潔白
萌葱がフォーヴィスに止めを刺した頃。
相打ちとなった二人に、邪悪な影が忍び寄る。
「フフフ……計画通りだわ……ここまで上手く行ってくれるとはね」
テヘラが倒れる二人の側に立つ。
「フォーヴィス様の読み通りやっぱり陽の勇者は正義漢ね。こんな単純な手品に引っ掛かるなんて……」
そう言って妖しげに嗤うと、テヘラは短剣を腰から取り出した。
「さて……始末しなくちゃね。ああ、始末するこの瞬間が堪らないわ! 自らの手で刺す感触が! 肉体の痙攣が! アハハハハハッ!」
短剣を影虎の喉元に振り下ろすテヘラ。
だがその短剣が振り下ろされる事は無かった。
「ーー光縛」
「な!?」
テヘラは魔術に体の自由を奪われた。
短剣が床にキンッという音を立てて落ちる。
声がした方向を見ると……晴人がテヘラに手を突き出していた。
「お前か……本当の魔族はお前だったんだな! こんな風に影虎を陥れやがって……俺を騙しやがって……人の正義心を利用しやがって……」
晴人は鋭い眼光をテヘラに浴びせた。
「そんな……確かにこいつの技を食らって戦闘不能になった筈! 何で……」
「俺の能力、フォルテス・エクエスは回復も出来るのを忘れたのか? それにあんな殺意が沸くような事を言われたらな……そりゃあ立ち上がるさ」
「………っ!」
テヘラは墓穴を掘ってしまったと後悔した。
そして晴人は影虎に静かに言った。
「ごめんな影虎……俺がもうちょっと落ち着いて影虎の話を聞いていたら……俺は勇者失格だ……後で謝らせてくれ……」
晴人はテヘラを蹴り飛ばし、気絶させた。
*
*
*
「すみません! 早く開けて下さい!」
「えっ? 誰だろう……」
「何じゃ? こんな時に……」
玉座の間で皆が回復するのを待っていた時。
扉が激しくノックされた。
「私が開けましょう」
「頼むぞ」
雷の攻撃から回復した配下が扉を開ける。
そこには息を切らしたカミルレが居た。
「おおカミルレ殿! 何かあったのか?」
「それは……」
王がカミルレにそう聞くと、カミルレは事の次第を伝えた。
「何!? そんな事が……じゃが本当にカゲトラ殿が魔族側じゃったのか?」
「信じ難い事なのですが……私もこの目でカゲトラ様が刀を操作してハルト様を切ろうとした所を見ました」
「う~む……」
「嘘でしょ……影虎君が……」
萌葱が信じられずに思わずそう呟いた。
王は考える。
果たして本当に影虎が魔族側に付いたのか、と。
「カミルレ殿、ひとまずカゲトラ殿に話を聞きたい。聞ける状態ならばだが。今御二方は何処にいるのかな?」
「城の西側の廊下です」
「では即座に向かおう。行くぞ皆の者!」
「「「「「はっ!」」」」」
そうして王は配下とカミルレ、萌葱を引き連れて晴人と影虎がいる所に行った。
因みにエルドレットやミコモはまだ治療中だ。
気絶こそしているが命に別状はない為、重症の配下達が優先されたのだ。
カミルレの案内によってすみやかに影虎達の下に着いた一同。
「ハルト殿! 無事であったか!」
「はい、この通りです」
晴人が力強く言う。
「ハルト様! よくご無事で……」
「ははは……大丈夫だって……そんな大げさな……」
「………」
カミルレが晴人に泣きながら抱きつく。
萌葱はそれを鬼神のような顔で睨んだ。
「ところで……カゲトラ殿は……」
「ああ、王様、ご心配なさらずに。影虎は魔族側じゃありませんでした。俺が間違っていたんです……魔族はそこに転がしてあります」
晴人は心の底から申し訳無さそうな顔をして言う。
王は大体の事情を察する。
おそらく、この魔族が何かしたのだろうと。
「よくぞ魔族を捕らえて下さった。礼を述べさせて頂たい」
「ですが俺は……それよりも王様、影虎が俺との争いで霊力を使い果たしたようで……治療をどうかお願いします」
「無論承知しておる。皆の者、カゲトラ殿を治療室に! この魔族はひっ捕らえて牢に入れろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
(良かった~影虎君魔族側じゃなくて。もし魔族側だったら大変な事に……)
萌葱は胸を撫で下ろし、息を吐いた。
だが晴人は浮かない顔で運ばれていく影虎の様子を見ていた。




