私に出来ること
マグナ達がシャンデルナから帰って
結局、私達はこの場で残る事になった。
こんな大変な状況だというのに
私は何も出来ずにここに居る。
当然、私は出来る事をやるつもりではあるわ。
魔法を習得して少しでも強くなる。
それが、私がやるべき事なのは明白だ。
分かってる、魔法を覚えた程度じゃ
私はマグナ達の足下にも及ばない。
シルフちゃんみたいな才能は無いし
マグナみたいに強靭な肉体も無いし
ドリーズみたいに素早く動けないし
シャナさんみたいに高い技術も無い。
あいつの護衛になって日々痛感する。
私は弱いと、私はどれだけ褒められても
所詮は一般人に毛が生えた程度だと。
でもね、それがどうしたってのよ!
「はぁ!」
いつも通り、用意した訓練用の案山子を両断する。
動かない相手にやった程度じゃ意味は無い。
でも、これはもはや、私の日課と言える。
テリーザ姉さんに救われた時から
今のこの年齢に至るまでに続けてきた日課だ。
最初は両断なんて出来た物じゃ無かったけどね。
今は何の苦もなく両断することが出来る。
だけどまだよ、まだ足りない!
もっと強くならないと! もっともっと!
少しでも強くなって、私の自由を奪おうとする
そんな奴らを全て排除できるくらいに強く!
そして、少しでもあいつの足を引っ張らない様にも!
「はぁ、まぁこんな所かしら」
いくらか溢れ出してきた汗を拭いながら
朝一の日課を終わらせる事になった。
「凄いわね、流石はフェイトさん!」
「ま、まぁ、これ位は出来るわよ、うん」
そんな私の鍛錬をジュリアが見てくれていた。
彼女は笑顔で私の事を褒め称えてくれてるけど
強さは確実に彼女の方が上だ。
「でも、そんなに褒めなくても…
強さはあなたの方が上でしょ?」
「あたしは魔法が使えるからね、でも体は弱いの。
フェイトさんみたいにバッキバキになりたいけど
根が研究者だからなのか、あまり鍛えられなくて」
ジュリアが少しだけ恥ずかしそうに笑って答えてくれた。
「あなた、筋肉とか好きなの?」
「う、うん、だ、だって格好いいし…」
「ふーん、そうかしら?」
自分の体を改めて見てみた。
そりゃ、私だって毎日鍛えてるわ。
だから、いくらか筋肉は付いてる。
腹筋は一応、いくらか割れてるし
腕の筋肉もまぁ、女の子にしてはあるんでしょうね。
でも、シャナさんの肉体を見てると
ちっぽけに見えてしょうが無い。
そして当然、マグナと比べてもちっぽけすぎるわ。
雲泥の差以上の差を常々感じてる。
……そう言えば、ドリーズも腹筋凄かったわね。
まぁ当然か、努力がかなり好きだしね、あいつ。
「しかし、マグナの肉体に見惚れる程ってさ」
「か、格好いいじゃ無い! マグナさんの筋肉!
す、凄いもん! う、腕がバッキバキで!」
「そりゃそうだけどね、因みにあなたの親は?」
「クソ親父はふにふにだし、クソ兄貴はヒョロヒョロよ。
そりゃまぁ、あいつら鍛えてないからね」
あいつらの役目は子供を作ることだからね。
あまり太ることは無いとは言え、
ヒョロヒョロになるのはそうか。
私のクソ親父もヒョロヒョロだからね。
同じ獣人種とは言え、やっぱり鍛えてるマグナと
あのクソ親父じゃ、絶対に筋肉が違う。
「フェイトちゃーん!」
「え? わぁ!」
ジュリアと話をしてると不意に出て来たミントが
私に涙を流しながら飛びついてきた。
ちょっと驚いたけど殆ど動くことは無かった。
「ど、どうしたのよ、そんな不意に!
てか! 私は今、訓練してすぐだから
結構汗臭いと思うから離れなさい!」
「え? 汗臭いの? そんな気は」
「良いから離れなさい! てかどうしたのよ!」
「あ! 聞いてフェイトちゃん!
