魔法の実技訓練
「じゃあ、まずは火属性魔法」
何を教えるかを伝えた後に
ジュリアは視線を前に向けた。
そこに黄色のゴブリンが姿を見せる。
「……デカ!」
そうだなぁ、少しだけ頭が見えた程度だ。
やっぱりゴブリンアーミーの影響か
妙にゴブリンが姿を見せてる。
「ふむ、黄色のか」
「ま、まぁ丁度良い相手と言えるわね。
これはチャンス、火属性の上級魔法」
そこまで呟き、ジュリアは手に炎を纏わせる。
「分かりやすく魔法名を叫んで放つわよ!
フレイムホール!」
魔法名を叫び、ジュリアが両手を叩く。
同時に黄色のゴブリンを包み込むように
炎の空間が現われ、一気に縮小して
黄色いゴブリンを完全に焼き尽くした。
「これが火属性の上級魔法よ」
「ふむふむ、フレイムホール
炎で包んで閉じ込めて焼く魔法。
……は!」
「どうした?」
何か閃いたのか、シルフが周囲を見渡す。
「にーに、川に行きたい!」
「川? あぁ、分かった」
少しだけ、シルフが何をしたいのか分かった。
「川? まぁ、火属性魔法の練習をするなら
すぐに消火できる方が良いかしら」
「水属性魔法を扱えるのに必要じゃろうか?」
「さ、さぁ、私も分かんないけど……
マグナ、あんたは分かるの?」
「あぁ、分かるぞ」
そして、川に行って俺は魚を捕まえた。
「な、なんで魚!?」
「ありがと、にーに!」
「え?」
「……えい」
俺がシルフに魚を見せると同時に
シルフが両手を叩く。
俺が掴んでる魚の周囲に小さいフレイムホールが出て来て
魚を一瞬の間に焼き、美味しそうな焼き魚に変えた。
「おぉ、成功」
「な、何て勿体な、って、え!?
い、いやまって、れ、冷静に考えてみると
あ、あんた、熱くないの?」
「んー? いや、熱くないけど」
「で、でも、魚を一瞬でこんがり焼く火力で……」
「これならすぐに焼き魚が出来る……
にーにの為に、すぐに料理が出来る!」
多分ジュリアの目的とは違うのだろうが
シルフは表情をあまり変えては居ないが
結構嬉しそうに小さくガッツポーズを取った。
「そして」
今度シルフが手を叩くと、焼き魚が一瞬で冷凍。
「これで冷凍保存……魔法便利!」
「そ、そう言う使用用途じゃ……」
「きゃー! す、すてきー! 魔法最高ね!
私も魔法使いたいわー! 滅茶苦茶使いたい!
魔法さえマスター出来れば
より美味しい料理が出来るわ!」
「ん、私が魔法で色々手伝う。
ミントは料理してくれたら
にーにが美味しい料理食べて喜ぶ!」
「そうね! これはより一層協力しなくっちゃ!」
「おぉ! 美味い飯は歓迎だぜ!」
「魔法を料理に応用するのは考えた事が無かった…」
「わ、私も想像さえ出来なかったわ…」
「ふむふむ、美味い物が食えるなら何でも良いか」
その行動をした後、シルフが目をキラキラさせて
ジュリアの方に視線を向けた。
「魔法最高! もっと鍛えて!」
「私にも魔法を教えて欲しいわー!」
「み、ミントはて、適性的に…」
「あぅ、そ、そうよね……でも練習するわ!
炎の魔法と氷の魔法は覚えたいわ!」
「そ、その、言ったら悪いんだけど
Dランクはが、頑張っても……
Eランクなんて絶対に不可能な領域で…」
「ガーン! そ、そんなぁー!」
「大丈夫、私が鍛える。
一緒に美味しい料理を作る!」
「そ、そうね、もうそれしか無いわね!
