奥の手
晴人はおそらく最強なのであろう技を影虎に仕掛ける。
剣がさながら太陽のように強い光を放ちながら横薙ぎに振るわれた。
影虎はそれを大きく飛び退いて避けたが、その技の衝撃波で一番遠い壁まで吹き飛ばされてしまった。
「うおわああああああああああ!」
「贖罪しろ……牢屋でな!」
影虎は背中の痛みに顔をしかめながらも、晴人に透明な勾玉の依代を向ける。
塵の一つも入っていない、透き通った水晶のような玉だ。
晴人はそんな影虎を責める。
「影虎……最後の悪あがきか!? 何て野朗だ……」
影虎は晴人の言葉に深い溜息をつき、諭すように言った。
「晴人、お前は多分良い奴だ。さっきの技も……最初から手加減してたのが丸分かりだ」
「だから何だよ!? 当て付けか!?」
晴人は影虎を憎憎しげな目で見る。
実は先の必殺技を、晴人は影虎が死なない程度に手加減して撃っていた。
図星を影虎に突かれて苛立つ晴人。
影虎はそんな晴人に構わず続ける。
「だがな……少しは冷静に考えてくれよ……無理もないけどさ……俺ちゃんと言っただろ?
魔族に嵌められた、ってな……そんな訳で悪いが頭を冷やして貰うぞ、晴人!
ーーー純粋冠毒!!!」
影虎は最後の依代、純粋冠毒を行使した。
透明でよく見えない液体の玉が晴人に当たる。
その次の瞬間、晴人は先程の勢いは何処へやら気の抜けた顔になって、剣を落として倒れた。
「あれ……何でだろう……影虎と戦おうという気が起きない……」
「やった……成功したぞ! これで晴人が暴れる事はない!」
影虎は霊術が上手く使えた事を喜んだ。
依代、純粋冠毒は相手の戦意を奪ってしまう毒だ。
籠めた霊力によってはそれが仮に親の仇並の恨みがあったとしても、である。
最初、実験した際にこの依代の効果が一切分からず困惑していた影虎だったが、誤ってほんの少しだけその液体を触ってしまい、それで効果を理解する事が出来たのだ。
「へへ……でもさっきので俺も霊力を使いすぎた……相打ち、か……」
影虎はニヤリと笑って、床に倒れ込んだ。
*
*
*
一方。
玉座の間に残った仲間達は、静かに赤髪にメイド達を見張っていた。
そんな時……
(テへラから連絡が来た……頃合だな)
フォーヴィスが動こうとしていた。
(ベットだ。アプエスタ・ウィクトル)
[かしこまりました]
フォーヴィスは自らの能力にそう命じた。
能力が発動し、それはルーレットのホイールやテーブル、そして黒服を着た無機質な人型となって顕れる。
ホイールやテーブルは宙に浮いており、人型はさながら顔の無いマネキンのようだった。
その人型は恭しくホイールを回転させ、玉を投げ入れた。
玉は惑星のように回転した後、24の所に入った。
数字のマス目が黄色く光る。
(今日はツイているな……行くぞ人族の勇者達よ!)
フォーヴィスはエルドレットやミコモ達の目の前にまで出た。
突飛なフォーヴィスの行動に目を見開く一同に対して宣言する。
「私こそが君達のお探しの魔族だ!」
「「「「「な!?」」」」」
一同が驚いている隙にフォーヴィスは先制で攻撃を仕掛けた!
「裁きの雷!!!」
「「「「「ぐああああああああ!」」」」」
玉座の間に居る皆に雷が落とされる。
ただ一人、フォーヴィスを除いて。
轟音が鳴り響き、皆の体を焼き焦がす。
「くっ……こいつのこの強さ……間違いない、上級魔族だ……」
萌葱がそう推測しつつ、ゆっくりと立ち上がった。
他のエルドレットやミコモ、アルメリアもなんとか今の攻撃を耐えたようだ。
「探したわよ! ーーコンへラル!!!」
まず最初に攻撃したのはアルメリアだ。
バスケットボール大の氷塊が空気中で形作られ、それがフォーヴィスの体を襲う。
だがフォーヴィスは……
「気の早いお嬢さんだ……ところでダーツはお好きかね?」
一本のダーツの矢で粉々に砕け散らせた。
「嘘でしょ!? 私の魔法が……」
「ふふふ……人生はそんなに焦るものではないんだよ」
フォーヴィスは悠々とした様子でそう言い放つ。
「さて皆さん……私がここに来たのは人族の方々と正当な戦いをする為……先程の不意打ちは多対一なのでフェアという事で」
「魔族のスパイが正当ねえ……矛盾してるわ」
ミコモがそう皮肉を言うと、フォーヴィスはもったいぶるように答えた。
「私が思うに戦いとは騙し合いのようなもの。そこで正当な戦いとはルールに縛られず次々と奇策を講じていくものだと言うのが私の考えだ。そうは思わないか?」
「はあ……」
ミコモは聞いていてどうでも良い様に感じてきた。
それがミコモという人間である。
フォーヴィスは反応の薄いミコモは放置し、続けて一同にこう話す。
「だが私の霊基については教えて差し上げよう……戦う相手にわざわざ自分の霊基を教えるのが最近の魔族のトレンドでね」
「あの……そもそも霊基ってのは一体……」
萌葱がおずおずと聞くと、フォーヴィスは得意顔になり。
「お嬢さん、霊基というのはね……魔族が持つ異能力の事さ……そして私の霊基の名はアプエスタ・ウィクトル。このディーラーが投げ入れた玉が入った数字によって何かしらの効果が出る、そんな能力だよ。面白味があるだろう?」
フォーヴィスはそう言って笑みを浮かべた。




