シャンデルナの賢者
会議の後、各国に銃が支給された。
とは言え、数はあまり多くは無く
長銃は1000挺程、拳銃は50挺だった。
どうやら、長銃よりも拳銃の方が
作るのが難しいらしいな。
いやまぁ、主にラングレーで活躍してるのは
防衛用の長銃だから、それが多かったってだけか。
拳銃はドラグリンを撃退するためにあるにはあるが
あまり多くは無いらしいし、リボルバー式は
完全にジーニスが使ってる分しか無いらしい。
と言う事は、フェイトやシャナに渡されてた拳銃って
実はかなりの貴重品だったって訳だな。
そして、魔法の情報もしっかりと広げるつもりらしい。
シャンデルナに所属する10人程度の魔法使いを
他の国にも分布させるという形だ。
シャンデルナの10人の魔法使いの内
リーデルフォン、リンは騎士団長と副騎士団長。
ジュリアとそのお姉ちゃん達は魔法ギルドの幹部。
で、あの時、心を読める感じの魔法使いが3人。
宮魔法使い的な感じか知らないがな。
後、会ってないのは2人だが、恐らく魔法ギルドの幹部だろう。
「と言う訳で、領主さんからの命令でシャンデルナに来たけど」
「護衛じゃよな、他国に送る魔法ギルド幹部の」
「そうでしょうね」
今回は俺、シルフ、ドリーズ、フェイトの4人だ。
ジュリアはバスロミアで魔法の情報を広げる仕事がある。
そりゃな、既にバスロミアに居るジュリアが適役だろう。
で、俺達は他の3国に幹部を届ける役目だ。
「多分、お城の方に居るわよね」
「居なくても情報は得られるだろうし、行って損は無いだろう」
「まぁね」
そんな会話をしながら、俺達は城に向う。
その道中、腰の曲がったお婆ちゃんの姿があった。
お婆ちゃんの周りには、魔女帽子を被ってる魔法使い達が
何人か集まっており、お婆ちゃんの手を引き進んでる。
「あれって」
「多分、シャンデルナ様……よね」
「ほぅ、例の賢者か」
俺達は推定シャンデルナに声を掛けることにした。
ラズナーク・シャンデルナだったな。
人の名前を覚えるのは苦手ではあるが
流石に国の英雄に等しい人物の名は忘れねぇ。
いや、名前は基本忘れないんだがな?
名字を覚えてないだけで。とは言えだ
シャンデルナって名字はもう国の名前だし
忘れる要素はそりゃねぇわな。
「どうも、こんにちは」
俺達が声を掛けると、魔法使い達と
シャンデルナさんもこっちを向く。
シャンデルナさんはどうも、かなりのご高齢。
顔はしわくちゃだが、あまり険しい表情では無い。
むしろ、非常に優しい表情に見えた。
髪の毛は既に白いが、しっかりと生えては居るらしい。
腰も曲がり、杖を突いて歩いている。
しかしなぁ……何だろうか、見覚えがある様な気がする。
初めて会ったと思うんだけどな。
「あ、あなた達は。領主様からの命令ですか?」
「あぁ、他の国に連れて行く魔法使いの護衛でな。
ドラゴンに乗ることになるだろうし
そりゃまぁ、俺達が来ないと」
「……」
「シルフ?」
普段、あまり誰かに近付く事が無いシルフだが
今回は俺の背中から自主的に降りて
少し不思議そうな表情でシャンデルナさんを見ていた。
そんなシルフを、シャンデルナさんも見る。
「……あ、あの、何処かで会ったこと」
どうやら、シルフも俺と同じ既視感を感じたらしい。
「そうだねぇ、初めましてにはなるけど」
そう言って、シャンデルナさんはシルフと俺の顔を見て
ニコニコとした笑顔を見せてくれた。
さっきも優しい雰囲気は纏っていたが
今はあの時以上に優しい笑みに見える。
「あなた達は、私の孫の様だねぇ」
「へ!?」
その言葉に、周囲の人間は全員驚いた。
それは当然、俺もだった。
だが、シルフの次の行動は速かった。
少しだけ涙を流し、シャンデルナさんに近付く。
「ふふ……あぁ、そうか、そうかぃ。
あの子、見付けたんだね。自分に相応しい男を」
「ど、どう言う!? シャンデルナ様の孫!?」
「……じゃあ、あんたは母さんのお母さんになるのか!?
母さんの名前はララスリーって言うんだけど」
「あぁ、ララスリーは私の娘の名だよ。
自分に相応しい男を捜すと言って国を出てから
帰ってきたことは無かったんだけどねぇ……」
「そ、そうか……」
ま、まさか母さんがシャンデルナ出身だったとはな。
だがまぁ、名前隠してた理由も分かる。
確かに親が有名人過ぎるな……シャンデルナの英雄だし。
「あの子は、元気かい?」
「……母さんは、もう」
「……そうか、私よりも先に死んでしまうなんてねぇ」
「だが、母さんは幸せに生きた! それは断言できる!
