森の主を物理ゴリ押しで倒す
熊とは、スピードとパワーを併せ持つ生き物である。
走る速さは時速50Km以上。これは、短距離走のメダリストよりも速い。
体重は200Kg以上。これは重量級の力士より重い。
加えて両腕には鋭い爪を5本ずつ持つ。
つまり、
”重量級の力士が、短距離走メダリストの速さで、刃物を持って追いかけてくる”。これが、モンスターではない普通の熊という生き物だ。
そしてアーマードグリズリーは、通常の熊の2倍の体格と6倍のパワー、そして金属に匹敵する硬さの甲殻を持っている。
そんな怪物が木々を揺らすほどの唸りをあげて、モミジに突っ込んでくる。そして、その巨大な右腕を振りかぶる。
「魔法が弱点なんだっけ。でも私の戦い方はただ一つ。物理で! ゴリ押す!!」
アーマードグリズリーの爪がモミジに届く寸前。モミジが手刀を放つ。鮮やかな軌跡を描いたその一撃は、アーマードグリズリーの太い腕を甲殻ごと斬り落とした。
”ゴアアアアアアァ!”
アーマードグリズリーが吠えながら態勢を崩す。その隙をモミジは見逃さない。
「破ァッ!」
モミジが最高威力の技の1つである回し蹴りを放つ。1ミリの無駄もない美しいフォームで、モミジの脚がアーマードグリズリーの頭を捉える。
ガギィンンンンン!!!
鐘に弾丸を打ち込んだかのような凄まじい音が、森中に響き渡る。
アーマードグリズリーの体がゆっくりと地面に倒れ、地響きを起こした。
「よーし、一丁上がり! 鉄と同じ硬さの甲羅を持っているなら、鉄をぶち破るほどの破壊力で殴ればいい。うん、簡単なことだよね」
「か、簡単じゃないですよ!」
思わず飛び出したコロンの叫びに、周りの騎士たちも魔法使いも頷く。何度も何度も。
「すげえよ、本当にアーマードグリズリーを倒しちまうなんて! しかも一撃でなんて!」
「物理攻撃に強いアーマードグリズリーを物理で倒すなんて信じられねぇよ……」
「最高のものを見せてもらったよ……! 俺もう死んでもいい」
騎士たちが驚きを口にする。一番近くで見ていた騎士に至っては感動して泣いていた。
「そういえば熊の毛皮って結構高くで売ってるイメージがあるな。よし、頂いていこう。……どうやって剥いだらいいのかな……えいっ!」
「ああ! モミジ様、そんな適当に皮を引っ張っては傷んでしまいますよ! 私達に任せてください。肉は重くて持ち帰れないので、皮と装甲だけ取っていきましょう」
コロンの指示で騎士たちが短剣で甲殻や皮を丁寧に剥いでいく。
「ところで、モミジ様はなぜこんなところにお一人で? 服も異世界から来た時のままのようですし」
「いやー、実はね……」
モミジは、コロン達にここまでの事情を説明する。
貰った能力が最初Fランクだったこと、そのせいで崖から突き落とされたこと、なんとなくで歩いていたら騒ぎが聞こえたので駆け付けたこと。
「と、いう訳で今からもう一回城に戻ってあの連中をぼっこぼこにしてやろうと思う」
「そうですか。……モミジ様、私から一つお願いがあります。実は私は隣の国”クオーツ王国”の第三王女です。私たちの国の代表として戦って下さいませんか?」
――――
日がとっぷり暮れたころ。エメラルド王国の城では再び異世界人召喚の儀式が行われていた。
しかし、
「駄目ですガリエー様、魔力が戻ってこず儀式が行えません」
魔法使いの一人がガリエーに報告する。
「なんだと!? あのFランク異世界人、まさかまだ生きているというのか?」
「そうとしか考えられません」
ガリエーが歯ぎしりする。
「あの頭の悪そうなガキめ、さっさとくたばれば良いものを! 往生際が悪い……!」
「明日には国王陛下への謁見が予定されております。異世界人を1人追放し、その分の召喚のやり直しができていないなどと陛下に知れたら大変なことに。ガリエー様は降格処分間違いなし。それどころか辺境への左遷や投獄、最悪だと……」
「言わんでいい! 分かっておる! そんなことは絶対に避けねば。何としてもあのFランク異世界人の息の根を今度こそ止め、新たな異世界人を召喚するのだ! しかし何故生きているのだ、あの異世界人……!」
そこでガリエーが閃く。
「そうか、分かったぞ! 隣のクオーツ王国の連中め、異世界人召喚のためにあの森に入り、たまたま瀕死のあの異世界人を拾い、あわよくば自国の手駒にしようと連れ帰った。そうとしか考えられぬ」
「なるほど、あの子供があの森の中で生き延びられる訳がありません。間違いないでしょう」
魔法使いも頷く。
「そうと分かればクオーツ王国に行き今度こそ息の根を止めるしかあるまい! 念には念を入れて、異世界人に”アレ”を持たせて連れていく!」
「”アレ”を持ち出すのですか!? ……分かりました、直ちに準備します」
「明日の早朝に出れば昼までにはクオーツ王国に着くだろう。今度こそ確実に始末してくれる」
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