はじめての依頼
影虎は冒険者ギルドに向かう途中、服屋でエルドレットに安物の服を買ってもらい着替えた。
流石に血塗れの服のままギルドの登録は出来ないからである。
そして今は隠行は常時オフにしている。
発動させる意味ももう無い上、エルドレットがたまに「ん? カゲトラちゃんどこ行った⁉」と言うためである。
「会ってそんなに経って無いのに服を買ってくれるとは……ありがとうございますエルさん」
「お礼なんていいわよ~別に~」
「そういえば何でミコモは置いて来たんですか?」
「…………まあ、色々とあるのよ……」
影虎はミコモが一体ギルドで何を為出かしたんだと思ったが、深く考えない事にした。
そうして程無くして冒険者ギルドに着いた二人。
冒険者ギルドはかなり奥まった所にあった。
粗野な酒場のような印象だ。
中に入ると、歴戦の戦士であろう人達が椅子に座って酒を飲んでいた。
影虎を見た男達は何かヒソヒソと話を始めた。
「エルドレットが何かもやしみたいな坊主連れてるぞ……ありゃ何だ? 新しい仲間か?」
「もしそうなら見かけに寄らない相当の実力者に違いねえぜ……アイツが目を掛けるなら絶対にそうだ……ミコモもそうだったし」
「やめろアイツの名前だけは出すんじゃない! 禁句だろ!」
「す、すまん……どうかあの悪夢だけは起こらない事を祈るぜ……」
「そうだな……後で俺教会に行ってお祈り捧げてくるわ」
「あっ俺も付いてっていい?」
「じゃあ俺も」「俺も」「ワシも」「アタシも」
「なら皆で行こうぜ」
「「「「「おう!」」」」」
(何か一致団結してるんですけど本当にミコモアイツ何やったんだよ!)
影虎は心の底から疑問を持った。
何をしたら屈強な男女達を怯えさせる事が出来るのだろうと。
「カゲトラちゃんどうしたの? 受付は奥のカウンターよ」
「あっすみません」
エルドレットは教会に行く戦士達をよそに影虎と共に奥の受付に行き、係の人を呼んでパーティー登録を頼んだ。
そして係の人が影虎に冒険者ギルドについての説明をする。
係の人の説明では、
冒険者ギルドとは魔物と呼ばれる人に害を加える生き物の討伐や、山菜や薬草の採集等の仕事を斡旋する組織である。
どの仕事を受けるかはその人次第であるが、自分の実力に合った依頼を受けるのが賢明な判断で、最後にミコモという冒険者に気を付けろ、との事だった。
歩く災害か何かなのアイツはと感想を抱きつつ、説明を受けた影虎は次に技能や身体能力を紙に記入するように指示された。
(うーん何を書こう……正直書くことが無い……隠行はちょっと上手く説明出来る自信が無いし、うかつにバレたら色々とめんどくさそうだしな……)
影虎は技能、特技の欄を空欄で出した。
が、それを見たエルドレットがこう言った。
「あらカゲトラちゃん、何かその……気配を消せるみたいな技の事は書かなくていいの?」
「え⁉」
まさか気付いていたとは、と驚愕させられる影虎。
(エルさんって一体何者なんだ……)
そして見抜かれているのならもう書いてもいいだろうと、技能の欄に隠行能力、と記入した。
そうして影虎はパーティーに登録する事に成功した。
「あと早速ですが初心者向けの依頼ってあります?」
「ありますよ。ゴブリンの巣の討伐とかいかがでしょう」
「いいわね~カゲトラちゃんこれ受けない? 登竜門にはぴったりよ」
「えっ今日ですか」
影虎は召喚されたてほやほやで少し疲れていたので早速依頼を受けるには心の準備が足りない。
そんな影虎にエルドレットが慌てて言葉を添える。
「いやいや、流石に今すぐじゃあないわ。色々と準備もあるし、行くとしたら明日だわ」
「なるほど~俺はいいですけどアイツは……」
「ミコモちゃんの事なら気にしないで~危なくない依頼なら何でもいいっていつも言ってるから」
「じゃあ、お願いします」
「それでは依頼の受諾という事ですね! ゴブリンの居場所はメコルの森です。まあエルドレットさんが居れば安全でしょう」
「「はい!」」
そうして依頼も受けた二人は家に戻り、ミコモにゴブリン退治の依頼を受けたという旨を伝えた。
「ゴブリンかあ……私が始めて受けた依頼もゴブリンだったなあ……」
「へー。あとミコモお前さ、ギルドで……いややっぱ何でもない」
「ん? 何よ?」
「何でもない」
影虎は何故ミコモがギルドであんな扱いをされていたのか気になり本人に聞こうと思ったが、何か触れてはいけない物のような気がして聞くのをやめた。
「じゃあ私が聞いていい? さっき何で服にケチャップみたいなの付いてたの?」
「それは……」
影虎は先ほどエルドレットに説明した通りの経緯を教えた。
それを聞いたミコモは……
「そう……良かったね」
「おい聞いといてその反応は何なんだお前……」
ミコモのやる気のなさは凄まじかった。