナの整備班が何とか再現して
その使用方法をリーデルフォンさんが閃き
実戦に使う為にいくらか量産した形だ。
私達が訓練をしてる間にも
努力してた人達は十分居たというわけよ。
この攻撃は先制攻撃としては十分でしょ!
「結構な破壊力だけど……でも」
「……足下からだけじゃ、やっぱ駄目か」
黒ゴブリンはこの爆発を受けても無事だった。
他にも茶色のゴブリンも無傷で歩いてきてる。
何よあのゴブリン、初めて見るんだけど!?
「黒ゴブリンは分かるわ、でも、あいつは何!?」
「わから、な!」
同時に目の前から炎の魔法が飛んで来る。
リーデルフォンさんが防御魔法を展開してたから
その攻撃は防御魔法に阻まれた。
でも、あれは間違いなく魔法でしょ!?
「魔法!? 魔法が飛んで来た!? 何で!?」
「し、しらな! え!? 何、あの銀色!」
銀色のゴブリンが魔法を放ってきたって事!?
嘘でしょ、さ、最初の襲撃と2度目の襲撃
全然色違いの質が違いすぎるわ!
「でも」
驚異的な色違いのゴブリンだけど数が少ない。
そう思って、ふと上空を見て見る。
やはりドラゴンたちは上空で戦ってる様だった。
と言うか、かなりの勢いで岩が飛び交ってる。
ドラゴンたちはその岩を避けてるけど
それで対処が遅れてると言う事なのかしら。
だから、今まで対処してた色違いが
何体かこっちにまで漏れてきたという事?
「……これは本格的にヤバいという訳ね」
「フェイトさん!
ど、どうしよう! あれどうやって!」
「……銀色のゴブリンに茶色のゴブリン。
黒ゴブリンは恐らく再生だけど
あの茶色ゴブリンは分からない。
いや、弓兵!」
私は再び上空へ向けて音がする銃を撃つ。
少しして弓兵達が2度目の攻撃を始める。
黒ゴブリンには矢が刺さり深くへ行くけど
どうやら、頑丈さもあり、コアを破壊できてない。
で、茶色ゴブリンにはそもそも矢が刺さってない。
あいつに当った矢の方が折れてる。
銀ゴブリンは攻撃を魔法か何かで防いでる。
防御の魔法も使えるとみて間違いないわね。
「防御力ね、あの茶色は異常に硬い。
複合矢でも効果がないのは明白
爆弾矢でも撃破まではいけない……
多分、剣だって通らないわ、あれ。
つまりは魔法が有効だと思う。
銀ゴブリンはそのままで魔法を使う。
防御魔法も使えるし、脅威度は異常に高い。
下手したら、適性Sクラスかも知れない。
複数の魔法を使えるのが確定で驚異的すぎる…
炎と防御魔法は確定だし……どうするべきか…
黒ゴブリンはいくらでも対処は出来そうだけど
銀ゴブリンの影響で防御魔法の解除が困難。
リーデルフォンさんの魔力が切れたらお終いよ」
「あ、あんなに頑張ったのに…」
「……まだ、私達だけじゃ」
絶望的な盤面、弓兵達の攻撃は通らないし
銀ゴブリンが城壁に攻撃をする可能性もある。
対処するには……そう、あれを対処出来るのは
この中だとほぼ私だけよ。
銀ゴブリンを私が仕留めないと不味い。
だけど、茶色はどう考えても私の天敵だ。
あの防御魔法の向こう側に行って
黒ゴブリン、銀ゴブリンの対処が出来たとしても
茶色のゴブリンで確実に私は死ぬ。
攻撃が通らない相手にはどうしようも無い!
銃弾なら通る? いや、爆発が通ってないのよ
銃弾でも弾かれる可能性が高い。
でも、面では無く貫通特化なら……
いや、仮に攻撃が通ったとして
あの図体相手に10発の弾丸でどうこうは出来ない。
いや、表面が柔らかいだけなら貫通さえ出来れば!
「……考えてる余裕は無いわね」
銀ゴブリンの視線が上を向いたのが分かった。
このままだと不味い、城壁に攻撃される!