私、シルフちゃんが居なくて寂しいの!」
「はぁ?」
「だから、一緒に料理を作って-!」
何か怪我でもしたのかと思ったけどそんな理由か。
まぁうん、ずっとシルフちゃんと料理作ってたしね。
マグナ達が離れて寂しくなったって事でしょう。
「本当にあなたは騒がしいわねぇ」
ミントのお陰で少しはこの場所も騒がしい。
マグナ達が居るときほどではないけどね。
はぁ、なんだかなぁ、私は本来誰かと居るのは
嫌なタイプだったんだけどね。
だってトラウマしか無いわ。
家で嫌な高い声が聞えてくるし
あのクソ親父の部屋から何人も姉や妹が出てくる。
代わる代わる、皆疑ってる様子もないし
会話もそう言う話ばっかでもう嫌になってた。
たまに湧いてくるクソ親父も私に手を出そうとしやがるし
姉や妹達も強くクソ親父を止めようともしない。
むしろ、素直になった方が良いだとか言われて!
素直になったら私はあのクソ親父殺すっての!
……ヒーラお姉ちゃんもそんな風になったし
やっぱり誰かと一緒に居るのは辛いし
あの家に帰るなんて絶対に嫌!
だから、私は1人の方が良いって、そう思ったのに。
「フェイトちゃんやっぱり料理上手よね!」
「お、おだてないで良いわよ、あなた程じゃ無いし」
「そう謙遜しないで? 料理上手の私が言うのよ!?
それに知ってるだろうけど、私は嘘を吐けないわ!」
「うん、確かにそうよね」
考えてみればミントは嘘が本当に苦手だからね。
だから、この子が言う事は殆ど本心だからね。
そう考えればまぁ、本心なのかなって。
「本当に凄いね、フェイトさん。
料理も出来るし戦いも出来るんだ」
「女の子だったら出来る物だと思うけどね」
「あたしも一応は出来るけど、
ミントさんには勿論勝てないし
フェイトさんにも絶対に勝てないって断言できる」
「そう」
「ジュリアちゃんもお料理しましょ? 楽しいわよ!
3人でお料理するのも!
マグナ様が居るときほどじゃないかも知れないけど」
「す、素直ねぇ…」
まぁ実際、あいつは料理を滅茶苦茶美味しそうに食べるしね。
料理を振る舞ったときに笑顔で食べて貰うのは
実際に嬉しいとは思うわ。
私はあまり経験が無いけどね。
だって私の料理の腕は自分に振る舞うために磨いた物。
誰かに振る舞うために料理を覚えたわけじゃ無い。
でも、ミントは誰かに振る舞いたいから料理をしてる。
この差が明確な差という奴なのでしょうね。
「あなたはマグナさんの事、本当に好きなんだね」
「えぇ! 大好きよ! 一緒に居て楽しいし!
お話しもしてくれるし! ふざけてたりもするけど
凄く格好いいし! シルフちゃんを愛してるし
私達の事も大事にしてくれてる!
それだけでも大好きになっちゃうのによ!?
更に強いのよ! 最強なのよ! 筋肉カッチカチ!
普段は笑顔で近寄り易いし! 話し掛けたら
笑顔でお話ししてくれる! 更に強い!
