表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

少々プライベートも覗きつつの起こされたい!

「伊月は普通の、引っ込み思案で大人しい男の子でした。ただ昔から可愛いものが大好きで、男の子っぽいものより、女の子らしいものを好む子でした。それが中学に入学してすぐの頃、僕はこれから可愛くなるから、って家族に突然宣言して。それ以来、女の子用の下着を身に付けるようになりました」

「おぉ……!」


 なるほど。自分の目指すべきものに気付いたということか。そういう意味においては確かに俺のやっていることと共通点はあるのかもしれない。自分の憧れに正直になる、という点において。

 俺には伊月のそうした意思決定になんら咎めるべき点はないように思えるのだけど、姉の立場からしたらそんな単純な問題でもないのだろう。宮崎さんは紗友の時以上に言葉選びに悩みながら喋っている。


「そのうちにメイクをしたり、服を作ったりし始めて、可愛さを追求するようになっていきました。つい最近は、貯めていたお年玉であんなウィッグまで買ってしまい、驚きました」

「うむうむ。確かにあれは被る人間を選ぶかつらだな。だけど伊月、くん?ちゃん?は完璧に被りこなしてたよ。めちゃくちゃ似合ってた」

「確かに、似合っているとは思います。性別のことも含め、何を着るかとか、どうなりたいかとか、そういうことは個人の自由だと私も思います。でも、変わっていく弟を見るのは、姉としてすごく心配で……」


 おぉ。宮崎さん、お姉ちゃんモード全開だ。気付いたけど、俺は家族を思って不安げに曇る宮崎さんの顔が好きだ。そりゃあ笑ってる顔が一番だけど、この影る表情、本当に誰かを思っている人の顔だ。くぅ、愛だな……。

 いやいかん。俺はいちいち宮崎さんの表情にみとれてしまう。じゃなくて今は、伊月について。


「あのさ、えっと、部外者である俺がなんか言える立場じゃないけど、なんにも心配しなくていいと思うけどな。だってあの子、めちゃくちゃキラキラしてたよ?」


 宮崎さんが、え?と顔を上げる。


「なんて言うか、生き生きとしてたんだよね。俺と初対面にもかかわらず、それがこっちにも伝わってくるくらい、こう、楽しそうでさ。だから俺は、あの子は全然普通に健全なんじゃないかなーと。まぁ若干ユニークではあるけど」

「そう……ですね。確かにそうかもしれません。ああいう格好をしている時の伊月は、別人なんじゃないかってくらい明るいです。学校に行っていた頃はもっと静かな子で、気持ちをあまり口にしない子なのでわからなかったのですが、もしかしたらずっと、溜め込んだ気持ちがあったのかも……」

「うんうん。それにさ、そういう願望を実行できてるって時点ですごいことだと思うよ」


 そう、これは本音だ。中一なんて思春期初期の男子が女子の格好するんだもの、並大抵の覚悟がないとできない。まぁそれもあるけど、なにより女子姿の伊月がめちゃくちゃ可愛いかったから、外部の圧力とかでやめさせるのは惜しすぎるだろうよってことを踏まえての発言ではある。ははは、当たり前だ。あれはマジの美少女だった。

 ということはあれか。顔がよく似ている宮崎さんがもし金髪ウィッグを付けてあの異常にスカート丈の短いコスプレ風制服を着たら、伊月のような、いや、伊月を超えた超絶可愛い女子高生になるのでは?なるな。絶対なるな。なっちゃうよな。

 て、俺!なに金髪ミニスカート制服姿の宮崎さんを想像してるんだ!お前の妄想で宮崎さんを汚すなああああ!!!


