萌葱・地獄の日々
「ひ……ひよこ鑑定士……?」
「そうだよ……他の勇者と違って私だけうすら寒いギャグみたいな能力なんだよ……」
萌葱は自嘲気味に笑った。
「あ、あの……そのひよこ鑑定士ってどんな能力を持っているの?」
ミコモが萌葱におずおずと尋ねると、萌葱は笑いながら言った。
「文字通りひよこのオスとメスを見分けられるだけだよ。あはははは!」
「そう……」
「ねえ、ミコモちゃん……私がその能力の所為でどれだけ苦労してきたか知りたい?」
「は、はい……」
萌葱が謎のオーラを出し、ミコモはそれに恐怖を感じてすんなりと萌葱に従った。
「それじゃあ教えてあげるよ……あれは私が召喚されて一週間くらい経った頃だね……」
当時萌葱は巽の勇者としてミル王国に召喚され、一般常識等を身に付ける為に勉強していた。
そして一日でも早く霊基が発現しないかと城の人々に期待を向けられていた。
ただ、言語は完璧な分、さして勉強する事は無い。
霊基も中々発現しない。
書庫の本はあらかた読んだ。
そこで暇を持て余した萌葱は、なんとなく近くの牧場に行ったのだ。
理由はもちろん動物と触れ合いたかったからである。
「あの~すみません~牧場を見学させてください」
「いいよ~。自由に見ていってくれ」
「わあ、ありがとうございます」
萌葱はいい暇つぶしが出来たと喜びつつ牛を愛でたり馬を愛でたりした。
その家畜達は少し元の世界とは品種が異なっていたが。
それらの中に……
ひよこが居たのだ。
因みに萌葱が訪れた牧場はかなり広く、鶏から牛まで幅広く育てている。
「おお~ひよこだ! かわいいな~」
萌葱はおもむろにひよこにそっと触れた。
すると……
[対象のひよこを鑑定可能です。鑑定しますか?]
「ひゃ!? ……何今の」
萌葱は突然の声に驚いた。
「雛って言ったよね今……もしかしてこれが私の霊基……? でも雛を鑑定するって一体……もう一回出てこないかな……“ひよこ鑑定士”!!!」
[かしこまりました。対象のひよこはオスです]
「成る程……………で?」
萌葱はその霊基のあまりの意味の無さに困惑せざるを得なかった。
「そんな事が……」
「ミコモちゃんには私の気持ちが分かる? やっと霊基に覚醒したと思ったらこれだよ。しかも……」
萌葱がその事をミル王国の王に言った所。
「おお! ひよこのオスとメスが判別できる能力か……それがあればニワトカの生産性が上昇しますな! 是非その力を我が国に役立てて頂きたい!」
「は、はい……」
そうして萌葱の地獄のひよこ鑑定士の日々が始まった。
「あそこで何が何でも断っておけば良かったんだ! あの日から一日中ひよこをひたすら見続けるという苦行をしなければいけなくなったんだ! 来る日も来る日もひよこひよこひよこ……」
「………」
ミコモは萌葱に同情する他無かった。
もはや何も言えなかった。
「それを死んだ魚のような目で続けてたら……いつだったか……」
萌葱がひよこを鑑定しながらおうちに帰りたい……リア充爆発しろ……などと唱えていた時だった。
[ひよこ鑑定士が更新されます………更新しました]
「……………え?」
[ひよこ鑑定士Ⅱに更新されました]
萌葱のひよこ鑑定士が成長し、ひよこ鑑定士Ⅱに進化した。
以前のものとの違いはひよこのオス、メスの判別だけでなく健康状態なども分かるようになった点だ。
「だから何!?」
「っ!?」
ミコモは萌葱の叫びに気圧されてびくっと体を震わせた。
「所詮ひよこ鑑定士が成長した所で所詮ひよこ鑑定士だったんだよ! ふざけんな! でも私は超頑張ってその苦痛が倍になった後もひよこの鑑定を続けたのさ……そしたら……」
「……………」(もはや無我の境地)
[ひよこ鑑定士Ⅱが更新されます……更新しました]
「どうせ……ひよこ鑑定士なんでしょ……」
[ひよこ鑑定士Ⅲに更新されました]
「ほら……アハハハハハ!」
だがこの時は違った。
なんとひよこ鑑定士Ⅲの効果はあらゆる生物の健康状態を知る事が可能という、今までの萌葱の霊基とは一味違う霊基であった。
「私も最初はようやくひよこから離れられるって喜んだよ……でもミル王国の奴等ときたら……
『流石モエギ殿! 次は我等の国の人間の診察を……』ってさ。もうそこで私は自我を取り戻して、そいつらを全員ボコボコにして普通の仕事をさせろと脅したんだ。それで私がこの国に遣わされたんだよ」
「そんな経緯があったのね……」
因みに萌葱が霊術や反霊小町を巧みに操る事ができるのは、転生したての頃にミル王国の人間に使い方を教わっていたからである。
「これで私の霊基と地獄の日々は以上だよ」
「なんて言うか……その……お疲れ様……」
と、そんな風に萌葱が自身の凄まじい過去をミコモに打ち明けていた時だった。
「モエギ様! ミコモ様! ミル王国から使者が来ております! 直ちに玉座の間に来て頂きたい!」
城の使用人が息を切らしながら二人の下にやって来た。




