宝物庫の装備
「それはもしかすると先代翳の勇者が使っていたという黒装束じゃないかしら?」
「知っているんですかエルさん!」
「ええ。私はただの庶民だからあんまりよく知らないけど、翳の勇者は黒い装束を身に纏って街の屋根を跳んで移動していたらしいわ」
「そうなんですね……という事はこれが先代の装備……」
影虎はその黒装束を見る。
いかにも厨二病的な感じで、影虎のその病気を滾らせる装備だった。
「早速着てみたいな……ちょっと部屋で着替えてきます」
「ええ、いってらっしゃい。カゲトラちゃんに凄く似合うと思うわ」
影虎は宝物庫を出て、自分の部屋まで戻った。
ロゴスとの戦いで少しくたびれていたスケールメイルを脱ぎ、黒装束に袖を通す。
装束は影虎が着ろうとした時、装束が影虎の体に合うように変化した。
「中々ご都合主義だなあ……でもめっちゃ体にフィットするな~動きやすいぜ」
そして影虎は宝物庫に戻る。
影虎は何故か体が軽いように感じた。
「ただいま~」
「あら、早かったわねカゲトラちゃん。よく似合ってるわよ」
「そうですか? ありがとうございます」
影虎がエルドレットからお世辞を受け取っていると、宝の山を探っていた二人が影虎を見てこう言った。
「何かマシに見えるわよ、カゲトラ」
「うっ……私の厨二病が疼く……くっ……」
「何だその反応! しかも萌葱さんまで!」
影虎はミコモはともかく、萌葱にまで言われた事に若干傷つく。
また、萌葱さんって意外と駄目なタイプの人間なのではないかと疑惑を持ち始めていた。
そうして探し続けた結果
毒の依代三つ。
睡眠の依代四つ。
水の依代六つ。
何か分からない依代五つ。
先の黒装束。
等が出てきた。
依代は玉であったり装飾品であったりと形はバラバラである。
因みに全部和風に作られているのが特徴だ。
「こんなもんか……さて、このよく分からない依代をどうするかだが……」
「私が使うかもしれないわ。頂戴」
「ミコモお前使えるの? まあいいけどよ……」
影虎はミコモのその依代を渡す。
ミコモは巫女服のポケットにそれをしまった。
「さて……依代の効果を試してみたらどう? 修行も兼ねてさ」
「とか言って萌葱さん、俺に色々教えるという職務を放棄するんじゃないでしょうね」
影虎はごく自然に萌葱に対して失礼な事を言った。
「影虎君、君ね……人を何だと思っているのさ……」
「リア充殺戮マシーン」
影虎がまたも毒を吐くと、何故か萌葱は嬉しそうな顔になり。
「何だ合ってるじゃん。影虎君……君は人を見る目があるよ」
「合ってるのか……」
「まあでも職務放棄はしないからね? でもちょっと今からお手洗いに……」
「それならそうと言ってくださいよ……」
萌葱はその影虎の言葉を聞いて即座にトイレへと向かった。
因みにトイレには何と魔法式のウォシュレットが付いている。
おそらくこれも先代勇者が創り出したものなのだろうが、西洋の雰囲気が台無しであった。
*
*
*
「ふう、メイド服も疲れるわ~フォーヴィス様の時には疲れも感じないのに」
メコル城の一室にて。
テヘラは、束ねていた赤く長い髪を解いてメイド服を脱ぎ、楽な格好に着替えて休憩していた。
この部屋の前はあまり人通りが少なく、鍵は掛けてあるのでテへラにとって唯一城内でくつろげる場所だ。
「陽の勇者にメイドとして近づいたけど……大成果だわ。やっぱりフォーヴィス様の言う通りだったわ」
テへラは晴人の性格をよく理解する事が出来た。
「揺さぶり方も分かったわ……これでよりフォーヴィス様のお役に立てる……」
テへラはフォーヴィスの顔を脳内に思い浮かべ身悶える。
「ああ! あの凛々しい目! 整った鼻! 渋くて素敵な笑み! それに下級魔族である私を一人前の魔族にまで育て上げる約束もしてくださった紳士的な優しさも……フォーヴィス様は本当に最高のお方だわ……」
そしてテへラはメイド服を着直し。
「お慕い申しておりますわ……フォーヴィス様……だからこそ……」
テへラは恍惚に満ちた表情から一転して能面のような顔になり。
「死んでもらうわ……勇者共」
*
*
*
「はあ~すっきりした。ていうか影虎君あいつ結構めんどくさいな……」
萌葱は風の霊術で手を乾かしながらそうぼやいた。
「ん? あれは……」
萌葱は部屋に赤髪のメイドが入っていくのを見た。
「リアルメイドさんね……赤髪のメイドさんとは中々やるな……」
萌葱はメイドにそんな感想を抱きながらその部屋を通り過ぎようとすると……
「ああ! あの凛々しい目! 整った鼻! 渋くて素敵な笑み! それに下級魔族である私を一人前の魔族にまで育て上げる約束もしてくださった紳士的な優しさも……フォーヴィス様は本当に最高のお方だわ……」
「な!?」
萌葱は驚愕した。
声はあまり大きく聞こえなかったものの、その衝撃的な内容は聞き取れた。
「う、嘘でしょ……魔族!? これはちょっと失礼して聞き耳を立てさせてもらおう……」
萌葱が扉に手を当てて話を盗み聞きした。
勇者を殺す、という話を。
「これは不味い事になったぞ……王様に知らせなきゃ……」
萌葱は風の霊術で浮遊し、足音を立てないようにすみやかにその場を去った。




