陰キャ食堂
飯テロ注意。
「さて、そろそろお昼ご飯の準備をしましょう。そろそろお腹空いたでしょう?」
影虎がミコモの無気力っぷりに呆れていると、エルドレットが二人にそう声を掛けた。
「はい」
「そうね」
二人がそう返事をすると、エルドレットは前掛けエプロンを着けて台所に立ち料理を始めた。
影虎はそういえばまだこの世界の料理というやつをまだ食べていない事に気付いた。
一体どんな料理なのだろうと楽しみにしていると、影虎はふと思い付きミコモにこう言った。
「そういや霊術ってどんな感じなの? 俺見た事無いからさ、見せてくんない? あっ、家は壊すなよ」
「はあ……まあいいけど。じゃあちょっと立ってこの辺に来て」
「はいよ」
影虎が椅子から立って家の少しスペースがある所に行くと、ミコモはおもむろに霊術式の冷蔵庫から何故か豆腐を取り出した。
そしてお経のような物を唱え始める。
影虎はん? 何これ? と首を傾げたがまあ霊術に必要な物が豆腐でもいいだろうと静かにミコモを見守っていると、
「ーーー豆腐の角に頭ぶつけて死ね!!!」
と言った。
いやどんな霊術だよ! と突っ込もうとした影虎の腹にミコモが豆腐をめり込ませた。
影虎は腹を鉄か何かで殴られたように感じた。
「がはっ! おい何すんだてめえ!」
「今のが霊術、豆腐の角に頭ぶつけて死ねよ」
「いやそんなドヤ顔で言うな! 別に今の俺に当てなくても良かっただろ!」
「あ……確かに……ごめん」
「気付けよ!あと豆腐の意味は何なんだよ!」
「インパクトよ」
「そんな理由⁉」
影虎がそう突っ込むとミコモは何故か誇らしげな顔になり。
「霊術で豆腐を鉄以上に固くしたの。霊術にかかればこのくらいお茶の子さいさいよ。これでよく霊術の凄さが分かったでしょ?」
「確かに凄いけどその霊術豆腐固く出来るだけじゃねえか…」
影虎は初めて見た霊術がこんなしょうもない物だとは…と激しく落胆した。
と、そんな風に二人が戯れていると、
「ご飯出来たわよ~」
「「わーいいただきま~す」」
エルドレットが昼飯を運んできた。
二人は仲良く同時に席に付いた。
そしてその昼飯とは…
ふわとろなオムレツと丸いパンだった。
しかしオムレツは日本の物とは異なりデミグラスソースが謎の緑色のソースに代わっている。
影虎はそれを見て驚いたが、ミコモがもりもりと食べているので大丈夫だろうとゆっくりとスプーンでオムレツ? をすくい口に運んだ。
「ん⁉」
影虎はオムレツ? を食べた瞬間、味蕾が満たされていくのを感じた。
まずトロトロした卵。
日本の鶏とは違いコクがあり旨味も鶏のはるか上を行っている。
中の具もとても美味で、鶏肉や野菜などが卵の味を消さないように程よく入っている。
緑色のソースは辛味の増したケチャップという印象でこれもまたいい味を出しており、影虎はスプーンの手が止まらなかった。
オムレツを綺麗に平らげた影虎は次にパンを食べた。
そのパンもまた美味で、柔らかな食感と共に仄かな甘味が影虎を襲った。
影虎は普段少食なのにも関わらずエルドレットにパンの御代わりを二度も頼んだ。
そうして影虎の胃袋がようやく満たされた頃、影虎は気になってエルドレットに聞いてみた。
「エルさんは何でこんなに料理上手なんですか?」
「嬉しい事を言ってくれるわね~カゲトラちゃんは! でも企業秘密なのよ~ごめんね~」
「そうですか~残念です」
「エル姉の料理の腕はプロの粋を軽く越えてる」
「ふふ、嬉しいわ」
影虎はエルドレットの女子力の高さはとてつもないなと思った。
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そして昼食の後、明日のゴブリン討伐の準備を整え、色々と情報収集や夕飯を済ませた影虎は、エルドレットに貰った自分の部屋に戻った。
(さて……ちょっと調べた情報を整理するか)
影虎が調べたのはこの世界の一般常識などである。
まず、文明。
大体は中世ぐらいの文明レベルだが、先代勇者という人物が魔術や霊術を駆使し色々と便利な物を作っておりそれが普及している。
次に、人種。
普通の人間の他に体に動物の特徴を持つ亜人という人種もいる。
これらの人々は身体能力が高かったり嗅覚に優れていたりと人より秀でた能力を持つため差別はおろかむしろ重宝がられている。
そして通貨。
メコという単位で、貨幣の価値は一円=一メコ程である。
最後に魔物。
単に動物が変異し人に害をなすものという認識だ。
この中でもゴブリンは弱い部類だが、集団で行動するので注意が必要であるとの事だった。
(ゴブリンは俺のイメージそのままだったな……小さい小鬼みたいなので上位種もいると)
影虎は本当にファンタジーな世界に来た事を実感した。
情報の整理が終わった影虎は寝る事にしベットに潜り込んだ。
色々な事があって疲れていたのか影虎は即座に眠りに落ちた。