挨拶と取引
シャナに連れられ、リスティア姫の待つ
姫様の部屋にまでやって来た。
謁見という訳だから
本来は最初に城に来たときのように
大きな広間で会うのかと思ったが
意外な事に少しだけ大きめの部屋だ。
部屋の中には僅かな兵士と共に
リスティア姫が待ってる状態だった。
意外と護衛が少ないように感じるな。
「ようこそ、お待ちしてましたわ」
「わざわざすまねぇな、忙しいのによ」
「いえいえ、あなたと面会するのは
私にとっても、大事な事ですので」
「はは、そりゃ嬉しい事を言ってくれる。
所で、護衛少なくね?
普通はもうちょっと居るもんじゃねぇの?」
「あなたの事を信頼しているからですわ。
それに、仮に兵士を多く配置したところで
あなた様を何とか出来るはずもありませんし」
まぁ、俺は相当強いからな。
俺の事を信頼してるし
そもそも護衛が居ても護衛にならないから
兵士をここにはあまり集めなかったって感じか。
「して、ご用件は」
「あぁ、こいつの事だ」
「うむ、儂が今日、マグナがここに来た理由じゃ。
人の王よ、いや、姫かのぅ」
「ちょ、ちょっとあんた……少しは礼儀正しく」
「マグナも礼儀正しい様子はないじゃろ?
何故儂が礼儀正しくせねばならぬ」
「相手はお姫様よ、この国の偉い人。
あんたはここで世話になるんだから
少しは礼儀正しくしなさいよ」
「いえ、構いませんよ
マグナ様と同じようにお話ししていただいても」
「ほらの?」
「うぅ…」
リスティア姫って、意外と礼儀作法に寛容な気がするな。
「しかし、あなたは……純血の人間ではありませんよね…
その、つ、角が生えてますし、尻尾も生えてます。
マグナ様は獣人種ですが、あなたは……」
「儂は竜人種という種族じゃな」
「竜人種……おとぎ話で聞いたことがあります。
は、遙か昔に幼い容姿をした空を飛ぶ少女が居て
国へ迫る数多の魔物を焼き払い、姿を消したという…」
「おぉ、そうじゃなぁ、確か300年程前じゃな。
大量の魔物が儂の縄張りに入ってきたから
焼き払った記憶があるのじゃ」
「え!? お、おとぎ話で語られてた
その竜人種って、あ、あんたの事だったの!?」
「さぁ? そう言う記憶が儂にあるだけじゃよ。
儂は主らの言うおとぎ話など知らぬし」
そりゃまぁ、こいつは国に居たわけじゃないからな。
国のおとぎ話なんて知るわけも無いだろう。
かく言う俺も知らないからな、そんなの。
「てかよ、300年て、随分前だな」
「言ったであろう? 儂は100は生きておる」
「300年の方が良くね?」
「それだとより信憑性が薄くなるじゃろ?」
確かに300年はより信じられねえな。
「さて、この話はもう良かろう。
自己紹介じゃ、儂の名はドリーズ
この辺り一帯のドラゴンの女王じゃ」
「ど、ドラゴンですか!?」
「うむ、儂はドラゴンを支配しておる」
ドラゴンを支配してるという宣言
国の姫としてはかなり怖いだろう。
自分相手に馬鹿なことは言わないだろうから
その言葉の信憑性はかなり高いしな。
下手に刺激をしたら
最悪ドラゴンが襲来するかもしれない
ドラゴンが来たら国としてはほぼ終わりだろだろう。
「何、そう怯えることはない
儂はマグナに世話になるつもりじゃ
当然、マグナが所属しておる人の国に
配下を送ることなどせぬよ」
「さ、左様ですか……」
ドリーズの言葉でリスティア姫が
少しだけ安心したように呟いた。
「それとじゃな、儂は配下に国に近寄る
魔物の排除を命じておる」
「ほ、本当ですか!?」
「うむ、ただし多少厄介な魔物のみじゃ
オーガレベル以上は排除するが
それ以下は主らで対処するのじゃ
スライムとかの雑魚には関与せぬ
人同士の争いにも関与はあまりせぬ。
状況次第であれば対処するがのぅ」
正直、こいつの部下が防衛に参加してくれるのは
国としての戦力底上げってレベルじゃ無いな。
そりゃ、ドラゴンが守ってくれるわけだしよ。
「本当にありがとうございます!