シルフちゃんが魔法を鍛えるなら
私は料理の腕を磨き上げるまでよー!」
シルフとミントが滅茶苦茶仲良しなのが分かる。
シルフもミントのことを尊敬してる様子だしな。
毎日料理を教えて貰ってるようだし
そりゃ、仲良くなるのも納得だ。
こっちに来る間も、シルフはミントが作る料理を
食い付くようにして見て、教えて貰ってたし。
「良い事じゃな、努力するならばそれが良い」
「戦い以外の項目でもお前は評価するんだな」
「無論じゃ、努力をする物を見るのは実に良い。
それがどんな事柄であろうとも、その事柄に対し
全力で取り組む事が出来るのならば素晴らしい事じゃ。
その努力を否定する事を、儂は決して許さぬし
努力を笑う者を儂は軽蔑するまでじゃ。
ま、他者を無理に巻き込む努力はあまり称賛せぬが」
得意気な表情で腕を組み呟いた言葉。
ドリーズが好きなのは強くなる努力じゃ無く
努力その物なんだなってのがよく分かる。
「ま、まぁそう言う活用方法があるのは良いわね。
やっぱり魔法には無限の可能性がある
あたしとしてもそれが分かって良い気分よ!」
一瞬驚いてたジュリアだが、彼女もやはり研究者
そう言う用途があっても発展させる必要は無いでは無く
そう言う使い方も出来るならその使い方も研究する
そう言った形で、シルフの行動を称賛してる。
「よし、私も魔法を料理に応用する方法を探って見るわ。
そうよね、考えてみればそうよ、そう言う使い方もあるわ。
戦う事ばかりに目が行ってたけど、足下を見てみれば
あたし達女性が得意な部分をより強化出来るわよね!
あたしもまだまだ未熟者だと言う事ね!
男が得意な部分で勝つ事ばかり考えてたせいで
あたし達が得意な部分を伸ばすことを考えてなかった!
発想の枠組みを壊すことが出来なかったなんて情け無い!
でも、これからは色々な用途を探るのも良いわよね!
戦う以外の使用方法って言うのも大事に決ってる!
ありがとう! やっぱりあなたは天才よ!
そして、マグナもありがとう!」
「え!? な、何で俺にお礼を…」
「だって! あんたがクズ野郎だったら
シルフちゃんがあなたの為に頑張るって言う発想が出来ず
シルフちゃんも私と同じ様に、あんたに勝つ
その事だけに目が行ってた可能性があるのよ!
でも、あなたは良い人で、シルフちゃんを大事にしてた。
だからシルフちゃんもあなたを大事にして
あなたに美味しいと笑って貰う為にこの発想になったの!
そもそも、あなたがクズだったら
きっとシルフちゃんはここに居ないわ!」
い、いきなり俺にまでお礼を言われるとは思わなかった。
やっぱりジュリアって、普通に良い子だよな。
ミントとちょっとだけ似てるような気がする。
まぁ、ミントの魅力とこの子の魅力は違うだろうが。
「ね、ジュリア、もっと魔法教えて!」
「そうね! まぁ、料理に応用出来るかは分からないけど
他にも色々と教えてあげるわ」
「ん、知りたい!」
「次は一応水属性ね、折角水際に居るんだし」
ジュリアが川の方に歩いて行き、川に手を入れた。
「水属性魔法はその名の通り、水を操る魔法なの。
高い適性があれば空気中にある水分を利用して
水を発生させることが出来るけど
あたしの水属性の適性ってDランクだから
直接水に触れないと難しいのよね」
「Dランクは無理って言ってたような」
「うん、普通は扱えないんだけど
他の適性が高い場合なら、辛うじて形には出来るの。
あたしは他の適性がいくらか高いから
辛うじて扱う事が出来るって感じ。
と言っても、初級魔法だけだけど」
そこまで言って、ジュリアが意識を集中させる。
「こんな感じ、水属性の初級魔法は
ウォーターガンって言うのよ」
ジュリアの手元にある水が浮き上がって放たれた。
純粋な攻撃魔法と言った形だろう。
「ふむふむ、こんな感じ」
その動きを見たシルフが同じ様に水に手を突っ込む。
「んー」
シルフが操った水は数滴なんかでは無い。
変幻自在な蛇みたいな形で操った。
「そうそう、そんな感じ! 大事なのはイメージ!」
「ガンというかスネークって感じ」
「上手く扱えば凄そうじゃな」
「……おぉ」
シルフが操ってる水の中で魚が泳いでる。
中々可愛らしく、周囲をきょろきょろ見ながら
真っ直ぐ頭の方に向って進んでる。
「でも、イメージなら魔法名は不要じゃ?」
「魔法名があると、それだけイメージを固めやすいの。
例えばフレイムホールとか分かりやすいでしょ?
