刺激的な時代
ドリーズをとりあえず落ち着かせ
再びシャンデルナに向う。
今はゴブリンアーミーだとか
そう言う、結構国の危機的状況だが
ここから自国に戻るのに3日
シャンデルナには今日中には着くだろう。
安全面を考慮すれば、
シャンデルナに向うしか無い。
そりゃ、バスロミアも心配だが
まぁ、あっちはドリーズの部下が居る。
国に惨事が起こりそうなら動くだろう。
「バスロミアは大丈夫でしょうか…」
不安なのか、リスティア姫が呟いた。
だが、兵士達は不安そうな表情は無い。
国には最強であるシャナが居る
だから、絶対に大丈夫だという確信だろう。
ま、俺も大丈夫だとは思うがな。
問題はむしろ、こっちだろう。
シャンデルナが大丈夫なら良いが。
「うー、危険な状態なら
私も外で歩いてた方がいい気が…
だって、ゴブリンなら私も活躍できるし」
「主はそこで待機しておるのが適切じゃよ。
儂らの防衛を突破出来る可能性は低いが
万が一という場合もあるじゃろう?
儂らが戦ってる間の奇襲も無いとは言えぬ。
ならば、最悪の場合に戦える主が
そこで人の姫を守る方が良かろう」
「そ、そうね…」
ちょっとだけ申し訳なさそうだが、フェイトは了承
周囲の兵士達もフェイトへ信頼の言葉を贈り
そこで姫様を守って欲しいと伝えてた。
実際、フェイトの獲物は弓矢だったりするが
それ以外にもナイフを持ってたりもするし
あの狭い馬車内なら、フェイトが強いのはそうだ。
兵士達の獲物は剣や槍だからな。
弓矢を持つ兵士はあまり数は多くなく
実際、馬車からの援護射撃も出来るし
最悪の場合、即座に対処出来るフェイトは
馬車での護衛が1番と言える。
まぁ、馬車内で誰かを守るという部分であれば
俺が1番なのは間違いねぇんだが
俺の場合は最悪馬車壊しかねねぇからな。
それに、一応は主戦力だしよ。
「しかし面倒じゃなぁ
ゴブリンの雑魚共を狩りながら
国へ進むのじゃろ? 面倒極まりない」
「こっから国に戻る方が時間掛るしな。
一応、シャンデルナの防衛も出来るだろうし
ま、一石二鳥って感じで良いだろ。
国の同盟ってのも、自分達の危機を
俺達が救ってくれたってなりゃ、やりやすいだろ」
ま、シャンデルナは魔法国家とやらだから
戦力は十分かも知れねぇけどな。
だが、シャンデルナに近いこの辺りで
ゴブリン共に襲撃されてるんだしよ。
「同盟を組もうとした国が既に滅んでは
何もかも無意味じゃがな。
ゴブリンの国なんぞに用はあるまい。
奴らからすれば人等、ただの孕み袋じゃよ」
「そう言う理由で襲うのかよ…」
「うむ、ゴブリンは基本、オスしか生まれぬ。
稀にメスが生まれるが、その個体は
ゴブリンの女王という立場じゃからな。
ただのゴブリンが手を出せる相手では無い。
奴らからすれば、同族のメスは崇拝の対象。
言わば、ゴブリンの神というような存在じゃ」
「じゃあ、ゴブリンの女の子が生まれたから
今回みたいなゴブリンアーミーが起きたのか?」
「そうじゃろうな、ま、生まれてすぐでは無かろう。
しばらくはなりを潜め、数を増やしていき
兵力や戦力を整えてゴブリンを育てる。
緑色のゴブリン以外は、この準備中に生まれ
