陰キャVSアニムスその3
これで僕は色々な知識を取り入れたのさ……」
「ば、化け物め……」
誇らしげに言うアニムスに影虎は思わずそう言った。
この目の前にある大量の本が、全てアニムスの書いた小説なのだ。
影虎はよくこんなにも書けたなと恐れを通り越して敬意を抱いた。
「因みに僕が霊術を完璧に使えるのはこの作品のお蔭だよ。ふふふふ……」
アニムスは本棚から一冊の本を手にとって影虎が何処にいても見えるように掲げる。
そこで影虎は一つ疑問に思った事があった。
アニムスの霊基は、自分にも影響すると本人が言った。
では、何故晴人の精神を破壊する程の本を、本人が持っていて平気なのかと。
影虎は嫌な予感を抱きつつも隠行を声のみ解除して聞いてみる事にした。
「なあ、何でお前は精神崩壊する小説を持っていられるんだ? お前にも効くんだろ?」
「あれ、隠行とやらを解除したのかい? まあそんな事は置いといて。それはね、一度自分でやってみているからさ。一度やれば効かないからね。それに自分の小説だよ? ちゃんと校閲しないと」
「………は?」
影虎はアニムスの異常性に恐怖を覚えた。
つまり彼は、精神汚染の小説であろうと何であろうと自分の記憶に植え付けているという訳である。
当然、人の内臓を抉り取って食べた経験もその中に含まれている。
「こいつ……色んな意味で一番危ない奴なんじゃ……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
影虎がそんな風に探りを入れていると。
「カゲトラ、準備が出来たわ!」
「待ちくたびれたぞ……! 下がるから早くしてくれ!」
「分かってるわよ!」
ミコモが膨大な霊力を集めて霊術を詠唱している。
影虎は晴人を連れて下がった。
萌葱はある程度治っていた為自力で移動した。
ミコモの依代が、目映い光を纏う。
「ーーー真、冴月連山!!!!」
膨大な霊力が、数多の氷の剣を象る。
そしてその氷の刃が高速で発射された。
アニムスはそれを見て得意げに笑って言った。
「霊術師か……面白い。僕と勝負と洒落込もうじゃないか。
ーー風刃列空!!!」
アニムスに強大な霊力が集まり、風の刃を無数に生成し射出した。
氷の刃と風の刃の激しい剣戟が共鳴する。
その余波が影虎達に襲い掛かった。
「うおっ! 余波もきついなこりゃ……リトテとシラユキは大丈夫か?」
「辛うじて大丈夫ですぜ兄貴! シラユキもオレがしっかりと持っていますぜ」
「良かった……」
影虎はホッと安心する。
晴人の取り巻き二人も問題無いようで魔術の用意をしている。
だが……
「不味い……魔喰使ってるのに霊力が切れそう……何で!?」
「ふふ……僕は君よりもよっぽど上手く霊力を使えるからね……君の霊力任せの霊術を食い止める事なんて簡単さ」
ミコモは霊力が尽き掛けていた。
対してアニムスは平然と風の刃の量を増やし続けている。
「駄目だ……相手が悪すぎる……いくら魔喰を使った所で技術に歴然とした差があるんだ……」
そう、ミコモがいくら周囲の霊力を吸収して霊術を放とうが、相手は有り得ない精密性でそれを超えてしまうのだ。
ミコモの魔喰も成長しており、普通の状態でも覚醒時の半分程度は使えるようになっていた上に霊術も卓越した技術を誇るのだが……
相手が、あまりにも悪すぎた。
「きゃああああああ!」
「霊術勝負は……僕の勝ちのようだね……ふふふふふ」
「ミコモーーーっ!」
ミコモはアニムスの霊術を抑えきれずに吹き飛ばされてしまった。
「さて……次は君達の番だ……僕の小説を読んでくれよ」
アニムスは霊術でいくつかの本を浮遊させる。
「読んで頂きありがとうございます!」
「まずい!」
影虎は技で防ぐ事を試みるが、この数では対応しきれない。
どうやら先程晴人が本を防ぐ事が出来たのはアニムスが本気を出していなかった為だろう。
影虎の目でも追えない速さの本が、襲い掛かる―――
「ーーケラヴノス・クレモス!」
「ーートレイス・コンヘラル!」
それを、カミルレとアルメリアの魔術が阻んだ。
ある本は雷鳴に焼き焦がされ、またある本は氷漬けにされた。
影虎はそれを見て感心した。
「強かったんだな……あんたら」
「失礼ね。当たり前じゃない。ハルトの為だもの」
「強くならないとあの人みたいになれないわ」
「あっそう……」
影虎は隠行を晴人に掛けたままにしておいて良かったと心底思った。
この様子では、もしこの二人が精神の壊れた晴人を見た時に何を仕出かすか分からないからだ。
そして影虎がもう一度アニムスに向き直って刀を構えると。
目の前に、浮遊する本があった。
「戦闘中によそ見とはいい度胸だね……読んだら感想をくれよ」
「し、しまった!」
本が影虎の額に当たる。
「「か、カゲトラさん!?」」
「兄貴ーーー!」
「後は任せたぜ……悪いな」
次の瞬間、影虎の意識は消えてしまった。