射角的に恐らく城壁の上に当るのは明白よ。
「やるしか無いわね、私が何とかする!」
「フェイトさん!?」
「ジュリアちゃん、エンチャント! 10本!」
「あ、う、うん!」
ジュリアちゃんにエンチャントを貰った。
これで10本の複合矢の攻撃力が増す。
その間にもう一度銃を鳴らして攻撃を止めさせる。
「じゃ、行くわ!」
「待って!? 1人で行くの!」
「えぇ! それしか無い!」
急いで銀ゴブリンの方へ移動する。
「リーデルフォンさん! 防御魔法解除して!
私が通ったらもう一度展開!」
「な! 無理を!」
「無理でもやるしかない! 時間がないわ!」
銀ゴブリンが防御魔法を展開しながら
何か杖を城壁の上に向けてるのが分かる。
同時に使えるって事なのね、厄介な!
「早く!」
「わ、分かりました!」
状況が切迫してるのが分かってくれたのか
防御魔法を解除してくれたようね。
そのまま全力疾走で銀ゴブリンに近づく。
銀ゴブリンは私に気付いて杖を私に向けた。
「がぎがーぎぃ」
何かの呪文のような言葉と同時に杖から放たれる
大規模火炎放射、だけど直線上なら対処は可能!
「はん! 杖からしか出せないなら!」
私はその攻撃を即座に避けて、一気に接近。
「ぎが!」
「後無駄に規模デカいと! 見失うわよ! 間抜け!」
そのまま接近して、銀ゴブリンの首を刎ねる。
攻撃の規模だけは無駄にでかかったからね。
炎の魔法で視界を塞がれちゃ不意打ちは喰らうでしょ!
「うし! 次!」
そのまま今度は矢を構えて黒ゴブリンに3本放つ。
「燃えちゃいなさい!」
ジュリアちゃんのフレイムエンチャントのお陰で
黒ゴブリンは3箇所から一斉に燃えて倒れた。
今度は茶色ゴブリン、可能性はあるけどやるしかない。
即座にあいつはこっちに向ってきてるしね。
歩幅的に逃げるのは困難だけど、対処は出来るはず!
「頼むわよ、貫いて!」
銃を取りだし、茶色ゴブリンに放った。
「が!」
茶色ゴブリンは私の攻撃を受けて少し怯む。
弾丸は無事に茶色ゴブリンの胸辺りを貫いてる。
だけど、当然こんなちっぽけな銃だけじゃ
相手を殺しきれないのは分かってた事。
即座に弓矢を構え、弾丸で撃ち抜いた
その傷に向って爆弾矢を放つ。
「うし! 当りね! 吹き飛べ!」
爆弾矢をぶち込み、即座に糸を引っ張る。
同時に、矢は爆発して一気に茶色ゴブリンを倒した。
「す、凄い……」
「はぁ、はぁ、はぁ、き、緊張したー」
失敗したら不味かったからね、これ。
弾丸の傷もマジで小さかったし
あそこまで小さな的に当てるのは難しいしね。
ましてや相手動いてるし、失敗したらどうしようとか
そんな事を思ったけど、な、何とかなって良かったわ。
「ぎぎ!」
「オレンジ!? 小さい癖に何なのよ!
今、ようやく落ち着いたんだから来るな!」
不意に姿を見せたオレンジゴブリン。
よく分かんないけど、急いで剣を引き抜いて
そいつを斬り裂いた。
「あ、あっさり斬れたわね、特殊能力は」
「フェイトさん! 後ろ! 動いてる!」
「はぁ!?」
後ろから聞えた兵士の声に反応して背後を見ると
2体に増えてるオレンジゴブリン!
どう言う事よ! さっき絶対に両断したのに!
「ど、どう言う事よ!」
攻撃を避けて、再び2体を両断する。
そして何が起こったか理解する事が出来た。
こいつ、両断すると斬られた部位で増えてる!?
この攻撃で、今度は4体になってる!
「ぎぎゃ!」
「ぎぎ!」
「ぎーっぎぃ」
「ぎ~ぎぎ~」
「こ、こいつらぁ!」
私を挑発するように踊ってる。
腹立つわね! このオレンジ!