育てられてきた、ゴブリンの精鋭と言えよう。
女王を中心として、ゴブリンという種が団結し
女王の指揮の元、戦力を増やして行動をする。
女王の目的は種の繁栄、儂と同じ目標じゃ」
「同じゴブリンの子供産めば良いだろ。
お前らは何で人狙うんだよ」
まぁ、ドリーズは一応、分からないでもない理由だ。
同族のオスが色々とデカいからだろうな。
だが、ゴブリンの女王は違うような気がするが。
「儂の理由は既に伝えておろう。
ゴブリンの女王が何故人のオスを狙うのかは
儂も知らぬ、興味無いしのぅ」
「興味ねぇ割に、色々と詳しいよな」
「暇なのじゃ、儂は長い時を生きておるからのぅ
そんな儂でもゴブリンアーミーは100年に1度の
大イベントじゃ、儂も一応は見ようとしてのぅ
じゃから襲撃の度に顛末はある程度見ておるよ」
「他になんか大イベントあるとか?」
「うむ、ゴブリンアーミーが起こると
その後から、色々と騒ぎになるのじゃ。
魔物の活動がかなり活発になってくる時期じゃ。
ゴブリンアーミーの後はアンデットの祭じゃ。
日が隠れ、アンデットが動き回って大騒ぎじゃ。
ゴブリンアーミーで死んだ人間も盛大に動き出し
ゴブリンアーミーで死んだゴブリンも動き出す。
因みにこれは200年に1度の大騒ぎらしい。
母が教えてくれたのじゃ、母もかなり長寿でのぅ
色々と知っておって、教えてくれたのじゃ。
因みに前回起きたのは200年前。
つまり、この年はこのアンデッドの祭が起こる」
何か、滅茶苦茶大惨事になってね? 人類。
「それと感覚でしか無いが、魔力の濃度が高い。
恐らく、儂の様な魔物の女王が多く増えるじゃろう。
魔物達の活動も最近は活発になっておるしのぅ。
部下達の報告では、明らかに異常事態。
実に実に喜ばしい事じゃ。
マグナと言う最高のオスを見つけただけで無く
長い時を生きておる
この儂ですら経験した事が無い
今までに無い、最高の祭が始まるのじゃ。
更にマグナ、シルフ、シャナと人類の戦力も
今までに無いほどに尖っておる最高の時代!
くく! 実に楽しみじゃ! 実に実に!」
ドリーズがかなり嬉しそうに笑ってるな。
だが、話を聞いてるリスティア姫や
フェイトなんかは青ざめてる。
「て、て、適当言ってるんじゃ無いでしょうね!」
「適当では無いぞ? 儂の経験じゃ。
まぁ、信じなくとも良い。
その場合、主らが後悔するだけの話じゃ。
まぁ、主はマグナの庇護下におる。
更に儂とシルフ、シャナまでおるのじゃ
何が起ころうとも、どうとでもなる。
少なくとも、最大の祭が始まろうとも
主らは最悪の相手であるドラゴンの女王を
その手中に収めておるのじゃし
何とかなるじゃろう」
ドラゴンが味方だよって言ってるな
実際、国の長としては安心感凄そうだな。
何があっても大体何とかなるって訳だし。
「てか、それぞれの魔物の王って、
やっぱ女の子なのか?」
「儂が知っておる中では、皆、人のメスの姿じゃ」
「何でだ?」
「うむ、理由は恐らく簡単な事でのぅ
メスはその身に子を宿すであろう?
つまり、オスよりも色濃く遺伝を残せるのじゃ。
そもそも、人のメスに魔物の子が出来たとしても
人のメスが、子が生まれる際に死ぬじゃろ?
