喜びの朝
ドリーズが我が家に来て少し経った。
環境が良かったからなのか
ドリーズの回復はかなり速く、もう動ける。
「うむ、今日はよく寝たのじゃ!
マグナよ! ほれ、マグナ! 起きるのじゃ!」
ドリーズは朝がかなり強いらしく
即座に俺の部屋に入ってきて俺を起した。
「まだ日が出てすぐだろう? 起すなよな」
「馬鹿を言うな、時間が勿体なかろう!」
ドラゴンってのは結構規則正しいらしい。
こいつも最初はベットの魔物に掴まりそうになったが
根本的に規則正しいからなのか
即座にベットから起き上がれるようになってる。
「しかしのぅ、イチャイチャしおって。
何故共に眠っておる、儂も一緒に眠らせるのじゃ!」
「シルフは俺の妹だぞ?」
「眩しい……あ、おはようにーに」
「あぁ、おはよう」
俺達の会話で目を覚ましたシルフが起きた。
シルフはあくびをした後、背伸びをした。
そして、軽く寝起きの運動をしてドリーズを見る。
「……にーには私のにーに」
「なんじゃ、マグナは儂のマグナじゃ」
「まぁまぁ、喧嘩すんなって、仲良くしろって。
折角身長同じ位なんだから」
「身長が同じというか、実力も近いしのぅ」
「……え? 近いのか?」
「なんじゃ、分からぬか? 儂は本能で分かるのじゃ。
流石はマグナの妹としか言えぬが、こやつかなり強い」
「……そうなの?」
「じ、自覚が無いのか、お主……」
「にーにと比べれば弱い」
「比べる対象が異常だと気付くのじゃ。
こやつは化け物染みておるぞ。
冷静に気配を探知すれば次元が違うと分かるしのぅ」
「気配とかで分かるなら、最初戦った時に分かるだろ」
「気配というのは遠目では分かりにくいからのぅ。
まぁ、最初の儂は強い相手を求めておったから
相手が強いかどうかは戦うまで探らなかったのじゃ。
探ってしまえば、全力で戦えぬし」
むしろ全力で戦えそうな気もするが萎縮するのかもな。
気配を探知して相手があまりにも強すぎたら。
「まぁよい、主と喧嘩をする必要は無いからのぅ。
折角良い場所に翼を降ろせたわけじゃし無駄にはしたくない」
「それが正しい判断だ、流石にシルフに怪我させたら怒るからな」
「分かっておる、主が妹を大事にしておるのは重々承知じゃ。
さ、今日の朝食はどんな料理かのぅ、楽しみじゃ!」
そう言って、彼女はちょっとウキウキしながら部屋から出た。
俺達もちょっとだけ顔を見合わせて、部屋から出た。
ま、とりあえずは厨房に行ってみるか。
「あ、おはようございますマグナ様!」
「おはよう、朝から悪いな」
「いえ、それが私の仕事ですから!」
「そう言えば、フェイトは?」
「フェイトちゃんは訓練室ですね!」
「あ、朝から訓練か、ちょっと見て見るかな」
どんな訓練をしてるのか興味があったから
俺はフェイトが訓練してる場所へ行く。
「はぁ、はぁ、はぁ、まだね……まだまだ浅いわ……」
フェイトは剣術の訓練をしてるみたいだな。
目の前の案山子を何度も剣で斬り付けてた。
しかし、本人が浅いと呟いてたとおりであり
案山子の傷は結構浅いように見える。
「ふむ、あの小娘は無駄に努力をしておるのぅ。
しかし、所詮人は人じゃ、その程度で強くなれる筈も無い」
「誰よ、って、マグナ!?」
「よ、朝から汗かいて訓練って無茶すんなよ?」
「主程度が努力をしたところでたかが知れておる。
無駄な事はせず、身の丈に合った役目をこなせば良いじゃろう」
「えぇ、知ってるわよ、私が努力をした程度で大した事は無い。
どれだけ努力したって、私はシルフちゃんみたいに
魔法の才能があるわけでも無いし
あんたやマグナみたいに化け物みたいなフィジカルも無い。
あんたを背負えない程度の力しか無いような貧弱な女の子よ。
でもね、それでも私は努力をすることは諦めないわ!
私は冒険者よ、どんな男にも負けないくらいに強くなる!
