キノニアの奥の手
そしてあまりにも絶大な斬撃が終わった。
だが……
「ガハアッ、ハアッ、何とか耐えられたな……」
「………え?」
影虎はもはや何も言えなかった。
あれほどの技を受けても倒れないとは……と。
「待って今私があいつの余力を調べる! あいつも流石に今の技は致命傷な筈! ……やっぱり立っているのが不思議な位の体力……あいつは今気合だけで立ってるね。もう余力が残って無いよ」
「よ、良かったわ~今の技で霊力を完全に切らしちゃったのよ。危なかったわね。それじゃあ止めと───」
「フフ……フハハ……フハハハハハハハッ!!!」
二人の会話を聞いていたキノニアが突然狂ったように笑い出す。
「何笑ってんだコイツ……追い詰められて狂ったのか?」
「違うな……貴様等がもう勝った気で居るからだ。まだ私には奥の手があるというのにも関わらずな! フハハハハハハ!」
キノニアは再び笑って、手から滝のように爆弾を出し始める。
「何考えてやがる! ………飛燕突き!」
影虎はキノニアの企みを阻止しようとする。
しかし、大量の爆弾に技を防がれてしまう。
「お前……それをやったらテメエも死ぬんじゃないのか……?」
「おっと説明していなかったな。私の霊術は一日にたった一度だけ致死の攻撃を受けても完全に回復する事が出来るというものだ……つまりあと一回なら攻撃を耐えることが出来る、すなわちどれだけ爆弾を出して爆発させようと私は無傷という訳さ!」
「な、何だよそれ……無敵じゃねえか……!」
影虎は絶望した。
必死に戦ってようやくここまで追い詰めたと思えばこれである。
あまりにも酷い事実である。
やがて遂にはキノニアが爆弾に隠されて見えなくなってしまい挙げ句の果てに爆弾が洞窟の天井に届き雪崩が起きている。
「何が試練だよ……ただの処刑じゃないか……」
影虎は憤りのあまり地面を叩いた。
「くそっ……反霊小町じゃ爆弾を吸収できない……風結も人間の体重は運べないし……ミコモちゃん、魔喰で何とかならないの!?」
「無理よ。やってみたけど……霊術と霊基で生み出した物は別物だから……」
「打つ手なしか……」
萌葱とミコモが顔を伏せて泣き出す。
そんな全員が絶望に沈んでいた時。
エルドレットが影虎達の目の前に立ち、こう言った。
「私の後ろに隠れて皆。ミコモちゃんはありったけの霊力を使って私に強化の霊術を掛けて頂戴」
「ま、まさかエル姉……嘘だよね?」
力強くそう言うエルドレットに、ミコモはひどく悲しげな顔で聞いた。
「私が皆を爆発から守るわ。皆全力で防御するのよ!」
「な、何でエル姉がそれをするのよ! なら私が……」
ミコモがエルドレットの代わりを買って出るが、エルドレットは譲らない。
「駄目よ。この中で一番丈夫なのは私なんだから。ここは私に任せて」
「で、でも……」
「いいから早く霊術を掛けて!」
「は、はい……」
「ごめんね、こんな言い方で……」
ミコモが魔喰で霊力を掻き集め最大限の効果の霊術をエルドレットに掛けた。
「え、エルさん……こんな事しないで下さいよ! エルさんを―――」
犠牲にして、と言い掛ける所で言葉が詰まる。
エルドレットは影虎に優しく言葉を掛ける。
「大丈夫よカゲトラちゃん、ミコモちゃんの霊術が凄いのは知ってるでしょう? こんな爆弾くらいへっちゃらよ」
「………ですよね、俺の気にしすぎでした」
影虎はすぐに引き下がった。
自分の頼れる師匠で、いつも打ち合いで影虎を圧倒的に打ち負かしていたエルさんがこんな事で死ぬ訳が無いと、そう信じたから。
ミコモの霊術も絶対だと、信じたから。
「それならミコモ……俺の霊力を根こそぎ……全部持っていって霊術の足しにしてくれ……」
「わ、私のも全部お願い!」
影虎と萌葱はせめてミコモに自らの霊力を全て差し出す事にした。
それが今出来る影虎と萌葱の精一杯だった。
「分かったわ。倒れても知らないからね」
ミコモが魔喰で二人の霊力を吸い取る。
二人は急激に体の倦怠感を感じ、地面に崩れ落ちる。
「ちょ……ちょっと無理しないで二人とも!」
「大丈夫ですよ……立てますから」
「ええ……このくらい平気です」
二人はよろよろと立ち上がる。
そしてミコモが二人分の霊力でエルドレットに補助霊術を掛けたその瞬間。
大量の爆弾の導火線に火が灯った。
「皆……分かってるわね……顔と頭をしっかり守るのよ」
「「「はい……」」」
エルドレットが仁王立ちをしてそう言った直後、大量の爆弾が爆発した。
爆弾の威力は凄まじく、轟音が辺りに響き渡る。
「うわああっ………」
影虎達の体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
だがエルドレットはまるで動いていない。
「ぐううっ………!」
影虎はエルドレットの方を見る。
「うっ……眩しくて何も見えない……」
爆発の光で視界は遮られている。
「うっ……はああああああ!」
エルドレットが声を上げて爆発から影虎達を守る。
「な、何―こ―――あああああああ!」
この上なく長く感じた爆発は、終わった。
実際には短い時間だったのだろう。
それでも、影虎には人生で一番長く感じた時間であった。
影虎は霞む目を必死に開けてエルドレットが居た方を見た。
しかしエルドレットの姿は見えない。
「嘘だよな……エルさんが死ぬ訳ない……絶対に……」
影虎は力無く呟いて辺りを見渡す。
それでもエルドレットの姿は見えなかった。
「……生きていたのか、翳の勇者よ。仲間が一人居らんようだがな……」
キノニアが影虎にわざとらしく言う。
影虎はキノニアの言葉に、頭の中の何かが切れた。
「お前が……お前がやったんだろうが!」
影虎は激しい憤怒に駆られる。
その所為なのか……影虎の脳内に一つの機械のような声が響き渡る。
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