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さて、お姫様と一緒にやって来た
他国の偉い人とのご対面。
状況が状況だし、時間が掛ると思ったが
意外な事に、あっさりあってくれたな。
「申し訳ありません、こんな時に」
「いえ、構いません。
我々としてもあなた方の到着は
非常に助けになりましたので」
公式で対面するというわけでは無く
小さな応接間の様な場所での面会だった。
公式に対面するには準備が出来てないしな。
他国のお姫様が来たと言うのに
しっかりと準備してない状態で
公式に対面となると、ちょっと向こうとしても
あまり良くないと判断したのだろう。
こっちだって、今忙しいのは分かってるから
そこでとやかく言う事は無いだろうしな。
「シャンデルナのお役に立てた様で光栄です」
あまり高圧的な態度を取るわけでは無いな
リスティア姫はどっちかというと下手に出てる。
理由はまぁ、波風を立てないようにするためだな。
偉い人の話ってのは、堅苦しくて恐いもんだ。
それからまぁ、ひとまずの世辞や
世間話がちょっとだけ入ったが
まぁ、俺達は参加することは無かった。
その間に、俺達の自己紹介とかもして
お互いにある程度の情報を伝えた。
その会話の後、話の雰囲気が変わる
「今回、リスティア姫がご訪問された理由は
既に伝令から聞いております。
同盟を行ないたいという事ですよね」
「はい、我々バスロミアはシャンデルナとの
友好な関係を望んでおります。
魔物の襲撃もあり、正式に話を纏めることは出来ず
我々はしばらくの間、その話を保留しておりました」
「そうですね、魔物の影響で往来は困難ですしね。
しかし、何ともタイミングが悪い事に
今はゴブリンの襲撃を受けてる状況です。
我々としても、同盟の結束とゴブリンへの対策
その2つを並行して行なうのは難しい」
「えぇ、どうやらこのゴブリン襲来は
世界を巻き込むほどの危険な襲来のようですし」
「どう言う事ですか?」
どうやら、シャンデルナはゴブリンアーミーのことを
よく分かってないようだな。
今まで狙われたことが無かったのかも知れない。
もしくは、歴史がまだ浅い国なのかもな。
シャンデルナと国の名前が決ったのも
今生きてるこの国の賢者の名字がシャンデルナだからだ。
彼女の年齢は90と言ってたし、国の名前が決ったのは
50年前かもしれねぇな、シャンデルナが
女性の中に眠る魔法を扱える様になる方法を見つけて
国の名前がシャンデルナになった訳だし
うーん、30~50年前になるかもしれねぇな。
「どうも、100年に1度発生するゴブリンの襲来
ゴブリンアーミーと呼ばれる異変だそうです」
「ゴブリンアーミー、そんな情報を何処で?
やはり、バスロミアの長い歴史で伝えられてたとか」
「それは……彼女からの情報です」
少し悩んだようだが、細かい説明が必要であるからか
リスティア姫はドリーズの情報だというのを伝えた。
「ん? あぁ、儂が話せば良いか?
良かろう、この国の長よ
まずは儂の正体を伝えておこう」
そう言って、ドリーズは隠してた翼を出した。
「翼!?」
「儂はドリーズ・ウィンバード
竜人種と呼ばれる、ドラゴンと人のハーフであり
今代における、ドラゴンの女王じゃ」
「ど、ドラゴン……な、何を馬鹿な。
同盟の話では無く、私をからかいに来たのですか!?」
「いえ、そう言うわけではありません。
彼女は確かに竜人種という種族であり
彼女はドラゴンを従えてる、ドラゴンの女王です。
私も信じられませんが、彼女がドラゴンを操り
魔物と戦わせてたのを、この目で見ました」
「うむ、儂はドラゴンを支配し、指示を出すことが出来る。
儂は人間よりも遙かに長い時を生きており
魔物に関する知識はお主らよりも遙かに上じゃ」
ドリーズって、意外と研究熱心だもんな。
努力家であり研究熱心なのがドリーズだ。
まぁ、結構特殊な感じだよな。
「……し、信じられません、少しお待ちください」
「はい、いくらでもお待ちします」
一言を残し、彼女は部屋から出た。
「ど、ドリーズ、け、敬語使いなさいよ……」
「儂は敬語など使えぬ、そう言ったであろう?