そして、私は自由に生きてみせる!」
フェイトは俺がのんびりしてる間もきっと
こうやって毎日努力してたんだろうな。
「クク、人と言うのはなんと愚かな事か。
じゃが、その努力を否定するのは無粋と言える。
そうじゃ小娘、儂が相手をしてやろう」
「は、はぁ!? あんたが!? 何でよ!」
「興味があるのじゃ、主の戦いに」
「……」
フェイトも動揺してるが、彼女の言葉を聞いて
何かの覚悟を決めたのか、小さく頷いた。
「わ、分かったわ……相手をしてくれるというなら」
そう言って、フェイトは木刀を構えた。
「私の攻撃が何処まで通用するか、試させて!」
「良いぞ、しかしそんな棒切れで良いのか? 剣は?」
「あんたに剣を使ったら刃こぼれするわ、勿体ない」
「そこはよく分かっておるのじゃな」
「武器の限界を知るのは冒険者なら当然よ」
お、ドリーズが楽しそうに笑ってるな。
「クク、その通りじゃな、さて、では相手をしてやろう。
安心せい、攻撃はせぬからな、まずは儂に攻撃を当ててみよ」
「それ位なら出来るわ、覚悟しなさい!」
フェイトが構えて、ドリーズは笑いながら棒立ちしてる。
「さ、来るのじゃ」
「……そこ!」
少しだけ呼吸を整え、フェイトが間合いを詰めた。
見れば分かるが、踏み込みが遅いな、あまりにも。
「クク、遅い、遅すぎるのじゃ」
「クソ! この!」
攻撃を避けられ、即座に2段目を仕掛ける為に踏み込む。
だが、ドリーズはその攻撃を笑いながら避けた。
「クク、遅い、主の太刀筋はあまりにも遅いのじゃ」
「全然当る気がしない……」
「当然じゃ、主と儂では実力が違いすぎるのじゃ。
反応速度も反射神経も身体能力も
主が儂に攻撃を与える事が出来るとすれば先読みのみ
さぁ、儂の行動を読み、先に攻撃を仕掛けて見よ」
「舐めんなぁ!」
そのまましばらくの間、フェイトはドリーズに挑んだ。
だが、結果は惨敗だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息を荒くし、汗を垂らしながらフェイトは膝を付き
地面をひたすらに見ている。
汗は滝の様に滴り落ちて、地面を濡らした。
「まだまだじゃな、先を見ておらんな、動きの先を。
じゃが、主は強い、へこたれること無く鍛錬せよ」
「あんたが言っても……い、嫌味にしか聞えないわ…」
「クク、儂はのぅ、弱者でも努力できる者を評価するのじゃ。
主は強い、マグナ、シルフ、儂との
圧倒的な実力差を目の当たりにしても
その領域に挑もうとする心意気を評価するのじゃ」
「あんたは……努力したわけ?」
「当然じゃ、儂は努力し儂独自の技も編み出した。
じゃが、儂の全力はマグナに容易に防がれたのじゃ。
本来なら心が折れたかも知れぬ、じゃが、儂は心が躍った。
これで儂は、再び努力できるのじゃから!」
ドリーズが笑いながら努力が出来る喜びを口にする。
そりゃな、目標が無けりゃ努力って難しいからな。
「そう……あなたは努力を嬉々として出来るのね…
羨ましいわ、私は使命感だけだから」
「ならば主も嬉々として努力をすればよかろう。
簡単な話じゃ、目標があるのじゃからな。
まずは儂に攻撃を当てられるように努力するのじゃ。
まずはそれだけで良い、まずはそこまでで良い。
儂に遊ばれた結果を糧にして努力せよ」
「ぜ、絶対に目に物見せてやるわ……ドリーズ!」
「ドリーで良い、その方が覚えやすかろう? 小娘」
「フェイトよ……私はフェイト、小娘じゃ無いわ」
「クク、ではフェイトよ、挑み続けよ、儂と同じ様に」
意外と面倒見が良いんだな、ドリー。
まぁ、ドラゴンたちの女王をしてるくらいだしな。
しかし、フェイトが手も足も出ないってのは流石だな。
シャナでもこいつにダメージを与えるのはキツそうだ。
だが、あいつなら攻撃を当てる事は出来るだろう。
そう考えると、やっぱりシャナはフェイトよりも
一歩先に居るって感じなんだろうな。
最強ってのは伊達じゃないって感じするな。