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陰キャが異世界で無双してみた  作者: するめ狂い
陰キャ育児編
85/117

最後の番人

その翌日。

影虎達はライ山へと赴いた。

ライ山には枯れ木と雪しか無く、時折耳が四つあるウサギに遭遇する程度で生き物を殆ど見かけない。


「なあ晴人……この国はいっつもこんな気温なのか……?」

「いやライにも四季はあるぞ……」

極寒のライ王国にも四季はあり、夏もさして暑くはないものの存在する。

因みにメコル王国とミル王国は温帯で日本のように四季がはっきりとしており、今は元の世界で言う所の春である。

影虎はまだこちらの世界に来て二ヶ月も経っていない為春以外の季節を味わっていないが。


「ねえ……あれじゃない……?」

「あれだな多分」

「ああ、確かにこの辺りだった気がするな」

しばらく歩いていると、かの試練の扉らしきものが見えてきた。

「うん、穴がある……間違いないわ」

「よし、じゃあ……」

「どけ晴人、ここはお前の出番じゃねえ! この刀の出番だ!」

「えっそうなのか? ……ってまだ刀に名前付けてないのかよ!」

影虎は晴人を押しのけて刀を穴に差し込んだ。

扉が歓迎するかのようにゆっくりと開く。


「あ、開いた……」

「それじゃ入るぞ~」

「……封印されてるっぽい洞窟がこんなにあっさりと解かれていいのかよ……」

そうして影虎達は扉を開けた。

するとそこには。


「勇者の試練にようこそ……翳の勇者様……」

もう既に試練の番人が居た。

番人は椅子に悠々と座りお茶を啜っていた。

緑色の髪の毛を切り揃えており、どこか幼い印象を受ける顔をしている。

真面目な優等生のような雰囲気の男だった。


「ええ!? もうボスが居るの!? 待って心の準備が……」

「しょ、初っ端から出てくるなんて……」

影虎達は焦りに焦った。

それはあまりにも突然であった為に仕方の無い事だった。

「驚いている所申し訳ないけれど、早く始めよう。早く終わらせて小説が書きたいんだ」

「小説だって……?」


影虎は男に聞き返すと、男は得意そうに言った。

「そうさ。僕は趣味で小説を書いている。読んでみるかい?」

「……いや、いいさ。どうせ罠なんだろ?」

「それはどうかな?」

男が影虎に向けて手に持っていた一冊の本を投げる。

「当たらねえよそんなの! ソシャゲのガチャみたいにな!」

影虎は身を捻って本を避ける。


だが本は軌道を変えて影虎の体に当たった。

「なっ………!」

次の瞬間、影虎は何故か別の場所に居た。

見た事もない、謎の機械や建物が乱立した都市と思しき場所。

「な、何だこれ……」

影虎は辺りを見渡してふと己の体を見ると、先程まで着ていた服とは全く別物の服だった。

そして影虎? の体が勝手に動き出す。

「何でだ!? 別に動かそうとか思ってないのに勝手に動くぞ!? しかも違和感がない……

自分の意思で動かしていないのに自分の意思で動かしている感覚だ!」

影虎はこの訳の分からない状況に困惑するのみだった。

そして勝手に動く身体にどうも抵抗出来ずなすがまま歩いていると、雨上がりなのか水溜まりがあった。

影虎がその水溜まりを見ると、そこに映っていた顔を見た。

映っていたのは、影虎とは違う全くの別人だった。

「うわっ! 今俺別人になってるじゃねえか……! 何なんだよこれ………! 何なんだよこれ……!」

影虎は心からそう叫ぶが、誰にも声が届く事は無かった。

やがてしばらくの間別人になるという奇妙な体験が終わった。

「な、何だったんだ今のは……」

「か、カゲトラ大丈夫!?」

「影虎に何しやがったあの野郎!」

ミコモが影虎を心配そうに見る。

晴人は男に向けて剣を構える。

影虎は元の自分の体に戻った。


(時間は経ってないみたいだ……今俺は何をされたんだ……!)

影虎は先程あった事を皆に話す。

「おい落ち着いて聞いてくれ……! 俺はあいつの本に触れた瞬間……別人になったんだよ……」

「ど、どういう事……?」

「俺にも分かりませんが……一人の“別人”として行動をさせられました」

「う~ん。影虎、その別人になってどんな感じだった?」

「それは……」


影虎は我が身で体験した事を皆に語る。

全くの別人になった事。

勝手に身体が動かされた事。

その別人の取る行動に従わざるを得なかった事。

「それで俺は……たまたま不良に絡まれている女の子を見かけて助けに入って、その不良に追っかけられてその別人が持っていた異能力で撃退して撒くという行動を取らされたんです」

「何そのライトノベルのテンプレ。ごめん影虎君、まるで訳が分からないよ」

「俺だってどうやって説明したらいいのか分からないんですよ……ただ……何か

違和感はあるんですよ……」

「なあこの本に何か仕掛けでもあるんじゃないのか?」

「本にか……」


影虎は本を手に取ってページをめくった。

先程の現象は起こらなかった。

「お、おい影虎! 危ないって!」

「いや一回触ってるから多分大丈夫。これで相手の能力が分かるんならちょっとの危険は覚悟しないと」

影虎はページに書かれている文字を見て、衝撃を受けた。

その書かれている内容が、影虎の別人として体験した出来事と同じなのだ。

「そうか……違和感の正体が分かったぞ! 俺が体験したのは“物語”……小説みたいだったんだ! 俺はこの本の内容を経験させられたんだ!」

「それがあいつの能力って訳か……」

一同が男の方を振り返ると、男は薄笑いを浮かべて言った。

「そうさ。これが僕の……自分の書いた小説を相手に記憶として植え付ける能力……僕はこの能力で僕の書いた小説を皆にとくと味わって欲しいんだ。そういえば名乗って無かったね。僕の名前はアニムス=ホルテオ。最後の試練の番人さ」







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