この姫も、それ位は理解しておろう。
じゃが、儂に喋らすと言う事は
危機的情報を知らせることを優先したのじゃ」
「はい……このままだと危ないですし」
シャンデルナは狙われてるのが確定してるしな。
だから、警戒して貰う為に伝えたと。
結構危ない行動だが、まぁ、やるしか無かった。
そう言う事だろう。
「……お待たせしました」
少しして、領主が部屋に戻ってきた。
彼女は3人の女性を引き連れてきてる。
「ッ!?」
「ん?」
「ど、どうした?」
彼女達は部屋に入ると同時に冷や汗を流し
俺達の方を凝視してる。
彼女達は何かを察知したのだろう。
「……りょ、領主様……疑う事は……ありません」
「な、まだ何も…」
3人とも冷や汗を流して焦ってる。
何かを即座に探知したと言う事かな。
「……私達が扱える、探知の能力
こ、この能力を発動させるまでも無く……
り、理解できる……彼女達は次元が違う」
「例え彼女達が嘘を付いていたとしても
わ、我々は、し、従うしか無い…」
「我々では……手も足も出ない、師匠が全盛期でも
あの少女にすら敵わないのが分かる…」
3人の視線は俺とドリーズを見ていたが
最後の言葉と一緒に視線を向けたのはシルフだった。
彼女達は即座にシルフの才能を見抜いたと?
彼女達の探知とやらの能力を使うまでも無く
即座に理解できるほどの才能だったのだろうか。
「少女、と言う場合は誰になるのじゃろうな?
恐らくシルフの事じゃと儂は思うのじゃがな」
「し、シルフと、言うのですか…彼女は」
「ん、シルフ、よろしく」
「あ、は、はい」
あまりにも異質な会話に感じるが
探知が出来るのなら、これが普通なのかもな。
「主らの能力が探知の能力なのは分かったのじゃ。
対象が嘘を付いてるかどうかを見抜く能力。
男しか扱えぬと聞く特異能力も扱えるとはのぅ」
「……」
「じゃが、そんな能力があるというのであれば
儂の言葉が嘘かどうかを見抜くことも可能じゃろう。
主らという証人がおれば、領主とやらも信じよう。
では、儂が知ってる事を全て話すぞ?」
「は、はい」
宣言通り、ドリーズは自分が知ってる事を
俺達に話してくれたように領主にも話す。
信じられないような内容も多いだろうが
その言葉が全て正しいと、あの3人が肯定。
彼女達が肯定するのであれば真実なのだと
領主は理解して、俯いた。
「……ゴブリンアーミー、最悪の戦い…」
「違うのじゃ、これはただの前座じゃよ」
「……あなたが400年以上生きてるというのも事実
あなたがドラゴンを400年も支配してたのも事実と」
「うむ」
ドリーズの言葉が事実だと見抜ける能力者が居たお陰で
すんなりとシャンデルナの当主は受入れてくれた。
「私も驚きましたが、事実なのは間違いありません。
このままだと、シャンデルナもバスロミアも危険。
可能であれば、ゴブリンの女王を倒したい」
「えぇ、私達も同じ気持ちです。
しかし、情報があまりにも足りません。
ゴブリンの女王が何処に居るかも分からず
次の襲撃が何処になるかも分からない」
「じゃが、放置すれば被害は広がるぞ?」
「えぇ、分かってます……しかし、準備が必要です。
可能であれば、他国にも応援の要請をしたい」
「そうじゃな、主らの戦力では無理じゃろう。
応援を呼ぶというのは重要じゃ」
「……」
ドリーズの言葉を聞いて、あの3人の表情が歪んだ。
恐らくあなた達が動けば終わるのにと思ってる。
「主ら、今、表情を歪めたな?」
「い、いえ、そんな事は…」
「あそこまで露骨に表情を動かせば分かる。
言いたいことがあるのかのぅ?」
「……そうですね、あ、あなた達が全力で戦えば…
このゴブリンアーミーを鎮圧することは
容易に出来るのでは無いかと、そう思いまして」
「本当ですか!?」
「……うむ、そうじゃよ、容易に出来る」
これはまぁ、当然としか言えない返事だな。
何なら、ドリーズが動くだけで終わらせる事が出来る。
ドリーズが配下のドラゴンを全力で動かせば
ゴブリンの集団程度、焼き払うことは造作ないだろう。
だが、ドリーズは絶対にそんな事はしねぇだろう。
こいつは簡単に誰かに縋る行動を良しとしない。
「じゃが、これは人類が解決せねばならぬ問題じゃ。
絶対的な強者に安易に縋り、解決して貰って
それで終りか? 主らは何もすることなく
何かをする努力もせずに、ただ強者に縋り
強者に頼る事しか出来ぬのか?
