シルフVSドリーズ
やっぱりかなり不安だ……不安だが……
ここで無理に止めるのも良くないだろう。
俺は傍観者、今回に限ってはそうするしか無い。
「よし、ではシルフよ、全力で魔法を使うのじゃ。
儂はその魔法を避けたりして立ち回ろう」
「ん、分かった」
彼女の言葉を聞いて、シルフが小さく構えた。
一瞬、瞳を閉じて意識を集中させた後に
シルフは目を開け、両手を合せた。
同時にドリーズの足下がはじけ飛んだ。
「なん!?」
大地がはじけ飛び、ドリーズの足下から
巨大な植物が飛び出し、ドリーズに伸びていく。
おいおい、シルフってこんな規模の魔法使えるのか!
「ぬぉお! な、なんと強力な魔法じゃ!
確か、さ、最上級じゃったかな!?
この魔法は、木属性魔法の最上級魔法!」
「そうなんだ、知らなかった」
「知らなかったのにどうやって発動させたのじゃ!?」
「本気で木属性魔法を使ったらどうなるか試しただけ」
「無茶苦茶な!」
こりゃスゲーな、ドリーズが空を飛べなかったら
多分、この植物であっさりと終わってたと言える。
大地が砕けて伸びてきてるわけだしな。
予備動作も殆どねぇし、あのデカい植物
大きな口みたいな場所もあるし、多分食虫植物とか
そう言うタイプの植物なんだろうな。
空を飛べなかった場合、その植物に拘束され
恐らく、あの口の中に持って行かれてただろう。
だがドリーズは空を飛べるわけだし
彼女は即座に飛び上がり、伸びてくる触手を切断。
「全く驚きじゃよ!」
触手を避けると同時に炎を口に溜めて
足下から出て来た食虫植物に向けて
巨大な火球を放ち、植物を一瞬で焼き払った。
大した火力だな、一瞬で植物を焼き払うとは。
「ん」
あの火力だし、結構熱いかも知れないが
シルフは自分の周囲に水の壁を展開して
その熱を無効化した。
「ふぅ、お、驚いたのじゃ。
まさか、初手からこの規模を扱ってくるとは」
「まだ追撃する」
「ぬおわぁ! み、水か!?」
シルフが水の壁に振れると同時に
そこからかなりの高水圧の水が放たれた。
ドリーズがその水に気が付き、大きく身を動かして
シルフの攻撃を空中で避ける。
「ま、全く容赦の無い」
「ん!」
「な!?」
水を避けられたと判断したシルフは即座に腕を動かし
今度は引掻くような動作を行なう。
その動作の際、シルフの展開してた水の壁が動き
引掻かれた水の壁から、4本の高水圧の水が放たれた。
「くぉ!」
範囲が広く、不意打ちだったからなのだろう。
流石のドリーズもその水圧カッターを避ける事は出来ず
両手を動かし、その攻撃を防いだ。
ドラゴンの鱗だ、並の攻撃力じゃ意味はねぇだろう。
だが、シルフの水圧カッターは
ドリーズを斬り裂くことは無かったとは言え
彼女の鱗を斬り裂き、僅かに出血させる事が出来てた。
「大丈夫?」
やり過ぎたと感じたのか、シルフが不安そうに
小さく大丈夫かを聞いていたが
距離的にドリーズには聞えてねぇだろうな。
シルフは声がかなり小せぇし。
「あ、危うかった……あまりにも驚きじゃ……
まさか、儂の鱗が引き裂かれようとは……」
自分にかなりの自信があるドリーズだが
流石に自分の鱗が斬り裂かれたのは動揺してる。
自分の最大の防御を容易に突破されてしまった。
そりゃ、あいつからしてみれば衝撃だろう。
「やはり儂の防御力もまだまだじゃな。
マグナであれば、傷1つ付くことは無かったじゃろうに」
自分の腕を見て、少しだけ冷や汗を流すドリーズ。
だが、少ししてにやりと笑い、力を込めると同時に
彼女の腕から出ていた血が一瞬で止まった。
「やはり儂の目に狂いは無かったのじゃ!
むしろ、想定以上の強さと言える!
くく! 流石はあのマグナの妹じゃ!」
「怪我したのに楽しそうだね」
「無論じゃ、儂は主の強さを見て楽しんでおるからのぅ!
本来なら、全力の攻防をしたいところじゃが
マグナからの警告もあるし、攻撃は出来ぬ。
じゃから、儂は避ける練習をするのじゃ。
主は攻撃の練習じゃな、さぁ、もっと来るのじゃ!
安心せい! 儂はそう易々と死にはせん!」
「うーん、どうしてそこまで戦おうとするの?
