戦いの場所へ
正直、お兄ちゃんとしては
あまりシルフに危ない事はして欲しくねぇ。
でも、シルフがやるって決めたんなら
俺は黙認しねぇと駄目だよな。
「よし、この辺りで良かろう」
「ん、でも近い」
「うむ、ここからもうちょっと距離を取るのじゃ」
そう言って、ドリーズが手を上げて
掌から軽い炎のような物を打ち上げた。
少しして、大きな影が俺達の前に出てくる。
「うむ、よく来たのぅ、マモーよ」
やって来たのはドラゴンだった。
ドリーズの配下であるドラゴンは
地上に降り立った後、お辞儀をする。
ドリーズはそのドラゴンに歩み寄り
ドラゴンの頭を軽く撫でて労を称える。
ドラゴンは少しだけ嬉しそうにしている。
「では、この2人を背に乗せ
儂の後に付いてくるのじゃ」
「ぐるぅ」
彼女の言葉に対し、お辞儀をした後に
俺達の近くまで移動し、背を低くした。
「こりゃ面白いな」
「ドラゴン……格好いい」
「ドラゴンの背に乗るのは貴重な事じゃぞ?
まぁ、儂が共におるのじゃからな。
儂に言ってくれれば、移動の足には困るまい」
「ありがたいな」
ちょっとだけ嬉しい気分になりながら
俺はシルフを背負ってドラゴンの背に乗った。
マモーだったかな、このドラゴンの名前。
「うし、サンキュー、マモー。
よろしく頼むぜ!」
「がぅ」
俺の言葉に、マモーは少し嬉しそうに応えた。
「嬉しそうじゃなぁ、マモーよ。
うむ、主は強きオスを好んでおるし
儂の役に立つことを喜びにしておるしのぅ。
くく、主は実に可愛らしい奴じゃなぁ」
「がぅ」
正直、このドラゴンの言葉が理解できねぇってのは
ちょっとだけ勿体ない気持ちになるな。
言わば、ペットの言葉が分からないような感じだ。
厳ついが、可愛らしい奴ってのは何となく分かる。
「では、行こうか、振り落とされぬように掴まるのじゃぞ?」
「大丈夫だ、シルフは俺に掴まってろよ?」
「ん」
俺達が捕まったのを確認した後に
ドリーズが動き出し、マモーも後を追うように動いた。
「うひょー! 中々良い風だな!」
「そうじゃろう? やはり風は気持ちよかろう!」
「あぁ! 良い気分だ!」
「ん、でも、にーにが居ないと乗れない…」
「そうじゃなぁ、主の手の大きさでは無理も無い。
それに、マグナ以外は上手く掴めぬかもしれぬな。
そう言う道具が必要やも知れぬ」
「だな、もしも今度、冒険するときに
ドラゴンの背中に乗せて貰うってなった時に
全員が同じドラゴンの背に乗るって訳にもいかねぇだろ
となると、フェイトとミントが危ないしなぁ」
「冒険かぁ、お主らしいのぅ、実際必要な事じゃろう。
しかし、儂が出来る事は部下を呼ぶことだけじゃ。
そう言った道具が必要なら、そちらで用意して欲しいのじゃ」
「だなぁ、あ、そう言えばよ、何人までなら行けるとかあるか?」
「儂の部下は最低でも100体はおるし、同時に移動となれば
そうじゃなぁ、300人程度が最大じゃと思うぞ」
「じゃあ、ドラゴン1体に付き、3人までなのか」
「うむ、それ位が安全じゃと思う」
「てか、最低100体って、全体数把握してないのか?」
「数が多いのじゃ、仕方あるまい
全員招集することなど無いしのぅ」
ふーん、ドラゴン100体ってのはスゲー気がするな。
俺なら問題はねぇだろうが、普通はひとたまりもねぇ。
俺も全員を守りながらその数相手は面倒くさそうだ。
しかし、聞けば聴くほど、こいつって力あるなと感じる。
「うむ、この辺りが良かろう」
少しして、ドリーズが降下して、マモーも降り立つ。
そこはそこそこ広い草原になっていた。
「この辺りならば人も来るまい」
「平原なのに街とか村とかねぇのか?」
「うむ、ここは儂らが良く活動しておる場所じゃ。
人間ではこの辺りに辿り着くことは出来ぬよ」
「人が来ねぇならもうちょっと草木が生えてそうだが」
「儂らが管理しておるからのぅ」
「何でだ?」
「ドラゴン同士の戯れでここで戦う事があるのじゃ。
勝者は儂の側近になる事が出来るのじゃ」
「側近ってなんだよ」
「儂の指示を受けて行動するドラゴンじゃ。
マモーもその一員じゃぞ」
「じゃあ、あの時の10体がそうなのか?」
「いや、全員では無い、マモーとピンキーがそうじゃ。
他の者は儂の側近という立場ではないが
儂の部下である事は変わらぬよ」
「つまり、その側近はドラゴンの中でも強いと」
「うむ、そう言う事じゃ」
ほほぅ、ドラゴンの中でもやはり強い奴と弱い奴が居るのか。
「じゃが、儂は部下の扱いを強さで変えたりはせぬが」
「強さこそ全てって思考じゃねぇのか?」
「儂に仕えてくれておる者を無下にはせぬよ。
強さに拘るのは、儂の夫になるオスに対してのみ。
部下達への扱いは、努力の有無で決めておる。
努力しておる者は評価するのが儂のやり方じゃ。
さ、マモーよ、少しここから離れるのじゃ。
他のドラゴンたちにもあまり近寄るなと伝えよ」
「がぅ」
再びマモーがお辞儀して、空へ飛び立った。
「では、待たせたのぅ、シルフよ」
「ん、頑張る」
「おぉ! 頑張れよシルフ!」
「ん、任せて」
「マグナよ、お主はそこで大丈夫か?
恐らくじゃが、規模が規模じゃし、巻き込まれるぞ」
「大丈夫だ、俺が怪我をすることはそうねぇよ」
「そうじゃろうな、では、そこで見ておくのじゃ。
後、シルフの加勢等はするでないぞ?
主が加勢してしまうと、シルフの為にならぬ」
「分かってるよ、怪我はさせるなよ?」
「安心せい、儂は攻撃せぬからな」
「すんなよ? マジで」
「心配性じゃなぁ」
「大丈夫」
「そ、そうか、分かった」
ちょっと心配ではあるが、シルフの為だしな。
ここは大人しくシルフの戦いを傍観しよう。
ドリーズも攻撃しねぇって言ってるし信じるとするかな。




