陰キャVSアニムスその2
晴人は放心して感情を失っていた。
「は、晴人! しっかりしろ! おい!」
影虎は晴人の肩を掴んで揺さぶるが、晴人はただ虚空を見つめるのみだった。
そんな晴人を見てアニムスは高らかに笑った。
「あははははは……僕の小説をそんな風に扱うからこうなるんだ!」
「それを投げるお前もどうかと思うんだ……にしても悪趣味な能力だな……晴人は一体何を見せられたんだ……クソッ!」
影虎は目が虚ろになっている晴人を見てそう憤る。
これで、残る前衛は影虎一人になってしまった。
萌葱は今回復薬で治療をしている。
故に影虎が一人でアニムスと戦わなければならない。
影虎は再び隠行を発動させて隠れる。
そして更に影虎は二人の側に近寄り。
「隠行Ⅱは他の物質にも掛けられる……発動しろ、隠行Ⅱ!」
[対象月瀬萌葱と向坂晴人に隠行を発動させます。よろしいですか?]
「ああ」
影虎は二人に触れて隠行を発動させる。
「萌葱さん!いくら隠行が掛かっているとは言っても動かなければばれます!少しでもいいので動いて下さい!」
「分かった……うっ、きついな……」
萌葱は影虎にそう言われて治している傷が開かない程度に動いた。
「何!? 消えた!?」
「これで戦いに専念出来る……」
動けない晴人を強引に引き摺りながらもほっと安心する影虎。
アニムスは三人が消えた事に驚愕した。
「何処に行ったんだ……? 今翳の勇者様は何処に……」
「……霊剣空毒!」
「ぐはあっ! 身体がっ……」
影虎の放った毒の斬撃がアニムスを貫く。
(このまま遠距離で攻めていけば勝てる! 混合技出来るようになっておいて良かった……普通の技よりも大分疲れるけどな……)
影虎は息を切らしながらも技の成功を喜ぶ。
アニムスの身体を毒が蝕んでいく。
「まだ終わりじゃねえぜ……五芒星ならたっぷりと仕掛けておいた……霊剣空毒五連!」
「うぐああああああああ!」
影虎は前もって多数描いていた五芒星の中央を突いた。
毒の斬撃がアニムスを苛む。
霊剣草薙は霊力を籠めればあらかじめ五芒星を仕掛けておく事も可能なのだ。
ただ五芒星の中央を突く必要はあるが。
「くそっ……翳の勇者様は毒霊術使いなのか……僕と同じだね」
「な!?」
アニムスは自らの身体に手を当て、霊術を唱えた。
「ー血洗」
毒を受けて紫色に変色していた肌が元通りの肌色となる。
影娘はそれを見て舌を巻いた。
「毒霊術で解毒出来るのか……!」
「驚いているだろうね。君は今隠れているから表情は分からないけど。毒にはこういう使い方も出来るんだよ。もっと言うならこんな使い方もね」
アニムスは手を床に向けて詠唱する。
「ー血海」
床に赤い……毒の海が発生した。
それは広い範囲を覆っていき、影虎の足元にまで達した。
「ぎゃあああああ!」
「これで、隠行とやらも無意味だね……」
影虎の足に毒が染み込んで行く。
「解毒薬もこれじゃあ意味が無い……! どうすれば……っ」
影虎が考えている間にも毒はジワジワと侵食してくる。
晴人や萌葱の所には侵食していないのが唯一の救いと言えた。
影虎は思案の末、一つの策を閃いた。
「……これならどうだ?」
影虎は部屋の端の角に張り付き、足に解毒薬を使う。
「まずこれで毒の威力を消す……それで」
次に影虎は空中を蹴って、アニムスに向けて技を放った。
「……飛燕突き!」
「がっ!」
アニムスの体を突き刺すと同時にアニムスの頭を足場にして跳び、再び空中を蹴って部屋の角へと戻った。
「黒装束の能力を生かしたヒット&アウェイ戦法……成功だな」
影虎の着ている黒装束には、壁の端に張り付く事が出来、また一度に一回のみ空中に足場を作り出せるのだ。
「くっ……上手く逃れたか……この霊術は意味が無い……出すだけ霊力の無駄だ」
アニムスは血海を解除した。
影虎はそれを見てもう大丈夫だろうと地面に降り立った。
そしてアニムスが再び霊術を詠唱する。
「別の霊術で攻めるしかないな……ー風刃結界!」
アニムスの周囲を、風の障壁が包み込んだ。
「また厄介な霊術を唱えやがった……こっちも霊術で対抗するぜーーー霊力剣!」
影虎は霊力剣で手裏剣を生み出し、投げた。
しかし手裏剣は障壁に弾き飛ばされてしまった。
「防御力もあるのかよ……それならこいつだーーー毒液弾八連!」
影虎は障壁の防御に歯噛みしつつも霊術の詠唱をする。
更に隠行Ⅱを毒液弾に織り交ぜる。
そして影虎は毒液の弾を手から発射した。
毒液弾は障壁をすり抜けてアニムスに直撃する。
「なっ!? これは……毒か? 見えないだと……! 身体が痛い……!」
「霊術にも掛けられるんだな隠行Ⅱ……便利だな。どんどん行くか!」
影虎は次々とアニムスに隠行を付与した毒霊術を飛ばす。
だが……
「さては僕の解毒の霊術が追い付かない速さでやる気だな……でも無駄だよ無駄。ー霊凪返し」
アニムスがそう呟くと、アニムスの周りを風が囲った。
影虎の放った霊術が、全て方向を逸らされた。
「嘘だろ……何でこんなに早くて正確な霊術が撃てるんだよ……」
「僕に霊術で対抗しようなんて百年早いよ。文字通りね」
「何……?」
アニムスのその自信ありげな発言に、影虎は首を傾げる。
何故こんな若々しい男が、文字通り百年早いと言ったのかと。
「多分不思議な顔をしている所だと思うから種明かしをしようじゃないか。僕の小説を記憶として植え付ける能力というか霊基はね、自分にも使えるんだ。この意味が分かるかい?」
「………まさか」
影虎は浮かんだその事実に目を背けたくなった。
「つまり……百年修行して霊術を極める男の話を書いて、自分に植え付ければ僕は晴れて完全な霊術使い、という訳さ。勿論、僕がやったのは霊術だけじゃないよ」
アニムスはそう言って手元のボタンを押した。
すると、壁がゆっくりと轟音を立てながら開き、おびただしい量の本が現れた。
ここは図書館だったのかと錯覚させられる程だ。
「これが全部……僕の拙作さ。ふふふふふ………」
影虎は恐るべきその量にただ呆然とさせられたのであった。