最近は魔物の数も多くなってきてまして
我々としても、対処に困ってた所です!」
「そうじゃなぁ、確かに最近は魔物も増えておる。
正確には力ある魔物が増えておるといえるか」
「そうなのか? サッパリそんな気はしねぇが」
「……ふむ、1つ聞いておこうかのぅ、マグナ。
お主はどのレベルなら力ある魔物と考える?」
「……お前くらい?」
「うむ、そう言うと思ったのじゃ」
少なくとも力を抜いてる状態の俺にダメージを与える。
そのレベルじゃ無きゃ、力あるって感じねぇ。
「力ある魔物は儂が伝えたオーガレベルじゃ」
「いえそのー、わ、我々基準であれば
お、オーガは凄く危険な魔物レベルなのですが……」
「む? そうなのか? 雑魚じゃろ奴ら」
「す、少なくとも一般兵士では勝てないレベルが
我々の力ある魔物の基準と言いますか…
そ、そうですね
フェイト様が苦戦する相手なら
危険な魔物と言いますか」
「そ、そうよ、じ、自分で言うのもなんだけど
わ、私って国の評価としてはシャナさんの次に強いのよ。
シャナさんとの間には雲泥の差はあるんだけど…」
「同時に、フェイトと一般の兵士では相当の差があるんだ…
つまり、私達の基準で言えばフェイトが苦戦する魔物は
一般の兵士では手も足も出ない魔物と言える。
で、フェイトが敵わない魔物は
1部部隊が束になっても
勝てない可能性が高い魔物だ……」
あー、つまりフェイトが逃げる事しか出来なかった
オーガレベルの魔物は一般の兵士じゃ勝てねぇのか。
ただ、あの話の雰囲気だとシャナは勝てるんだろうな。
「そして、シャナが1対1で戦って苦戦する魔物は
国家存続の危機と言えるほどの魔物です。
多分ですが、このバスロミア王国以外であれば
壊滅するレベルの魔物と言えるでしょう」
つまりドラゴン飛来したらほぼ終わるんだな。
だが、気になる要素として男はどうなるんだ?
俺は俺以外の男は父さんしか知らねぇから分からねぇが
強けりゃ強いほどに上に行けるわけだから
強いのが普通だと思うんだがな。
一応聞いておくか、少なくとも俺よりは詳しいだろ。
「男が居るんじゃねーの?」
「その、確かに男性の方達は強いのですが……
ほ、殆どの男性は鍛えてないので……
魔法や特殊能力次第では……可能性はありますが
特殊能力は鍛錬次第と言いますか……」
「ふん、並のオスは殆ど肉体的強度が無いのじゃ。
鍛えておれば魔法も高火力で扱えるじゃろうし
特殊能力とやらも完全に扱えるじゃろうが
鍛えてない場合は反動で身が滅びるし
ドラゴンや格上相手には効果が無いのが普通じゃ」
「効果ってなんだよ、俺は特殊能力か?
そう言うの、さっぱり分かんねぇし
魔法も使ったことねぇから分からねぇが
そう言うのって無条件に効果あるんじゃねぇの?」
「儂もよく分からぬが、効果はないじゃろう。
儂も一度だって影響を受けたことは無いしのぅ」
「戦ったことあるのか? 俺以外と」
「うむ、全て手応えがなさ過ぎて
話しにならなかったのじゃ」
特殊能力ってのは、何かしらの要因で
影響がなかったりするのかねぇ。
魔物に効果がねぇのか、他に要素があるのか。
さっぱり分からねぇが、少なくとも分かる事として
シャナは色々な男に挑まれて返り討ちにしてるから
無条件に影響を与える能力はねぇんだろう。
「ふーん、要は普通の男程度じゃ
大して戦力にならねぇと」
「は、ハッキリ言うとそう言う……」
「ふん、男なんて役立たずの屑共なのよ……」
フェイトが小声で男の悪口を言ってるな、
やっぱ嫌いなんだろう。
ただまぁ、この場で貶すのは良くないと判断してか
近くに居る俺達にしか聞えない程度の小声だった。
「うむ、並の男は全く面白味の無い屑ばかりじゃ
己の能力を過信し、鍛えておらぬ者ばかりで
儂としても、あまり面白味を感じぬのじゃ。
じゃが、主は違うのじゃ! 別格! まさしく別格!
