潜伏の魔族
影虎達は依代の効果を試す為に城の兵士の訓練場に来ていた。
辺りには練習用の剣や槍、そして的の人形などが置かれており、粗野な木造の建物といった印象を受ける。
影虎達が王に霊術の実験がしたいと言うと快くここを貸し出して貰えたのだ。
「ここなら心おきなくやれるわね」
「そうだな。でもミコモお前は本気出すなよ。お前の場合この訓練場がぶっ壊れるからな」
影虎がそんな風にミコモに毒を吐くと、ミコモは青筋を立てながら影虎にこう言った。
「カゲトラあんた仮にも女の子相手によくそんな事が言えるわね……別に本気出したりしないわよ。それに私は依代を試したい訳じゃないし」
「え? そうなのか?」
影虎がそう聞くと、ミコモは頷き。
「そうよ。このよく分からない霊術の依代には普通の依代以外の使い道があるのよ」
「へえ~その使い道ってのは何なんだ?」
「失礼な事を言ったカゲトラには教えてやんない」
「おい……気になるだろうが……」
影虎はムスッとしてご立腹な様子のミコモを見て、これは失敗しちまったなと後悔した。
「まあそれは置いといて。ちょっと私もトイレ行きたくなったから行ってくるわねカゲトラ」
「おいお前仮にも俺の師匠だよな? 何でお前が退場するんだよ! 霊術の実験が出来ねーじゃん!」
「エル姉が見てくれるから心配しないで。エル姉も一応技主体とは言え霊術もかなり使えるんだから」
「そうよカゲトラちゃん。大丈夫よ。私が見るわ」
「何か釈然としねえ……まあいいや早く行って来い」
影虎は師匠が修行中にトイレに行ってしまうという事態にもやもやしたものを抱えつつも依代を取り出し霊術を的に放った。
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「さて……トイレはどこだろう……うおっ、痛っ」
「ぐへっ!」
ミコモがそうしてトイレを探していると、角でちょうど帰って来ていた萌葱とぶつかった。
「あらごめんなさい。急いでたので」
「おおう……誰かと思えばミコモちゃんじゃ……あっ!」
萌葱は先程の魔族の件を早速伝えようと考えた。
「あの……ミコモちゃん、落ち着いて聞いて欲しい事があるんだけど……」
「……何?」
ミコモがそう聞くと、萌葱は話を切り出す。
「この城にね……魔族がいるのよ」
「え!?」
衝撃で思わず目を見開いたミコモ。
萌葱はさらにこう続ける。
「まだ影虎君等は霊術の実験中かな? 出来れば今すぐ切り上げて早速伝えたいんだけど……」
「分かったわ。今すぐ行きましょう」
そして二人は影虎達のいる訓練場まで戻った。
「おうミコモ、早かったな。萌葱さんも一緒?」
「今それどころじゃないんだよカゲトラ! 耳の穴かっぽじってよく聞け!」
「実はね影虎君……この城に魔族が居るの。しかも多分二体以上いる……」
「嘘だろ……」
影虎は衝撃の事実に驚愕した。
まさかこの城にまで魔族の手が伸びているとは……と。
「とりあえず王様に伝えるんだ。今はそれしかないだろ」
「そうねカゲトラちゃん……あと多分だけれど大胆に城にまで潜入するという事はよっぽどの自信があるって事ね……多分上級魔族よ」
「そうかもしれないわね……でもどうやって魔族を見分けるの?変装の魔法か霊術を使われたら見分けがつかないわよ」
ミコモのもっともな言い分に唸る四人。
そんな時、影虎がある事を思い出した。
「そうだ! 確かオウレンさんが解析の霊術を持っていたよな? それで見分けられないか? 種族くらいなら分かりそうなもんだけど」
「「それよ!」」
「ん? オウレンさんって誰?」
二人が影虎の意見に同意する。
オウレンを知らない萌葱はよく分からないという顔をしている。
「試す価値は十分にあると思うわカゲトラちゃん。ちょっと呼んで来るわ」
「お願いしますねエルドレットさん。この緊急事態なら王様の許しが出る筈……王様の所に行こう」
三人はオウレンを連れてくるのをエルドレットに任せ、玉座の間へと走り出した。
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「「「王様! 失礼致します!」」」
「な、何じゃ!? そんなに急いで……何があったのじゃ!?」
三人は玉座の間をバタンと勢いよく開け、玉座の間に駆け込む。
そして萌葱が驚く王にこう告げた。
「この城に……魔族が潜んでいます」
「な、何ですと!?」
王の顔が驚愕に満ちる。
萌葱はさらにまくし立てるように魔族がいるという根拠を述べた。
「実はかくかくしかじかで……その魔族は赤い髪をしていて、遠目で一瞬の事だったので顔はあまり覚えていません。それ以外は普通のメイドと同じでした」
「成る程……じゃがこの国のメイドに赤い髪は五人も居るのですぞ……それに二体以上となるとな……」
頭を抱える王に、影虎がこう言った。
「そこで王様、解析の霊術が行使できる霊術師をここに呼び、解析するというのはいかがでしょうか」
「解析の適正とは珍しいの……試すのは悪くないですな。それでは今すぐにその霊術師の居場所を……」
「それなら心配なさらずに。エルさんが呼びに行きました。勝手な行動して申し訳ありませんが、緊急事態ですので……」
「いや気になさるなカゲトラ殿。むしろ英断ですぞ」
「お褒めに預かり光栄です」
そう言いつつ影虎は内心ほっとしていた。
しかし……
フォーヴィスは熟練のスパイである。
この程度の情報なら、容易く手に入れる事が可能なのだ。
(見抜かれしまったか……おのれ巽の勇者め……)