最高! 私はマグナ様の事を心の底から愛してるわ!」
「か、語るね……」
ジュリアちゃんがちょっと驚いてるわね。
唐突にあそこまで語られたら、当然驚くか。
「でも、少し一緒に居ただけでも何となくだけど
か、格好いいかなとは、お、思うけど……」
「え? そ、そう? あいつが?」
「そうでしょ!? 格好いいわよね!」
「う、うん、お話ししてて結構面白いし
シルフちゃんの事も大事にしてるしね。
後、筋肉が凄いし」
「やっぱり筋肉なのね…」
「だ、だって筋肉ムキムキって格好いいじゃん!」
「結婚するならどんなタイプが良いの?」
「筋肉ムキムキであたしの事を大事にしてくれて
辛気くさい顔をしないで
魔法の研究を理解してくれて
あたしを拘束しないで自由にさせてくれて
あたしのわがままも聞いてくれて
あたしを見下したりしないで
発情して襲ってこようとしないで
あたしと話をしてくれて
あたしの事を褒めてくれて
料理を出来なくても褒めてくれて
無理に家事をしろしろと言わなくて」
「多いわね……」
「うぅ、わ、分かってるけど……
そ、そりゃ贅沢なのは知ってるけど……
そもそも、襲ってこようとしない男ってだけで
もうそれはとんでもない位高い基準だし…
そもそも、男の数少ないし……」
実際、かなり高い目標と言えるわよね、あれ。
そもそも男は大体私達の事を穴としか見て無いし
拘束も何も、あいつらは平気な顔で家に縛ってくる。
あいつらは女とみればすぐに発情するし
話しもしないで、口を開けば下の話しばかり。
私達を褒めることも無いし……んー? あれ?
「ふふ、ハッキリ言うわ!
マグナ様は全てを備えてる!」
「え!?」
「まずは筋肉ムキムキ! えぇ、バッキバキよ!
力を込めたら服がはじけ飛ぶくらいにはムキムキ!
更に常に笑顔で接してくれるし
魔法の研究はむしろスゲーと褒めてくれるわ!
と言うか、何かをすれば大体笑顔でお礼言ってくれるし
料理を作っても笑顔で美味しいと言ってくれる!
話し掛ければ笑顔で話してくれるし
私達の事を尊重してくれる! 完璧!」
「そ、そう言われてみれば確かに……」
「ジュリアちゃん! もしマグナ様があなたに
一緒に来て欲しいと言ったらどうする!?」
「なな! そ、そんな事を言うはずも!」
「いえ、マグナ様はあなたを気に入ってるはず!
マグナ様はきっとあなたに一緒に来るかと聞くわ!
その時、あなたはどうする?」
「……そ、そ、そ」
ジュリアちゃんが顔を赤くして訓練場へ逃げた。
あの子、マグナの事、気に入ってるのかしら。
「あれは脈ありね! 仲間が増えそうよ!」
「はぁ、ライバル増えるわよ」
「それは困るけどきっと大丈夫よ! えぇ!
マグナ様は皆に愛を注いでくれるわ!」
「全く……でも実際、言いそうよねぇ、あいつ。
とは言え、ジュリアちゃんはシャンデルナ所属。
あの子が了承しても領主さんは了承しない気がするけど」
「意外と取引してたりするかも知れないわよ?」
「……か、可能性はあるわね、
マグナは今、上から相手を従わせる事が出来る立場だしね。
シャンデルナもマグナに大きな借りが出来るだろうし。
いや、もう既に出来てる気もするけど」
マグナのお陰で被害を抑えられたのは間違いないしね。
最初の襲撃も私達が来たから被害は無かったし
2度目の襲撃もマグナ達が全部掃除したわけだしね。
更に今は領主からのお願いで同盟強化の手助けをしてる。
この報酬は相当高く貰えるだろうけど
あいつはジュリアちゃんの事を気に入ってた様だし
手伝う代わりにジュリアをよこせって言いそうよね。
いや、よこせとは言わないか。
多分ジュリアちゃんが了承したら許可をくれ、でしょうね。
だってあいつがマジで奪うつもりなら
いくらでも奪えるわ。
でも、あいつはそんな事をしないでしょう。
相手にその意思がないなら強引には行かないだろうしね。
てか、そんなタイプだったら私が不味いわ。
「ま、最終的な決定はジュリアちゃん本人よね。
私はあまり干渉しないわ」
「そうねぇ、よし、出来たわー!」
「上手く行ったわね、流石ミント」
さて、お昼を食べた後に魔法の練習をしましょう。
……ジュリアちゃん、教えてくれるかしら。
さ、最悪の場合、今日は自力で頑張ろう。
教えてくれることを祈るしか無いわね。