主らの努力は、その程度なのか?」
「……」
「例え不甲斐ないとしても、被害が出ないのであれば
我々はその方法が正しいと思います。
悲しむ者が1人でも減るのであれば、それが1番です。
絶対的な強者が1人で全てを解決するのであれば
誰も被害を受けず、誰も悲しまずに日々を過せる。
私は領主として、それが正しい事だと思います」
「はぁ、他力本願か……冷めるのぅ」
領主の返答を聞いて、ドリーズはマジで
呆れた様な一言を呟いた。
ドリーズにとって、その返答は気に入らない返事だ。
こいつは努力をする奴が好きだからな。
努力しないで縋ると宣言されれば、こいつは嫌がる。
「良いか、シャンデルナとやらの領主よ。
主の言葉は努力を否定しておるに等しい。
努力し、高みに立っておる者に縋り
全てを解決して貰おうというのは逃げじゃ」
結構口が悪くなってきてるな、これ。
そろそろ止める方が良いような気が…
いや、どうなんだろ、大丈夫か?
「例え逃げでも、それが被害を押さえる方法ならば」
「一時的な被害を押さえるために
将来的な問題を放置するのか?
一時的な被害を押さえるために
避けられない破滅の道を主は選ぶのか?」
「それが」
「えぇい! 理解せい愚か者が!
良いか!? これは人類の為じゃぞ!?
このゴブリンアーミーを儂らが解決する
それは造作ない事じゃ!
あぁ、簡単な話じゃよ!
儂が部下を使い、ゴブリン全てを焼き払い
ゴブリンの女王を排除するのは造作ない!
じゃが、さっき伝えたとおり
今、世界は大混乱へ向っておる。
その全てで、主らは儂らに縋り
自らはただ守られるだけで何もせぬのか!?」
「落ち着けドリーズ!」
「しかしマグナ!」
ちょ、ちょっと感情的になりすぎだろこいつ!
流石にこれ以上は良くないって言うか。
いやまぁ、俺達的には何とでもなるが
バスロミア的には良くねぇ!
普通なら姫様が止めに行きそうな気がするが
正直、俺達の中じゃ滅茶苦茶強いドリーズが
かなり機嫌が悪そうなこの状況で
ドリーズを止められるのは俺くらいだ!
「済まねぇな、領主様、こいつが暴走して。
こいつも一応、ドラゴンの女王だし
それなりの思想ってのがあるんだ。
一応、こいつが伝えたい事を要約するとだな。
今、世界はかなり不安定な状況で
ゴブリンアーミーの後は
アンデッドが滅茶苦茶出てくる可能性もあり
更に他の魔物達の女王が生まれる可能性もある。
魔物の女王が生まれたら、人類と魔物の
全面戦争になる危険性だってあるんだ。
そんな状況で、全部俺達に頼るってのは
やっぱり人類的にも良くねぇと思うんだ。
だからここは色々な国とこの情報を共有して
いざと言う時に、しっかりと連携が出来るよう
準備した方が良いって思うんだよ」
「し、しかし…」
「ゴブリンアーミーはこれから起こるであろう
大イベントと比べれば、まだ優しい方だ。
だから、ヤバい事件とかが起こる前に
このゴブリンアーミーでしっかり練習する。
その方が良いんじゃ無いかなって事だ。
非常事態が起こったときに対処する努力をする。
ドリーズは努力が大好きな奴でな。
努力をする奴は評価するが、しない奴は嫌うんだ。
だから、あんたにも努力をして欲しいと
そう思ってあんな風に言ったんだと思う。
純粋に人類の心配もあるだろうし、悪気は無いんだ」
必死に暴れてるドリーズを押さえながら
一応、弁解をしておこう。
そうしないと、今後問題が出そうだし。
「……すみません、少し熱くなりすぎました。
確かに、そう言う考えも……一理ありますね」
「こっちこそ済まないな、
ドリーズは野性的な部分があるから
ちょっと感情的になりやすいんだ…」
「……儂も少し感情的になりすぎた。
もう少し理論的に話せば良かった
すまぬ、シャンデルナの領主よ」
な、何とか仲直り出来たかこれで!?
ちょ、ちょっと不安だが……ま、まぁ、良しとしよう。
「す、すみません、キュリウス様、う、うちの者が…」
「いえ、彼女にも彼女なりの考えがあってのこと
私達に対し、悪意があったわけでは無いのは分かります。
確かに彼女が言ってることも理解できます。
今後の事を考えれば、国同士の連携を強化する方が良い。
私もハッとさせられました…
すみません、不甲斐ない領主で」
「い、いえ! キュリウス様が頭を下げることでは
こ、こちらこそあんな風に暴れさせてしまい、
申し訳ありません!」
何とか和解できたような雰囲気になったな。
しょ、正直、キュリウスって人が結構紳士的で
滅茶苦茶助かった……暴君とかだったらヤバかった。
はぁ、今度からドリーズが暴れないように注意しよう。




