猜疑心
「ここでも二手に分かれよう影虎。城の東側を俺とカミルレ、西側を影虎が見張ってくれ!」
「了解!」
三人は即座にそれぞれの持ち場で警備を始めた。
「ハルト、私はどこを見張ればいいの?」
「俺と一緒に来てくれ。でないと俺か影虎のどっちかが負傷を負った時に君が居ないと困るだろう?」
「分かったわハルト。一緒に行きましょう」
「おうよ!」
晴人は威勢よくそう答えた。
そうして晴人達がしばらく辺りを歩いて巡廻していると……
「あの……陽の勇者様でしょうか……?」
晴人の目の前に、茶髪のメイドが現れた。
そのメイドはまるで人形のように整った顔をしており、仕草からは大人しげな印象を受ける。
晴人は何故今話しかけられたのか不思議に思いつつも答えた。
「そうですけど……何かあったんですか?」
メイドは晴人の言葉を聞いて崩れ落ち、大泣きしながらも晴人に言った。
「実は……翳の勇者様が魔族と手を組んでいる所を見てしまったのです!」
「な……そんな筈は……! 嘘でしょう!?」
晴人は驚愕して思わずそう叫んだ。
カミルレもそれを聞いた途端信じられずに固まっている。
そしてメイドが泣き崩れながら更に続ける。
「本当の事なのです……私はこの目で見ました。翳の勇者様が先日の夜、漆黒の魔族に賄賂を受け取る所を……どうかあの勇者を倒して下さい!」
「…………」
晴人はしばらく黙り込んで考える。
何故影虎が魔族と手を組んだのか?と。
このメイドの泣き具合からして信じたくは無いがおそらく本当だ。
何かそれ相応の理由があるのか?
動機は何だ?
そもそもこのメイドの言っている事は正しいのか?
もしかすると、ただの勘違いかもしれない。
熟考の末、晴人は一つの結論に辿り着く。
「………とりあえず影虎……じゃない翳の勇者に話を聞いてきます。もしそれで魔族側に付いていたら倒します。俺に任せてください」
「あああ……ありがとうございます陽の勇者様!」
メイドは涙で塗れた顔を上げて平に感謝する。
「それじゃ……行くよカミルレ」
「ええ……急ぐわよハルト」
二人は疾風の如く影虎を探しに行った。
その後姿を見送る茶髪のメイド。
メイドはハンカチで涙を拭き取り。
「ふふふ……説得は成功ね。でもかなり弱いわね……もっと仲違いさせる為に私が直接後押ししてこなくちゃね」
そう言って茶髪のメイド……テへラは不気味に笑い二人の後を追った。
*
*
*
「見つけた! 待つんだ影虎!」
「うおっ! どうした晴人!? まさか魔族か!?」
突然晴人達が来て身構える影虎。
「ある意味ではそうだよ……」
「何!? ていうかある意味って何だよ」
「……単刀直入に言うぞ。実はさっき城のメイドさんからな……お前が魔族と組んでるっていう話を聞いたんだ……それで影虎に話を聞きに来たんだ……」
「え!? いやそんな訳無いだろ……何かの勘違いじゃないのか?」
影虎は混乱しつつも晴人に問いた。
カミルレはそんな二人のやりとりを静かに見守っている。
「それを俺は聞きに来たんだってば。正直に言ってくれ。お前何か昨日の夜に密会とかした?」
「いやしてない。そもそもあの時枕投げで気絶してたから……」
「そうか……微妙だな……気絶くらいなら魔法で瞬時に直せるし俺等じゃアリバイの証明にならないぞ」
「おい待て。アリバイどうこう以前に俺には魔族側に付く理由が無いぞ」
「確かに……じゃあそのメイドさんの勘違いなのか……?」
晴人がそう結論付けると、影虎はふと思いついた事があり晴人に聞いた。
「なあ、そのメイドさんとやらはどこに居るんだ?」
「分からないな……あの後すぐに影虎を探しに行っちゃった」
「おい、もしかしたらその人が……」
魔族なんじゃないか、と言おうとした所で。
影虎の刀が手品のようにひとりでに浮き、晴人の首を刎ねようとした。
「うわっ!」
「な!?」
晴人は刀を腰に携えていたロングソードで受け止める。
因みに晴人は白銀の鎧を着けており、いかにも勇者らしいデザインの剣を持っている。
出で立ちはもはや物語の勇者そのものだ。
だが。
その勇者も時として欺かれる事はある……
「いきなり何しやがる影虎! まさかお前……本当に魔族に付いていたんだな!」
「いや違うって! 刀が勝手に動いたんだ!」
いきり立つ晴人に影虎はあわてて説明するが、晴人は聞く耳を持たない。
無理も無いだろう。
誰がいきなり会話中に包丁を振り下ろしてきた人を信じられるのか。
「そんな事があるわけないだろ! 周りにはカミルレ以外に誰もいないんだぞ! お前が霊術か能力で俺に不意打ちを仕掛けたんだろ!卑劣な真似をしやがって! 許さねえ!」
「ちょ……待っ……うわっ!」
晴人が影虎に剣を振り下ろす。
影虎は辛うじて刀で受け流す事に成功する。
「くっ……こいつ強い……」
「絶対にお前を倒す! 二人と……この世界の人達の為に!」
影虎は晴人の力に押されつつも、説得の方法を考えるが、思いつきそうにも無かった。
(クソッ……嵌められた……こうなったら晴人を一旦戦闘不能にして頭を冷やさせるしかない……でもこいつをどうやって戦闘不能にしよう……一番難しいじゃん……でもやるしか無いな)
影虎はそう決意し、刀を晴人に向け構え直した。