「ありがとうございます。速野くんにそういうふうに言っていただけて、なんだかすごく安心しました」


 宮崎さんの声に現実に引き戻される。俺は妄想を切り捨てて「いやそんな、俺なんか全然!」と無駄にでかい声で言う。


「それから、すごく嬉しいです。伊月のことをそういうふうに理解してもらえて、姉として嬉しいです」


 柔らかな笑顔で言う。うーん、いい笑顔。やっぱり一番はこの笑顔だな。

 にしても、なんか俺ごときがアドバイスしたみたいな感じになってしまった。しかし伊月は素直に応援してあげたくなるタイプの奴だ。俺に対して敬意を持ってくれてるらしいというのもあるが。紗友に酷い扱いを受けてたから余計に身に染みる……。


「よし!じゃさっそく明日、伊月に幼馴染として起こしに来てもらおう。やろう、体験アルバイト!」

「いいですか?ありがとうございます。伊月に、きちんと時間を守るよう伝えておきます」

「うん、よろしく!……えーっと、あとさ、これ。俺からも、紗友に」


 俺は隠し持ってきていた物を宮崎さんに差し出す。干し芋、三袋。


「えっ、そんな、あの子は速野くんにファミレスで奢っていただいてますし、こんな、悪いです」

「いやまぁ、あれはあれでこれはこれということで。紗友の場合、どのタイミングで偵察に来るかわかんないからさ、お手柔らかにというか、まぁ一種の賄賂と言うか、餌付けと言うか、はは、そういう感じ」


 とか言いつつ、ほんとはこれをきっかけにして宮崎さんの週末がどんなだったか自然な流れで聞く作戦なんだな。

 決してこれは勤務に不必要な雑談ではないし、公私混同でもない。紗友は今や俺たちにとって警戒すべき対象だ。素晴らしい幼馴染による目覚めを妨げる可能性のある危険因子に対しては常に備えておかなければならない。干し芋、いいやつは案外結構な値段がしたが必要経費だ。あともうかかと落としはやだっていうのもある。

 予想通り、宮崎さんは恐縮した顔で少し戸惑っている。


「個人的なプレゼントじゃなくて、宮崎さんの雇い主として贈らせて欲しいってだけだよ。企業戦略みたいなもん。あいつ、食いもんあげとけば大人しくなりそうだし」


 なんか普通に悪口言ってるぞ俺。でも宮崎さんは「そうですね」と言って笑った。


「お気遣いありがとうございます。すみません、ありがたく受け取らせていただきます」


 よし。そしてスムーズに週末の話へ……。


「紗友の誕生日、どんなだった?干し芋あげれた?」

「はい。速野くんのおかげでたくさん買えたので、ラッピングして渡しました。とても喜んでいました」

「それはよかった。ケーキも食べた?」

「はい、妹たちと手作りしました。写真見ますか?けっこう頑張って作ったんです」


 そう言うと、宮崎さんはスマホを取り出して操作し始める。え、そ、そそそんなプライベートな写真を見ちゃったりしていいのぉ!?などという俺の混乱には気付くこともなく、宮崎さんは可愛くデコレーションされたケーキの写真を見せてくれる。


「おぉ、すごい!うまそう!」


 俺がスマホを覗き込んだせいで顔が近くなってしまい、慌てて身を引く。宮崎さんは意に介する様子もなく、にこやかにスマホをしまう。

 わかったぞ。宮崎さん、家族のこととなるとわりと自分の立場を忘れがちになるな。自分がアルバイトで俺が雇用主だってことを忘れて、そういう話を自分からしてくれる。

 まぁ確かに、誰しもすごく好きなものの話をする時っていうのはわりとそうかもしれない。俺も幼馴染に対する憧れをきちんと聞いてくれる人間相手になら一気に心を開いてしまうだろうしな。ふむふむなるほど。宮崎さんへより踏み込んでいくにはやっぱり家族についての話をするべきか。

 ……て、待て!違うだろ!お前、宮崎さん攻略法みたいなのを見つけてむふむふしてんじゃねぇよ!


 そこで授業開始の鐘が鳴り、俺たちは教室へ戻った。宮崎さんはいったい、俺とこういうふうに学校で喋ることに関してどういうふうに思っているんだろう。しゃんとした背筋で歩くその姿にはいつもぶれがなくて、だからこそわからないのだった。



 そして翌朝、6時45分。小さな電子音に目を開けると、ナース姿の金髪少女が体温計を手にしたまま大きな声を上げた。


「勇太せんぱい、すごく熱があります!大丈夫ですか?大丈夫じゃないですね!あぁ大変、こんなに汗もかいちゃってる。急いで着替えなくちゃ。さぁ脱いでください、全部!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