でも不味いわ、両断攻撃じゃ増える!
恐らく再生能力、
黒ゴブリンの亜種かしら?
でも対処方はあるのよね!
「はん! 舐めてると!」
フレイムエンチャントが付与されてる複合矢を
私は4本取りだし、そいつらを射貫く。
「ぎゃああー!」
オレンジゴブリン達は熱そうに燃え上がり消えた。
「はん! どうよ! 斬っても回復して増えるなら
回復出来ないくらいの攻撃をすりゃ良いのよ!」
「やっぱりフレイムエンチャント無駄じゃ無かった!」
「うし、急いで、ひぐ!」
「フェイトさん!?」
お、お腹に剣が……う、後ろから突き刺されて……
「う、嘘……」
「ぎぎー」
後ろに金色のゴブリンが……そ、そんな気付かなかった。
お、おかしい、な、何で気付けなかったの……
こんなに目立つゴブリンを、み、見落とすなんて。
「ぎぎゃ」
「いあ……くぅ!」
剣を引き抜かれると同時に急いで離脱。
お腹を押さえながら金色のゴブリンを見た。
「ぎぎーぎーぎぎー」
「う、ぐぅ……く、クソ、ば、馬鹿にして……」
こいつも人の事を馬鹿にするのね。
もう最悪よ……クソ!
「はぁ、はぁ、なめる」
「フェイトさん!」
「え!? あぎ!」
ま、また後ろ、後ろから攻撃された!?
な、仲間しか居ない、仲間しか居ないはずなのに!
また背後に金色のゴブリン……
「ぎぎゃぎゃ~」
「あぅ……あ……」
「ぎぎ~」
「ぎー」
地面に膝を付けると同時に周囲に金ゴブリンが出てくる。
10体位、す、姿を見せて……
「ま、まさか、き、消え……」
「ぎぎ!」
「や、やめ! は、離し、あ、ど、何処に……止めて!」
「フェイトさん!」
「急いで追うんだ!」
金色のゴブリン達は私を無理矢理引っ張って何処かへ…
し、知ってる、私はこの行動を……
ゴブリンの特徴だ、女性を誘拐して子を生ませる。
「や、やだ……こ、こんな、こんなの……」
「クソ、ゴブリンが!」
すぐに緑の奴らまで……湧いて……
「フェイトさん! フェイトさん!」
「や、やだ……いや、いやだ、いやだ!」
こんな、こんな形で捕まるのは嫌だ!
こんな奴らの奴隷になるのは嫌だ!
今まで頑張ってきたのに! 努力して来たのに!
こ、こんな、こんな結果は……こんな結果は!
わ、私は……私はまだ、まだ、まだ!
「や、だ、やだ、いやだ、こんなの、
こんなの嫌……だ、ケホ……
た、助けて……マグナー!」
「俺を呼ぶ声が聞えた!
俺の大好きな女の子の声だ!」
最近、聞き慣れた勇ましい声が聞えた。
その声を聞くだけで、心の底から安心出来るような
そんな、勇ましく優しい声が聞えてきた。
「俺のフェイトに手を出すな! この雑魚共が!」
「ぎぎゃー!」
とんでもない強風が吹き荒れ
私を拘束してたゴブリン達が消し飛ぶのが見えた。
「おい! 大丈夫かフェイト!」
「ま、マグナ……」
マグナの顔が私の目の前に見えた。
涙で視界が濡れて、あまりハッキリとは見えない。
でも、確かにマグナだというのが分かる。
「シルフ!」
「ん!」
すぐにシルフちゃんと思われる白い髪が見え
私のお腹に手を当ててくれる。
痛みが一瞬の間に引いていくのが分かった。
「許さねぇ……絶対に許さねぇぞテメェら!
一瞬で纏めて滅ぼしてやる!」
マグナが参戦して一瞬の間だった。
本当に僅かな時間でゴブリン達は全滅し
2度目の襲撃はあっさりと幕を下ろす。
……あと少しマグナが来るの遅れてたら
私はゴブリンの子供を生まされるところだった。
ありがとう……マグナ、本当に……ありがとう。




