陰キャ全開
そんな事がありながらも美味な料理をふるまわれたり、食事中に手品師のショーが行われたりと影虎達は手厚くもてなされた。
それに加えてさらに城の王族が使う大浴場まで貸し出された。
「いくら何でももてなされすぎじゃないか? 勇者だからって……」
影虎は広い湯船に浸かりながらそう呟いた。
「まさか策略でも練られてるんじゃないよな……そうだったら逃げよう……」
そう危惧する影虎だが、これだけもてなされているのは先代勇者の力が絶大な事と、何としてでも人族の希望を手放したくないという王の思惑によるものである。
「はあ~まあそんなに気を張っていたら疲れるし、ここはゆっくりとリラックスさせてもらおうかな」
影虎は程よい温度の天然温泉に身を任せた。
疲れがじわじわと取れていく。
その時……
ガラリ。
陽の勇者こと向坂春人が浴場に入ってきた。
「おっ、君は翳の勇者の……」
「うわっ……」
「何うわって……俺何かしたっけ?」
「別に……」
影虎は苦い青汁を強引に飲まされた人のような顔になって春人を見る。
当の春人は何故自分が入って来ただけで影虎がこんな顔になるのか首を傾げた。
「まあいいや。いやよくないけど! とりあえず頭と体洗お」
「……あの二人にやって貰ってるんじゃ無いの?」
影虎は頭を洗おうと石鹸を手に取った春人に爆弾を投下する。
すると春人は顔色を変えて影虎に詰め寄った。
石鹸を元の位置に戻して。
「おいほぼ初対面の人間によくそんな事が言えるなお前! いいか、教えてやるよ! あの二人と俺はお前が考えているような関係じゃない! 分かった!?」
「ワカリマシタ」
「その反応は絶対理解してないだろお前えぇ! もしかしてさっきうわって反応したのもそれか! ちくしょう何てこった! 何で俺こんな女子と一緒にいると勘違いされるんだ……萌葱さんにもそんな反応されたし……」
春人は地味に落ち込みつつも椅子に座って石鹸をこすり、頭を洗った。
そして影虎はこの状況からどう脱出したものか思考をめぐらせた。
(どうしよう……よりによってシャワーの位置が出入り口にありやがる! このまま普通に出たらウザ絡みしてきそうだ……どうすればいいんだ! くそっ、最近覚えた敵を麻痺させる毒の霊術の依代さえあれば……)
影虎は今の状況に歯噛みした。
刀にいつも着けている依代は浴室に置いてきてしまった。
影虎は自分の警戒心のなさを呪う。
そうして策を考えていた影虎だったが、その間に春人は体を洗い終えた。
春人が湯船に入ってくる。
「よっと。おお~ここの温泉気持ちいいですね~」
「あっそ」
「なあ、その対応やめようぜ。こっちはそれなりに傷付くんだよ……」
影虎のそっけない態度に傷心の春人。
だが彼は陽の勇者である。
“陽”という字を冠されるだけあってこれくらいの事で影虎とのコミュニケーションを諦めたりしなかった!
しかし影虎にとってその精神はいい迷惑だった!
「そう言えば直接名前を聞いてなかったね。確か影虎だったっけ? 俺の名前は向坂春人。よろしくな」
「そう……俺は尾野影虎。よろしく……」
春人が握手の為に差し出した右手を影虎が弱弱しく握った。
影虎は無意識に陰キャオーラと隠行を全開で放出している。
そのオーラを気にも留めずさらに春人は影虎に話しかける。
「なあ影虎、お前はどんな風にこの世界に召喚されたんだ?」
「道路が陥没してそれで死んだんだ」
影虎は投げやりにそう言った。
「凄い召喚のされ方だね……あ、ちなみに俺は学校から帰ってたらトラックに轢かれたんだ……」
「テンプレだな……つまらん奴」
「人の死因をつまらないってそれ酷くない!?」
春人が影虎に対しそう突っ込む。
「まあ死因は置いといて。影虎って普段元の世界で何してた?」
「いつも家に引きこもってoutouki見てるかゲームかクイッターしてた。あとボ○ロとか聞いてたな。まあどうせ陽キャの春人君にはわかるま……」
「あーなるほど、ボ○ロかー。『それヒットショットの曲じゃん!』とか言う奴マジで許せないよなー」
「………な、何!?」
影虎は絶句した。
そこを理解している陽キャがいたとは……と。
「おい春人、俺の中でお前の評価が1上昇した」
「たったの1かよ! 低っ! 最大値いくつ?」
「100だ」
「雀の涙じゃんよ! もうちょっと上昇してくれよ!」
影虎は春人に讃賞の言葉を贈る。
春人は釈然としていないが。
「さて……そろそろ上がろう。じゃあお先に……」
「お、じゃあ俺も」
「何で同時に上がるんだよ……」
「ええ~いいじゃん別に~」
影虎と春人は一緒に浴場から出た。
浴場を出てからも他愛のない話をし続けた。
ほぼ晴人が喋り、影虎が薄い反応をするというサイクルの繰り返しだったが。
こうして二人は親交を深め合ったのであった……