儂を見て見よ、大きな翼が生えておるし
鋭利な爪に角まで生えておる。
人のメスに儂のような赤子が宿ったとして
そのメスが死ぬ可能性は極めて高い。
仮に死ななかったとしても
生まれてくる子は儂らの要素が薄くなろう」
うん、そうだな、簡単に理解できたわ
考えてみりゃそうだよな。
だって、角と尻尾と鋭利な手足と翼。
人間じゃ、その色々と尖ってる部分が
体の中で体中にぶっささって死ぬよな。
「つまりは必然なのじゃよ
確実に子を残すのであれば
メスである方が都合が良い。
特に儂らのような強き存在は
無駄に数を増やすと争いの種じゃ。
次代の女王は1人で十分じゃ」
弱い生き物は滅茶苦茶子供を残すが
強い存在はあまり子供を残さないって言うしな。
強い存在の中で相当上位に位置するであろう
魔物の女王達があまり子を残さないのは当然か。
「と言う訳でマグナ、儂に子を産ませてくれ」
「もうその話は良いだろ……今は真剣な話だろ?」
「まぁのぅ」
「でもよ、ふと思ったが女王が皆女の子なら
男の能力で催眠術的なのありそうだし
それを使えば支配できるんじゃね?」
「うむ、おったのぅ、そう言う使い手」
「え!? 居たの!?」
「うむ、ゴブリンアーミーの時じゃな
ゴブリンの女王に催眠術とやらを試した
オスが居たのじゃ」
「なんで知ってんだよ」
「興味があったからのぅ、人の戦いに。
ま、結果は無意味じゃったな」
「はぁ……でも、男の目的次第じゃそれ
別に失敗したわけじゃ無いんじゃ?」
「催眠術はね、実力差があると効果が無いのよ」
俺達の会話にフェイトが参加してきた。
「どう言う事だ?」
「そのままの意味、催眠術は実力差があると
効果が無いのよね、シャナさんも効いてないし」
「シャナも使われそうになったんだな…」
「えぇ、効いてなかったわ。
理由を調べたら、魔力次第で効果無いらしいわ
シャナさんは魔力も高いって事でしょうね。
つまり、シャンデルナに来ていれば
魔法が使える様になる可能性が高いわ」
それが本当なら、シルフは大丈夫そうだな。
とは言え、フェイトは喰らいそうだけど。
「私も魔力量増やしたいんだけど…」
「何でだ?」
「だって、催眠術とか喰らいたくないし!」
フェイトは男嫌ってるからな。
正直、俺は催眠術って大っ嫌いなんだよな。
相手へのリスペクトが全くねぇ行動だし
俺は絶対に嫌だと感じる能力だ。
「ま、そう言う事じゃろうな。
魔物の女王は言わば魔力の塊じゃ。
人のオスが使う能力等受けまい」
「じゃあ、魔法も効果ねぇのか?」
「並の魔法であれば……じゃが」
「……ん?」
ドリーズがシルフに視線を向けてるな。
そりゃまぁ、ドリーズはシルフの魔法に
手酷くやられてるわけだし。
「高い実力を持つ魔法使いの攻撃であれば
儂であろうともダメージを喰らう。
それは既に、身をもって知っておる」
「……ごめん」
「いや、怒っておるわけでは無いぞ?
お主の才能が凄まじいという意味じゃ」
やっぱりスゲー才能なんだろうな。
「この先のことを考えれば良い事じゃ。
これから大騒動が多発するはずじゃしな。
ま、今の問題は」
その会話の後位に視界が開け、城壁が見えた。
そこには大量のゴブリン達が群れている。
「シャンデルナとやらがゴブリンの国になるのも
時間の問題じゃと言う事じゃ」
「そ、そんな!? シャンデルナが襲撃を!」
「さて、同盟とやらを言える状況ではないのぅ。
人の姫よ、ここは下がる方が良さそうじゃが」
だが、そのアドバイスは少し遅かったと言えるな。
既に目を付けられちまったようだし。
「もはや退路も無い」
「だな、逃げ道塞がれちゃ逃げられねぇ
ま、見た感じ、門も壊れてねぇし
あの群れ吹っ飛ばして、国の中行くか!
フェイト! 姫様とミントを守れよ!
兵士の連中はただ走ることだけ考えろ!
前だけ見て走れよ? 置いて行かれるな!
馬車も全力全開でぶっ飛ばせ!
ミントと姫様は全力で何かに掴まれ!
露払いは俺達がやる!」
「置いて行かれた場合は流石に手は貸せぬ。
孕み袋になりたくなければ置き去りにされぬよう
儂らを信じて走り続けよ!」
「シルフは魔法で周囲を攻撃してくれ
正面は俺達が全部ぶっ飛ばすからな!」
「ん、任せて」
さて、正面突破、やって見せようか!