火の部屋って感じで、どんな感じかイメージしやすい。
部屋だから、相手を包むように展開するって感じでね」
「だから名前があるのね」
「うん、大事なのはイメージだから魔法の名前は
結構分かりやすい名前が多いの。
火の初級魔法はファイヤーとかファイヤーボールとか
そう言う、シンプルで分かりやすい名前を付けるのよ。
氷属性はダイヤモンドダストとか
そう言う、実際に自然で発生する可能性のある事象
アイスバーストって言う魔法もあったりするけどね。
このアイスバーストは術者によって威力が違うわ」
ふーん、イメージが大事なんだな、魔法って。
「なんでそんな風になってるの?」
「イメージが大事だからなのが大きいのよね。
で、共通の魔法名があるのは、
シャンデルナ様が使ってた魔法と
男達が使ってた魔法をあたし達が調べ上げて
魔法名を分かりやすく名付けたの
で、この魔法名を付けてから魔法の使い易さが
飛躍的に上昇して、それを主流にしてるの」
つまり、ジュリアが言ってる魔法名は
あくまでシャンデルナで調べて名付けた魔法であり
他国でも同じ様に普及してるかは分からないと。
何なら、他国には魔法名なんて無くて
イメージ通りに操ってる可能性があると。
「だから適性があって、
イメージを確固たる物に出来れば
女性でも魔法を扱う事が出来るって事」
「開発って言うのは」
「適性がある女の子を
自分も魔法を使えると疑わない様に鍛える
そして魔法がどんな物かっていうのを教え込むのよ。
その時に魔法名とイメージがあれば使いやすいの、まぁ」
ジュリアが蛇のような水流を
少し楽しそうに操ってるシルフの方を向いた。
「あの子位の年齢で、ここまで魔法を使えるなら
この工程は必要無いかも知れないけどね」
「……は!」
遊んでるシルフが何かを思い付いたのだろう。
シルフは水を割り、中に居る魚を川に返す。
そして、水を操って素早く回転させた。
「にーに」
「あぁ」
何がしたいのか分かった俺は服を脱いで
シルフが回転させてる水の中に放り投げた。
「おぉ!」
シルフが操ってる水の中に入った俺の服は
滅茶苦茶な速度で回っている。
そこに今度は植物みたいな物を召喚して入れた。
植物は素早く回ってる水の中で俺の服を洗い
細かい汚れと思われる部分を綺麗にした。
「ん!」
今度は渦になった水流が消えて
俺の服が宙に浮いた。
「なんで宙に浮いてるの!?」
「まぁ、びしょびしょだしなぁ」
「で」
今度は氷が出て来て、氷の上に服を乗せ
凄い速度で俺の服を回転させる。
周囲に水が飛び散っていった。
「今度は」
次は植物が出て来て、俺の服の袖に入り
宙ぶらりん状態になった。
「そして」
シャツから離れた場所に炎の塊が出現し
そこそこの強風が吹いて熱風を俺の服に浴びせた。
「おぉ! 洗濯物出来る!」
「な、何も魔法でしなくても……」
「流石にこれはちょっと労力が…
ここまで適性あるのシャンデルナ様と
シルフちゃんくらいだし、難しいわね」
しれっとやってたが、あれは中々難しいよな。
水属性、氷属性、火属性、風属性、木属性
あの行動で、これだけの魔法を使ってた。
全属性適性があるシルフじゃないと出来ねぇ。
「旅先で洗濯物を干せる、便利」
「そ、それはそうね、川が無くても出来るし」
「シルフの技量であれば、雨の日でも出来そうじゃ」
「やっぱり魔法、便利!」
この様子を見てると、シルフはマジで
お嫁さんレベルが高いのがよく分かるぜ。
炊事洗濯も出来るし、裁縫も出来るからな。
「後は裁縫……」
「それは流石に無理だと思うけど」
色々と面白い発想をしてるシルフを見て
俺はかなり微笑ましい気分になった。
俺も魔法を使えば、こうなるのかも知れない。
「よし、じゃあ俺も使ってみるか魔法!
