陰キャ雑談
影虎達は総出で勇者の力を探すが、全く見つからない。
「あれ……? どういう事?」
「ねえ影虎君……勇者の力なんて無くてももう十分強いと思うけど……」
萌葱が若干引き気味で影虎にそう言う。
影虎はその言葉を聞いてはっと気が付いた。
「そうか……この小説の修行内容が……勇者の力だったんだ……! そういう事だったのか! ありがとうございます萌葱さん、ようやく気が付きました」
「ああ……そう……」
萌葱は特に何もしていないのに感謝された。
そして影虎は皆にこの旨を伝え、勇者の力を探すのを終えた。
「あ、この本回収しておこう。俺以外の皆にも強くなって欲しいし」
影虎はあの修行の小説を懐に入れた。
鬼畜にも劣る程厳しい修行を他人にも受けさせようとする辺りがいかにも影虎らしい。
厳しい修行を積んでもそこは変わらなかった。
「それじゃあ行くわよカゲトラちゃん」
「はい」
影虎達はそうして洞窟を後にして、ライ王城へと戻った。
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その日の夜。
影虎達は依頼が完了した事や洞窟内であった出来事を王に伝え、直ぐにでも戦争を止める為に船でライ王国を出た。
今は皆で船室にて話をしている。
影虎は、今までにあった事を晴人に言って聞かせた。
晴人はそれを聞いて非常に驚いた。
「エルさんにそんな事があったなんてな……ごめんな影虎、俺あっさり倒されちまってよ……」
「別にいいっての……あれ何でお前ここに居んの? お前ライ王国の指示で動いてるんだよな? あれいいのか? 萌葱さんは俺に色々と教えるっていう役目があるけどさ」
「いや酷いなおい! 俺は単にな、影虎が戦争を止める時に何かしら邪魔が入ったら不味いじゃん? それで王様から影虎と一緒に行ってくれって頼まれたんだよ」
「ああそうかい……頑張れよ今回役に立たなかったんだからな」
「おいやめろ! 事実なだけに余計傷付くわ!」
晴人は影虎にそう言われてかなり傷付いた。
今回の戦いで晴人は何だかんだ言って目立った活躍をしていない。
そこをすかさず競い合うように慰めるカミルレとアルメリア。
「大丈夫よハルト。また頑張ればいいじゃない!」
「そうよ。あなたには私が居るんだから」
「次はもう無いと思うけどな……」
「“私”って何よカミルレ!」
「それが何? 何か問題でもあるの?」
「あっこれ聞いてないな……」
影虎は二人に爆弾発言を投下するが、二人はまたも喧嘩を始めてしまった。
しかし影虎の爆弾発言は晴人の耳にも届いており結果晴人の心は更に抉られるのであった。
そしてエルドレットがふとこう言った。
「先祖返りねえ……何でこんなに急になっちゃったのかしら」
「う~ん、何ででしょうね……」
影虎は考え込んだ。
何故エルドレットが突然蛾人族になったのかと。
その予兆等が全く影虎の記憶に無いのだ。
「確かにカゲトラちゃんに負けないようにこっそり修行してたし、それもちょっとは影響があったんだと思うけど……お父さんとお母さんもそんな事全然言ってなかったし……」
「一人で修行してたんですかエルさん……」
影虎がそう突っ込むがエルドレットはその突っ込みを聞き流した。
「不思議な事もあるもんだな……」
影虎はそう結論付けた。
そんな二人にミコモがおずおずと言う。
「ていうかそれを言ったら私の魔喰も分からないままなんだけど……」
「「あ」」
二人は同時に間の抜けた声を出してしまった。
「確かにそうだな……というか何でこんな正体不明の霊基持ちが多いんだよ……」
「案外人間なんて自分の事を分かっていないものよ。大丈夫よ」
「私のは一応霊基のソースは判明してる訳だし……心配ないわよカゲトラちゃん」
「そうですね……」
影虎は話している内に何故だかどっと疲れが出てきた気がした。
「は~あ、もう寝ようかな俺……」
「ええー影虎枕投げは?」
「やめろって言っただろうが! この戯け!」
影虎は怒りのあまり時代劇のような口調になった。
晴人はそんな影虎に軽い調子で謝った。
「ごめんごめん冗談だって~」
「冗談じゃすまないんだよバカタレ……もうお前には鬼畜修行の刑な!」
「え……ちょ……」
影虎は晴人の額にアニムスの本を叩きつけた。
次の瞬間、晴人は意識を失った。
「「ちょっとあんた何やって……」」
二人が影虎に噛み付いた。
それを影虎が宥めるように説明する。
「いやいや、安心してくれ。今晴人にやったのは修行の奴だ」
「ああ、それならいいのよ……」
「もしカゲトラさんがハルトに何かしたら私達自爆覚悟で魔術を……」
「怖いからみなまで言うなよ……」
影虎は二人の病的なまでの愛の深さに戦慄を覚えたのであった。
そして影虎達はそれぞれの船室に戻った。
晴人があの修行でどう成長して帰ってくるのか、見物である。




