空の旅
あの面会の決着は付いた。
俺達の役目は同盟を組むための書状を
他国へと運ぶという仕事となる。
だが、その仕事はリスティア姫を
一旦、バスロミアに帰還させた後だ。
「じゃ、国に1度戻るか」
「はい」
シャンデルナの領主と相談して決めた事。
そりゃな、俺達が方々を回るって事は
リスティア姫の最大の護衛が居ない訳だ。
そんな状況で姫様を他国へ放置は良くねぇ。
そりゃ、シャンデルナがそんな真似を
する分けねぇのは分かりきってる事だ。
そんな真似をすればどうなるかは
領主だって重々承知だろうしな。
だが、状況が状況だからな。
安全策を取って行動する方が良いと
領主も判断したのだろう。
姫様はバスロミアで
他国との同盟に対しての書状を
国王と協力して用意して
俺達はバスロミアとシャンデルナを行き来し
双方の書状を集めて他国へと運ぶ。
俺達の仕事量が異常な気がするが
俺達が適役なのは間違いねぇ。
この状況で確実に伝達できる兵力だからな。
大きく人数を割き、防衛力を減衰させず
確実に書状を届けることが出来るであろう人物。
そりゃ、俺達しか居ねぇって訳だ。
「では、急いで戻ろう」
「はい!」
準備をして俺達はシャンデルナからでた。
ジュリア、フェイト、ミントはシャンデルナで待機して
俺達が帰ってくるのを待ってて貰うつもりだ。
出来れば俺の大事な奴らは
俺の手が届く範囲にいて欲しいが
状況が状況だからな、仕方ねぇ。
「では、来るのじゃ!」
シャンデルナからある程度離れた後
ドリーズが手を上げて炎を5発ほど放った。
その後、5つの影が俺達の周りに現われた。
「え!?」
兵士達やリスティア姫達は驚いてたな。
そりゃまぁ、目の前にドラゴンが5体も来りゃな。
「うむ、よく来たのぅ」
5匹のドラゴンは地上に降り立つと同時に
ドリーズに大きくお辞儀をする。
まさに女王の風格だ。
「リッキー、シュリア、シシリー、ジース、ギリア
主らの仕事は儂らをバスロミアに運ぶ事じゃ」
「がぅ!」
「馬車はジース
馬はギリア
兵はリッキーとシュリア
姫とマグナとシルフはシシリーじゃ」
「ぐる!」
ドリーズの指示通りにドラゴンたちが動く。
「え!?」
兵士達の前にドラゴンが歩み寄り
兵士達を乗せるためか身を低くする。
馬車は少し乱暴だが口にくわえ
怯える馬も口にくわえた。
結構強引だが、かなり優しく咥えてるな。
動物の親が子供を運ぶように優しく咥えてる。
馬は怯えすぎて動かなくなったから
逆にかなり運びやすくなってる。
「じゃ、俺達はシシリーか」
「うむ、時間が無いからのぅ」
「そ、その、こ、これは……」
「即座に行動するためには仕方ないのじゃ。
兵共よ、しっかりと掴まるのじゃぞ。
落下したら最悪命を落とすからのぅ」
「は、は、はい!」
「姫はマグナにしがみつくのじゃ。
マグナにしがみつけば、早々落ちぬ」
「わ、分かりましたわ……」
俺はシシリーを撫でた。
「よろしく頼むぜ、シシリー」
「がーう!」
ちょっとだけ嬉しそうに彼女は答えてくれた。
「じゃ、掴まってくれ、リスティア姫」
「は、はい……」
少しだけ頬を赤くしながら
リスティア姫は俺の手を握った。
それを確認した後、俺は優しく彼女を抱き上げ
シシリーの背中に乗る。
「あ、あ、あぁ!」
「お姫様だっこって、あまりやった事ねぇが
どうだ? 上手く出来たかい??」
「ひゃ、ひゃい! わ、私もは、初めて…で…
う、上手いかどうかは、わ、分からないのですが
す、少なくとも私は上手かったと思いますわ…」
「そうか、そりゃよかった!」
ま、怒られるような感じじゃ無くて安心だ。
とりあえず、俺はそのまま後ろに彼女を降ろす。
「じゃ、しっかり掴まってくれよ?」
「は、はい!」
「シルフも振り落とされねぇようにな」
「ん」
「兵共、早う乗れ、何をモタモタしておる」
「し、しかし、結構乗るのが」
「ほれ!」
「うわぁ!」
乗るのに苦労してる兵士達を
ドリーズが軽々と持ち上げドラゴンの背に乗せた。
「全く、しかしこのままだと落下しそうじゃな。
シルフよ、何か出来ぬか?」
「ん、蔦とか……こんな感じ」
少しだけ考えた後、シルフが蔦を魔法で出す。
蔦はドラゴンにしっかりと括られて
手綱のように兵士達の前に出て来た。
「こ、これは…」
「まぁ、簡素な物しか出来ぬのは仕方あるまい。
大人数で移動をする際にはやはり手綱は必須か。
じゃが、即座に用意できる物でも無い。
今はそれで我慢するのじゃ。
早々切れることは無いじゃろうからな
振り落とされぬよう、しっかりと持て」
「分かりました……あ、圧倒されてますが」
「それは当然じゃ、さ、貴重な体験じゃぞ?