俺達がその証拠だ」
「なら、良かった……」
「…え、えっと、お、お婆ちゃ……ん?」
「ふふ、そうだよ。お婆ちゃんだよ」
近くに寄ってきたシルフの頭を優しく撫でる。
シルフも、少しだけ幸せそうに笑みを見せた。
「で、でも、どうして分かったんですか!?」
「私は魔力を視認出来るからねぇ。
この子達の魔力が私の魔力にそっくりだったんだ。
でも、私よりも遙かに莫大な魔力だけどねぇ。
本当に、あの子は最高の夫を見付けられたんだねぇ」
「魔力の視認だなんて……どうして、そんな事が。
あ、と、特属性魔法とか、固有能力とかですか?」
「それとは少し違う気もするが、まぁ近い物かもねぇ」
「ふむ、少しは可能性があったが、まさかのぅ」
シルフは少しだけ、お婆ちゃんに甘えている。
俺はまぁ、甘えることは流石に無いんだが
しかし、そうか、母さんの母さんが賢者とはなぁ
そりゃ、名字も隠すって。丸分かりだしな。
「じゃ、じゃあ、今度からマグナさん達はシャンデルナで」
「あ、そ、そうなるのかしら……えっと、その……
いや、でも……だ、だけど」
そんな魔法使いの言葉を聞いて、
フェイトが少しオロオロしてる。
動揺してるのか、少しだけ辛そうな雰囲気がある。
「まぁそうなる可能性はあるのぅ。
そうなると、お別れじゃな、フェイトよ。
主はバスロミアの所属じゃ
主がマグナのハーレムの一員であるならば
問題無く付いてこれるじゃろうが
主はハーレムの一員では無いのじゃろう?」
「……そ、それはそうだけど」
「ならば、お別れじゃな?」
「う、うぐぅ……」
「何じゃ? 別れたくないのか? 良かったでは無いか
面倒くさいマグナの世話から解放されるのじゃぞ?」
ドリーズの言葉で、フェイトはかなり動揺してる。
どうやら、俺達と別れるってのはいやらしい。
とは言え、ここで無理にその言葉は言わせたくない。
ドリーズは露骨に誘導してるが、フェイトは気付いて無い。
多分だが、動揺の方が先行してるからだろうな。
「め、めん、面倒くさいわけじゃ、い、いや、と言うか。
あ、えっと……で、でも、お別れは……」
「嫌ならば、素直になるのじゃ」
「ドリーズ、あまりフェイト追い込むなよ。
無理に言わせるなんてごめんだからな?
そもそも、まだ決めてはねぇしな」
選択を焦らせるわけにも行かないだろう。
ゆっくりと考えて貰いたいしな。
それにまぁ、まだ決定したわけじゃ無い。
「シルフ。お前はどっちが良い?」
「私?」
「あぁ、お前がお婆ちゃんと一緒が良いって言うなら
まぁ、シャンデルナでも良いかなとは思うんだが」
やはり、シルフの気持ちを聞かないとな。
シルフがどっちを選ぶかが重要だ。
「にーには?」
「俺はお前の判断に従うつもりではあるが
どっちかというと、バスロミアの方が良いかな。
まだフェイトとお別れは嫌だし、
デイズとも一緒に居たいしな。
ミントも友達と一緒の方が良いだろうしよ」
「……お婆ちゃんは?」
「私は勿論、孫と一緒に過ごしたいとは思うけどねぇ
でも、無理強いはしない。
可愛い孫の足枷なんかには、なりたくないからねぇ」
「……」
シルフが考える。どっちが良いかを、必死に考えてる。
どっちも名残惜しいんだろうなと分かる。
だけど、意外と決断までは早かった。
「にーに、私、バスロミアが良い」
「え!?」
その言葉を聞いて、フェイトが嬉しそうに反応した。
「やっぱり、皆と一緒に居たいから……で、でも
た、たまにお婆ちゃんに会いに行きたい……」
「そうだな、どうせすぐに往復できるしな」
「うん!」
「そうですか……残念です」
シルフの選択は今まで通り、バスロミアで過ごす事だった。
やっぱりあそこでの生活が楽しかったんだろうな。
そして、フェイトも一安心という風に、大きなため息を吐いた。
「よかったのぅ、フェイト。マグナとお別れにならなくて」
「そ、そんなんじゃ! あ、いやあれよ!
み、ミントとお別れするのが嫌で焦ってただけで!」
「素直ではないのぅ」
「勘違いなんだから!」
フェイトが顔を真っ赤にしながら否定をするが
やっぱり少し嘘を付くの下手だよな、フェイト。
可愛い奴だぜ!