儂の全身全霊を受けても軽い切り傷程度じゃしな!」
「切り傷……マグナ殿に、傷を負わせたのか!?」
「儂の全身全霊の大技を用いて、辛うじてのぅ。
しかし、奴は手を抜いておったじゃろうし
本気であれば傷1つ付いておらぬじゃろうがな」
「……」
シャナの表情が変わるくらいには衝撃的だったんだな。
ちょっとだけ意外だと感じたな、焦るのは。
「やはりお強いのですね、マグナ様
竜人種の方から攻撃を受けて軽い傷程度とは」
「そ、そうですね、ですが私としては……」
この反応の差は結構面白い位に比べやすいよな。
当然だが、一般の認識じゃ姫様の認識が正常だろう。
滅茶苦茶強い種族の攻撃を受けても大した怪我が無い。
そう聞いて、普通は俺の方がスゲーと感じるだろうな。
だが、俺をよく知ってる奴は違うんだよな。
「くく、面白い程に差が出たのぅ。
やはりシャナ、主は相当な手練れじゃな」
「いえ、私など…」
俺をよく知ってる奴は、どっちをスゲーと感じるのか。
当然、俺に傷を負わせたドリーをスゲーと評価する。
特にシルフはそこら辺がかなり顕著にでてたな。
俺に傷を負わせたドリーを最強の魔物と評してた。
俺の強さに対して、絶対の自信があるからそう言った。
だから、シャナとフェイトも同じ様にドリーを評価した。
「まぁこの話はここで一旦断とう。
とにかくじゃ、儂らの魔物への認識が
かなりズレておるのは分かった。
そこで、1つ聞いておきたいことがあるのじゃ」
「は、はい、な、なんでしょう?」
「どのレベルまでを主らは対処して欲しい?
儂はオーガレベルを想定しておったが
主らが思ったよりも脆弱だと分かったしのぅ。
何処までなら対処して欲しいかを知らねば
主らが脅威と感じる魔物を素通りさせるじゃろう。
無論、儂としてはオーガレベル以下程度なら
主らで対処した方が良いと感じておる。
多少は強き相手と戦っていなければ
実戦経験の無い脆弱で貧弱な兵士しか育たぬ。
シャナ、フェイト、シルフ、マグナ等の
力ある存在が歳を取り、命を落としてしまった後
……いや、考えてみればマグナの子がおるじゃろうし
そやつらが全て解決しておるかも知れぬのか……」
あ、そうだな、そう言えば俺が死んじまっても
俺の子供が居るだろうし、滅茶苦茶強くなってそうだ。
「無論、儂とマグナの子もおるじゃろうし、敵無しじゃな」
「何度も言うが、俺はお前に欲情しねぇ」
「じゃから! 儂は既に100を越えておる!
もっと言えば300は越えておる!
年上じゃぞ年上! 圧倒的な年上!」
「いや、だから身長が……」
「気にしておるのじゃからな!
ふん! まぁ良い、後はフェイトとの子もおるじゃろう
獣人種同士じゃし、相性も良かろう」
「子供なんて出来るわけないでしょ!?
誰がこんな奴の子供なんて産むか!」
当たり前の様にフェイトにも言及したが
即座にフェイトが反応して否定された。
うぅ、やっぱり先は長そうだなぁ……
「む!? 主も随分と贅沢な事を言うのぅ。
こやつは最上級のオスじゃぞ?
圧倒的な肉体に底の知れない強さ。
下手をすれば圧倒的な魔法の才まであるのじゃ。
シルフの才能を考えてみても、ほぼ確定的じゃろう。
強き子を残すには此奴以上のオスはおらぬぞ?
