陰キャVSアニムスその1
「えげつない霊基だな……あと今最後のって言った……? って事はもう刀のパーツはこれで最後か……」
「そうだよ。もっとも君達はこれを手に入れられないけどね……」
最後の番人アニムスはそう言って嗤った。
「舐めやがって……それじゃあ行くぞ! 晴人と萌葱さんは前衛、後は霊術の準備をしておいてくれ!」
「分かった!」
「了解!ーーー風結」
後衛のミコモ、アルメリア、カミルレは影虎の指示に頷いて霊術と魔術の詠唱を始める。
影虎達はア二ムスに立ち向かった。
「発動しろ、隠行Ⅱ!」
[隠行Ⅱを発動させます]
影虎はまず最初に隠行を発動させる。
黒い火花が影虎の身体を包み込む。
「それじゃあ一旦任せたぞ晴人」
「任せとけ! 発動しろ、勇敢なる騎士!」
晴人の周囲を柔らかな金色の光が包み込む。
「よし……アンサラー!」
晴人はアンサラーで身体能力を飛躍的に向上させる。
「力が漲ってきたぜ……はあっ!」
晴人は一瞬でアニムスの間合いを詰める。
「速いな……でも私の物語には及ばないよ……」
アニムスは複数の本を晴人に向けて投げる。
晴人はそれを身体強化の速さで強引に避けた。
しかし本は晴人の方を追尾してくる。
「いくら追尾でも……これならどうだ? ………烈光斬!!!
晴人は剣に目映い光を宿し、本を一重に斬る。
本は剣に焼き切られてポトリと地面に落ちた。
「へっ! 種が分かれば大した事ねえぜ!」
「貴様……僕の力作によくもこんな事を……許さない……お前だけは苛め抜いて殺す! 俺の小説でな!!!」
アニムスは本を先程とは比べ物にならない速さで投げる。
「や、やば―――」
晴人はそのあまりのスピードに避けられそうにもなかった。
しかし……
「ーーー風刃!」
萌葱が霊術を乱射し、本を撃ち落とした。
「晴人君、君ね……もうちょっと慎重に戦ってよ……今ので溜めてた霊力を使い切っちゃったよ……」
「す、すみません……」
晴人が萌葱に申し訳無さそうに謝る。
そんな二人を鬼のような形相で睨むアニムス。
「お前もか……お前も僕の小説を侮辱するのか……良いだろう……二人共精神を」
「……霧双突き!」
「ぐわあああああああああ!!!」
怒り狂うアニムスに不意打ちを食らわせる影虎。
「隙だらけだ……馬鹿め!」
アニムスの体に無数の穴が空いた。
更にアニムスの体を痛みと……重みが襲う。
「ううっ……痛い痛い痛い体が重い! 何だこの体の鈍さは! 病に掛かった時みたいだ!」
「“気力凍結”」
影虎がキノニアの試練にて手に入れた新たなる力、気力凍結。
それは斬った相手の身体に風邪の時のような気だるさ、鈍さを与える能力である。
斬れば斬る程体は鈍くなっていき、二回に一回、相手を切りつけた際に発動する。
「体が重い……でも僕にこれを掛けた所で体力の低下にしかならないよ。ほら」
スパッ!
萌葱の服が鮮血で染まる。
「風の霊術……? なんて速さ……」
萌葱はパタリと倒れてしまった。
「ば、化け物かよ……」
影虎はアニムスの霊術のあまりの速さに恐れざるを得なかった。
晴人は慌てて萌葱の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか萌葱さん!?」
「―――ねえ陽の勇者、君仲間の心配なんてしてる暇あるのかな?」
「えっ……」
晴人の背後に……一冊の本があった。
「し、しまっ―――」
「晴人ーーーーー!!!」
影虎はそう叫ぶがどうしようも無かった。
晴人は別人の……物語の人物の意識となってしまう。
別人となったそこは、夜の暗い街であった。
「くそっ……記憶を植え付けられた……ん?」
晴人はふと自分の手に何かが握られているのを感じて手元を見る。
そこには血に塗れた長剣が握られていた。
「な……何だよこれ……」
晴人が得体の知れない恐怖に恐れおののいていると、人の足音が聞こえてきた。
身体が、勝手に剣を構えて動き出す。
「な、何……身体が勝手に……俺は何をしようと……」
身体は突然立ち止まる。
そして、その足音のする方向に一気に駆け出した。
「ど、どうなって……」
晴人が困惑するのも束の間、足音の主が現れた。
それは、暗い場所でも分かる程美しい赤髪の少女だった。
晴人が何か声を掛けようとした刹那。
身体が、長剣を少女に向けて振り下ろしていた。
ザシュッという音と共に少女から血が迸る。
「あ、あぁああっああぁあああっっっあああああぁああ!?」
晴人は一瞬自分が今何をしたのか理解出来なかった。
更に身体が、少女の身体を刺し貫く。
「ゴブッ……」
「ああ、ああああ、あああああああ」
刺して、刺して、まだ微かに息のある少女の内臓を一つ一つ剣で丁寧に抉り取って、それを
床に並べて、
「あ、あ、あああ………」
そして……食べた。
少女の目の前で。
晴人の口の中に、苦味と生暖かい血の味が広がった。
「あっがあああああああぁああああああああぁあああああああ………」
晴人の精神は、崩壊した。
そんな所業をしてどれ程の時間が経ったのだろうか。
晴人にとっては、時間さえも感じられなかったが。
ようやく元の自分へと戻る事が出来た。
しかし、
「だ、大丈夫か晴人……?」
「………」
彼の精神が戻って来る事は無かった。