ドラゴンの背に乗れることを光栄に思え」
「そうですね、こ、こんな経験、普通は出来ません…」
「当然じゃ、儂が主らの傘下にくだることなど
本来はあり得ぬからのぅ、マグナに感謝するのじゃ。
では行くぞ、全員! 飛行準備!」
ドリーズのかけ声で全ドラゴンが空を飛ぶために
体を起し、大きな翼を広げた。
「出発じゃ!」
「わぁ!」
そして、号令と同時に全員が一斉に飛び立ち
周囲の木々を吹き飛ばしながら浮上する。
ヒュー! やっぱり良い風だぜ!
「うぅ、す、凄い風……
ですが、マグナ様のお陰で」
「良い風よけだろ? 俺の肉体。
ま、折角だし姫様、周囲を見て見ると良いぜ?」
「あ、わぁ……」
周囲を見渡し、姫様が顔を赤くしながら喜ぶ。
早々見ることが出来ない、遙か上空の景色。
デカい城壁なんかも無い、綺麗な風景。
森ばっかだが、道中の平原や山などが
この大自然に華を添えてくれてる。
上空から見たことで、いくらかの国も見てた。
「くく、人では拝むことが無いからのぅ。
儂は毎日の様に見ておる風景じゃが
ふとたまに意識しすれば、美しいと感じる。
そんな絶景じゃよ」
まぁ、戦闘で手綱を握ってる兵士は
周囲を拝む所じゃ無いけどな。
「うぅ! か、風が……目が開けられない…」
他の兵士達も風に耐えることで必死で
あまり余裕を持って景色は拝めてないな。
まぁ、そこばっかりはしょうがねぇだろう。
そのまま空の旅をして少しして
俺達はバスロミアの近くまでやって来た。
地上を歩けば3日以上掛ったが
空を飛べば休みながらでも数時間で到着だ。
「うむ、中々バスロミアも大変じゃったようじゃな」
地上に降り立ち色々な場所が抉れてるのを見た。
焦げてる地面や引き裂かれた大地などがある。
だが、門や城壁に一切の損失などは無い。
「では、戻るか」
「はい!」
兵士達はヘロヘロ、馬も結構混乱気味だが
バスロミア近くへと降下した。
門番達がこちらへ駆け寄ってくる。
「リスティア姫様!? 皆様も!
ドラゴンに乗って帰還とは驚きですが
とにかくご無事で何よりです!」
「ドリーズ様のお陰で早く戻れました!
それより、バスロミアの状況は!?
大地が黒焦げになってるのは何故ですか!?」
「実はゴブリンの大群が攻めてきたのですが
ドラゴンが参戦し、8割を焼き払ってくれたのです。
残り2割は我々が対処しました」
「ぐぁぅ」
「ほうほう、儂の指示通りに殲滅は避けたのじゃな。
うむ、見事じゃ主ら、
儂の指示をしっかりと覚えておったな」
「がぅ」
周囲のドラゴン達をドリーズが撫でた。
ドラゴン達は嬉しそうに撫でられてる。
いやぁ、もう何か、ドラゴンがペットみたいだな。
「では引き続き、バスロミアで襲撃があった場合
同じ様な規模で攻撃をするのじゃ」
「ぐぁ!」
「シャンデルナ付近で大規模な襲撃が発生した場合も
同じ様な範囲で攻撃をするのじゃ。
可能であれば、人に姿を見せぬようにのぅ」
「がぅ!」
いつも通り、ドラゴン達は指示を聞いてお辞儀をし
全員が一斉に飛び立った。
「では、急ぎ同盟の手筈を整えるのじゃ」
「えぇ! 急ぎましょう!」
うし、急いでバスロミアに戻って準備だな。