確かに少し馬鹿じゃし、不敬な部分も無論あるが
その圧倒的な強さを持ってメスを踏み付け、
メスの意思を考えず
強制的に子を宿させるわけでは無い
慈愛に満ちておる様な性格の持ち主じゃ。
自然の世界でこれ程に優れたオスは少ない。
主は贅沢じゃぞ、あまりにも贅沢。
圧倒的に強きオスの隣に居ながらも
強制的に組み伏せられ
その身に望まぬ子を宿すことも無く
そのオスが主に歩み寄ってくれる環境じゃぞ?」
軽く馬鹿にされた部分も合った気がするが
多分全体的に褒められてるような気がする。
だが、シルフのすぐ近くでそれを言わないで欲しい。
「主だって理解しておるじゃろう?
不条理に立ち向かうには力が無ければならぬ。
じゃが、主にその力は無い。うむ、当然じゃ。
主は並のオスよりは強いじゃろうが
主の隣におるオスは主よりも圧倒的に強く
主がどう抗おうと敵うような相手では無い。
その様な相手が主を思って
主の思いを尊重して
主が歩み寄るまで待ってくれておる。
何故嫌がる必要がある? 儂は羨ましいのじゃ。
儂は此奴の子を欲しておるのに否定されておる。
無論、儂を蔑ろにしておるわけでは無いのは分かる。
マグナの考えや信念故じゃろう。
じゃから、儂は説得しようと頑張っておるのじゃ。
儂はマグナよりも弱く、強引に事を運ぶことは出来ぬ。
じゃから、必死に説得するという選択しか無い。
これもまた、恵まれた事ではあるのじゃがな。
じゃが、主の場合は自ら歩み寄るだけで良い」
スゲー喋ってるな、ドリーズの奴。
結構こいつ、こう言う部分では真剣なのかもな。
うーん、軽いノリで言われてるだけだと思ってたが
ドリーズからしてみれば真剣なのか?
だがなぁ、流石にシルフと同じ位の
身長しか無い女の子に欲情するのはなぁ。
「長いわよ、真剣な顔でなに変な事言ってるのよあんた!」
「うむ、真剣じゃからな、種を繁栄させるのは儂の責務。
ドラゴンの女王である、儂は必ず行なわねばならぬ。
ましてや竜人種という稀少人種、絶やすわけにはいかぬ」
種ってのはドラゴンの事だけだと思ったが
竜人種って言う種族の事も言ってたのか。
だが、実際竜人種は稀少存在だろうしな。
「て、てか! 話し脱線しすぎなのよ!
魔物の話だったでしょ!?
なんでここまで脱線してるのよ!」
「む、主が贅沢な事を言っておったからじゃな。
まぁ、主には時間もあるじゃろうしこの際は良いか。
また家で話せば良いだけの内容
何も人の長の前で話す必要もあるまい。
では、話を元に戻すとしよう、人の長よ」
「あ、は、はい……」
そう言えば、姫様の前だったのを一瞬忘れてた。
「どのレベルまでなら対処して欲しい?」
「い、いえ、その、オーガレベル以上を
対処してくださるのであれば何も言うことは…
し、しかし、最終判断はやはりシャナにお願いしたいです。
兵士達の指揮などは、やはり騎士団長であるシャナの方が」
「ふむ、ではシャナか、お主に聞こう。
どのレベルまで対処する方が良い?」
「オーガレベル以上で構いません。
実際、そのレベル以下まで甘やかすとすれば
兵士達の練度が落ちてしまうのは目に見えてます。
ドラゴンたちが居るから大丈夫等と言う
甘い考えでは兵士達は育たないでしょうし
有事の際に動けなくなってしまうのは目に見えている」
実際、ドラゴンが居るから大丈夫って精神じゃ
いざと言う時に動けなくなるもんな。
「うむ、無論儂もその方が良いと思うのじゃ。
では、部下達への指示は変えずにおこう」
「ありがとうございます、ドリーズ殿」
「気にすることは無い、それにじゃ
礼を言うのであれば、儂では無くマグナじゃ。
此奴の世話になるから手を貸しておるだけ。
此奴が居なければ、儂は人の国等に手は貸さぬ」
「そうですね、では改めて、マグナ殿、
ありがとうございます」
「私からも、お礼を言わせてくださいませ
ありがとうございます、マグナ様」
「ん? 気にすんな、俺は変なのに気に入られただけだ」
まぁ、結果として国の為になったんなら良いか。




