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「汝、何者か」

作者: 九十九 雫

初投稿です。至らない点が多々あるかと思いますが、生温かい目で見ていただけると幸いです。

「汝は、何者か。」


僕にかけられた言葉は、今の僕を奮い立たせるのには十分すぎた。



この世界は、「声の大きい」存在が支配する世界。「デシレル」という単位で計られ、この数値が大きければ大きいほど、相手を定義づける、いわゆる「レッテルを貼る」力が高まる。その世界において、僕は…



可もなく、不可もなかった。



いわゆる一般家庭に生まれ、一般的な親に育てられ、一般的に小学校、中学校と進学し、今は高校に通っている。特段進学校でも、落ちこぼれでもなかった。成績も中の下、中の中を行ったり来たり。たまにやる気をだして中の上の成績を取った時には友達に「お前、すげーじゃん!」と言われてくすぐったかったりもした。そう言われた時だけ、僕はその関係性のなかで凄い奴になれるのだから。たまに謙遜してそんなことないよ、って言うと、僕と友達とのデシレル数値にそんなに変わりはなくて相殺されてしまうから、最近では謙遜しないようにしてるんだ。僕だけじゃない、皆自分の価値を高めようと、他の人からもらった「レッテル」を守るのに必死だった。たった一人を除いて。


僕がその子に出会ったのは夏の匂いが感じられる頃だった。梅雨の季節は終わったのに、雨に降られでもしたかのようにずぶ濡れのその子はいじめられっ子で有名だった。

物を壊されても、机に落書きをされても、上履きをゴミ箱に捨てられても、水をかけられても、いじめられっ子と、負け犬と「レッテル」を貼られようとも、その子は何も言わなかった。でも、その子をいじめる理由がなんとなく僕にはわかる気がする。何故なら、怖いからだ。

その子以前にいじめがなかった訳じゃない。いじめられた子達は例外なく「声の大きい」人達から様々なマイナスの「レッテル」を貼られ、心が折れて登校してこなくなった。でもこの子はどうだろう。「レッテル」を貼られても、怯むことなく、学校に通い続け、ずぶ濡れの今も、しっかりと地に足をつけて立っている。

その姿を見ると、どうしようもなく惨めなんだ。他の人からの「レッテル」を気にして、それを必死になって僕は守っているのに。


なんで君はそんなに堂々としているんだ。ずるい、ずるいよ、そんなの。

僕だって他の人よりも「声が大きかったら。」


「声が大きかったら、なんだっていうんだ。」

「へ?」

「さっきからレッテル、レッテルだの、声が大きかったらだの。」

「な、なんで…」

「耳につくんだよ、お前の鍵括弧が。」

「か、鍵括弧ってなんだよ…」

「聞こえるんだよ、お前らが心の中で気にしてたり、誇りに思ってたりするとそこにだけ鍵括弧がつくんだ。その鍵括弧の中の言葉が聞こえてくるんだよ。」

「い、意味がわからないよ…」

「解らなくて結構。これは自分だけにしか聞こえないから、いくらお前に説明したって理解できないだろうな。」

「そう、だけど…。」


不可解なことを言っているのに、失礼なことを言われているのに、何だかこの子の言うことを受け入れなきゃいけない気がして。


「……何でお前達はレッテルにこだわってるんだ。」


きっとこの子は力を持ってるんだ。それなのに…なんでそんな君が僕にそんなことを言うんだ。


「何でって…それはだって、そのレッテルで僕達の価値が決まるからじゃないか、負け犬と言われたやつは負け犬のまま!勝ち組は声の大きい奴らばっかりだ!僕なんか、僕なんかどうなる!平凡で平坦な人生を歩んでなんの面白味もないまま死ぬんだ!」


うらやましい。とてつもなくうらやましい。


「誰が決めたんだ、そんな事。」


声の大きいやつが何を言ってるんだ、僕を決めつけたのは


「周りだ、周りだよ!お前らみたいなのが僕のことを普通だとか、平凡だとかそうやってレッテルを貼ってくるから!僕の、僕の人生はつまらなくなるんじゃないか…。」


僕は膝から崩れ落ちた。だって、今僕を普通で、平凡で、つまらなくて、面白味がないと、大きな声で叫んだのはまぎれもない僕自身だったからだ。


「…今、声を大にして言ったので分かっただろう。今のお前を作ったのは紛れもなく、お前だよ。」

「分かってるよ…そんなこと。でも、でも怖いんだよ。声の大きい奴らに目をつけられて負け犬になるのは嫌だ、でも力を持つのだって僕にできるかどうかわからないんだ…。」

「やってみないとわからないだろう。」

「君はいいさ!どうせ何か力を持ってるんだ。そうだろう?そうじゃないとあんなにレッテルを貼られて正気で居られるわけがないんだから!」

「まぁ、持ってないと言えば嘘になるな。能ある鷹は爪を隠すというだろう。」

「な、んだよ…カッコつけてんのかよ…」

「まぁ、喋ってるからカッコはついてるな。」

「そうやって…僕を馬鹿にしてるのか!?」

「お前が自分のことを卑下しているからそんなことになるんだろう。ちゃんと自分自身を見つめなおしたらどうだ。」

「…無理だ、そんなの。他の人からの評価ですべてが決まるんだ。他の人からいいレッテルが貰えなきゃ、意味ないんだよ!」


「汝は、何者か。」


唐突に僕に降り注いできた言葉は、僕の口をがんじがらめにした。答えないといけないと思うのに、僕はその質問に対する答えを持っていなかった。僕の口からは言葉の代わりに空気が漏れ出していた。


「答えられないということは、お前が何もない人間だってことだ。」


違う、そんなことない。僕にだって何か出来るはず、何か出来るはずなんだ。僕は…僕は、


「…もう一度聞こう。汝は、何者か。」


「僕は!…――――――…」







僕の返答を聞いた後、その子は満足気に頷いた。


「そうだ。自分の存在は自分で決めろ。レッテルは他の誰でもない、自分でつけるものだ。他の奴からつけられたマイナスのレッテルなんぞ、剥がして捨ててしまえ。」

「…うん、そうするよ。ありがとう。えっと…」

「礼はいらないし、名乗る気もない。レッテルを貼られるのは嫌いだし、定義で縛られるのも嫌いなんだ。」

「そ、そっか…。」

「まぁ、これからお前は、自分自身を定義してしまったからそれに縛られるがな。可哀そうに。」

「え。」

「だって、お前さっき大きな声で叫んだじゃないか。」



「僕は!…九十九雫です!」



「ってな。」


改めまして、作者の九十九雫です。僕は、何者かになりたかったので書いてみました。

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