イメージすれば良いんだよな?」
「そうね、つまりはイメージが大事で」
「じゃあ、炎だ!」
何だか格好いい炎魔法を使おうとしたが…
大丈夫か? 炎は不味いんじゃ無いか?
イメージが反映されるんだよな?
俺の炎のイメージは地獄の炎だが……
ヤバくない? 才能は知らないが最悪
無意識にそのイメージ出て来ない?
「……ど、どうしたの?」
「いや、炎は不味い気がしてな……」
「不味いじゃろうな」
「……じゃ、じゃあ、木だ!」
木属性なら大丈夫だろうと思った俺は
とりあえず大してイメージもしないで
木属性魔法よでろーっと思ってみた。
植物だし、多分地面から何かでるだろ
「げ!?」
念じると同時に、周囲の木が沈んだ。
「なんで木が沈んだの!?」
「……何で!?」
「お主の奇抜なイメージじゃとこうなるのかのぅ」
イメージ、俺の最初のイメージは沈むか。
ならば、今度は飛び出す感じでイメージせねば!
「ならこうだ!」
今度は周囲の木がロケットみたいに吹っ飛んだ!
「今度は飛んだんだけど!? 何なのあんた!」
「……ば、馬鹿な、こ、こんな筈じゃ」
「まぁ、お主らしい、
木が吹っ飛んで大量のゴブリン達も唖然としておる」
あ、木が吹っ飛んで軽く平原になったから
森で隠れて奇襲の機会をうかがってたであろう
何千匹のゴブリンの姿が見えた。
ゴブリン達も不意に飛んでいった木に視線が向いて
全員、完全に上を向いてた。
「おぉ、滅茶苦茶居るな」
俺が一言呟くと同時にゴブリンがハッと反応し
急いで視線を俺達の方に向けて武器を構える。
同時にゴブリン達の足下が暗くなった。
「あ、上見ろよ?」
「ぎぎ! ぎ、ぎゃぁ!」
俺が打ち上げた大量の木が落下してきて
周囲のゴブリン達を踏みつぶして殲滅してしまった。
「……よし、危ないから帰ろう」
「もうなんか滅茶苦茶よあんた!」
「そ、そう言わないでくれよ!
お、俺もビビったからな!?
やっぱ俺に魔法は難しいって分かったぜ」
「些細なイメージが過剰反応する形じゃな」
「にーに、面白い」
「えぇ! 何だか楽しいわ!」
「圧倒されてるわ、あたし、まぁ色々発見できたし
次は座学だけど……まぁ良いか
帰って書類を纏めて座学で教えるわね」
「お願い!」
「楽しみね!」
「……圧倒されっぱなしだ-
私、頑張って魔法使えるか不安になって来た…」
「諦めたら性質上、使えぬぞ?」
「そ、そうね、諦めないで頑張りましょ」
最後、ちょっと色々とあったが
俺の才能と俺の馬鹿な発想の関係で
やっぱ、あまり魔法使っちゃ駄目な気がしたぜ。
特に火属性の魔法は駄目だな、うん、気を付けよう。