にーにが居るんだし、そこまで頑張らなくても」
「確かにマグナがいれば、どんな相手も粉砕するじゃろう。
圧倒的な力を持ち、儂らに対して悪意を持たぬ。
じゃが、マグナに頼るだけでは儂らは人形と変わらぬ。
犬猫と変わらぬ、ペットのような生き方になるじゃろう。
それでは良くない、儂らは対等にならねばならぬのじゃ。
それに、努力をするのはとても楽しい事じゃしな。
鍛えれば鍛えるほど、自らが強くなってると自覚できる。
成長しておると、実感することも出来る。
昨日の自分よりも1歩進んでいると実感できる。
長い時を生きておると、
そう言う喜びが至高の喜びと理解できるのじゃ」
長い時を生きてるからこそ、努力を楽しんでるのかもな。
努力をすることで楽しいと感じる様な時間を得てる。
自覚が出来るからこそ、必死に努力が出来る。
何となくだが、俺も分かるような気がするぜ。
地獄で飽きる位の時間を過ごしたからな。
ま、俺の場合は痛ぇ思いをしたくなねぇから
必死に鍛え続けてただけだがな。
努力を嬉々としてやってたわけじゃ無くて
努力しねぇと痛いから努力してただけだしよ。
「主の魔法も、必死に努力をして応用を利かせれば
もっとマグナの役に立てるじゃろうし
もっと高みへ歩む切っ掛けにもなるじゃろう。
じゃが、まずは今の自分を自覚するためにも
全力で儂に向って攻撃を仕掛けてくるのじゃ」
「……よく分からない、だけど分かる事はある。
ドリーが楽しいなら、遠慮する必要は無い」
「うむ、儂は楽しんでおる、じゃから遠慮は不要じゃ!」
ドリーズが機動力を得る為か空に飛び上がった。
「なら、楽しんで」
シルフが両手に激しい電気を纏わせた。
そうだなぁ、雰囲気としてはマッサージの時だな。
あの時に両手に纏ってた電気と同じ様な感じに思えた。
「なんと……離れておるのに、僅かじゃが痺れるのじゃ」
「にーにのマッサージの時しかやった事無いけど
私のビリビリ、結構音が凄いから、凄そうだし」
「マッサージとは……また酔狂な」
「ん!」
電気を纏わせながら、シルフが雨の様に
大量の水滴を空に打ち上げた。
「水滴……まさか!」
「最高に痺れちゃって」
周囲に浮かび上がった水滴が、一瞬で動き繋がる。
ドリーズを包んでシルフの両手に水が触れると同時に
「うぐぁあああ!」
激しい轟音と共に、水がはじけ飛び
ドリーズが大きな声で叫び、落下した。
「お、おい! 大丈夫かドリーズ!」
「……だ、大丈夫!? や、やり過ぎた!」
ドリーズは僅かに黒くなり、少しだけ煙が出てた。
だ、大丈夫かよおい、し、死んでねぇよな!
「……う、うむ、し、死ぬかと思ったのじゃ……
儂、300年以上生きてきたが、
ここまでダメージを受けたのはこれで2度目じゃ…」
「お、おぉ! 生きてたか! 流石に頑丈だな」
「よ、良かった、ご、ごめん、やり過ぎた。
にーには平気だったから、だ、大丈夫だと思って…」
「やはりマグナにもやった事があるのじゃな……」
「にーにには直接触ってやっただけだけど……」
「同じ様にやられてたら、俺も結構痛いのかもな」
「お、お主は平気じゃろう……うむ、間違いないのじゃ。
儂が1回目に死にかけたときも
お主は余裕そうじゃったし」
2度目って言ってた、1度目って反動でダウンしたときか。
「し、しかし……し、痺れたのじゃ。
儂が僅かに焦げるとは……こ、これが雷属性魔法…
雷に打たれたことはあるが、ここまで痛くはなかった」
「う、打たれたことあるんだな」
「うむ、空を飛んでおるときに何度か。
じゃから、雷には耐性があると思っておったが
まだまだじゃな、儂も鍛え直さねば…」
電気の耐性って、鍛えてどうにかなんのか?
とか、思ったが、俺は平気だったな。
シルフの全力を受けてもケロッとしてたし
鍛えれば耐性が突く可能性はあるのかも知れねぇ。
「で、どうすんだ? もっとやるのか?」
「い、いや、流石にちょっと疲れたのじゃ…」
「じゃあ、今回はここまでか」
「う、うむ、そ、そうじゃな」
少し辛そうにしながら、ドリーズは起き上がり
炎を放って、ドラゴンを呼んだ。
「が、がぅ」
「む? 大丈夫じゃマモーよ、心配する事は無い。
この程度で主らの王が倒れることは無いのじゃ。
じゃが、少ししんどいからのぅ
儂も主の背に乗ろうと思うが、良いか?」
「が、がう!」
ドリーズの言葉でかなり嬉しそうにして
マモーは身を小さくして背中に乗りやすいようにした。
「うむ、感謝するのじゃ」
俺達は3人でマモーの背中に乗った。
マモーは俺達が乗ったのを確認して飛び上がる。
「おぉ、飛べるんだな、流石はドラゴンだ。
お前の体重って100は越えてるらしいから
少し厳しいかと思ったが、やっぱ力あるんだな」
「儂らは力は十分あるからのぅ。
特にマモーは精鋭の一角じゃし」
「はは、そう言えばそうだな。
しかし、マジで大丈夫か? ドリーズ」
「うむ、この程度大した事は無いのじゃ。
それとマグナよ、ドリーで良いぞ。
そっちの方が覚えやすかろう」
「ドリーズもドリーも同じさ。
それなら、本名の方が良いだろ?」
「……そうか」
「……ごめんね、ドリーズ」
「主が謝ることは何も無いのじゃ。
儂が全力でやって欲しいと願ったのじゃ。
何、少し痺れただけ、すぐに完全に治癒するのじゃ」
「……ん」
やり過ぎたと感じたからなのか、シルフは落ち込んでる。
だが、ドリーズは大丈夫とシルフを励ます。
マジでシルフには堪えたかもしれねぇな、あの攻撃は。
やっぱりシルフの魔法は相当火力があるってのが分かった。
ドリーズも大ダメージを喰らう程だしな。
今回の事でシルフは自分の魔法が威力がヤバいってのを
理解する事が出来たのかも知れないな。
同時に、俺の防御力が異常だってのも分かった。
一応、収獲があったと言えるかもしれねぇな。




