能力の実験
影虎が更に森林を進んでいると。
[対称Aに対し隠行を発動可能です。発動しますか?]
「またお前か…」
影虎はまた何かいるのかと少々ウンザリした。
そしてまた発動させてから動こうと考えた時に、ふと影虎は疑問を持った。
この隠行は、刀の能力なのか自分の能力なのか、有効な範囲はどのくらいなのかと。
ここは少し実験してみようと、刀を地面に差し、隠行を発動させてみた。刀を持っていない状態で発動すれば自分自身の能力という事になるからだ。
「ヘイ隠行、隠行を発動させて」
[かしこまりました]
どうやら影虎自身の能力のようだ。
満足した影虎は次に隠行の有効範囲を調べようと思ったが、調べるのが難しいので断念した。
そんな風に色々試していると、影虎の前方にまたも動物が見えた。
犬だ。
だが犬とはいっても尻尾が二本もあり、顎にはまるでヒゲのように毛がもっさりと生えている。
毛の色は赤褐色。柴犬の毛の色と言えば想像には難くないと思われる。
影虎は経験値入らないし犬なんて殺したくないと、そのヒゲ犬を無視する事にした。
そしてそのヒゲ犬の横を堂々と通る影虎。
ヒゲ犬は全く影虎に気付く様子は無い。
(犬って嗅覚人の一億倍は鋭いんじゃ無かったっけ…隠行地味に凄くね?)
逆にここまで気付かれないといっそ寂しさと侘しさを覚えてしまう影虎。
それでもチートには変わり無いので隠行をフル活用し森の動物達を全てシカトして森林を進んでいると、ようやく森林の出口が見えた。
「やっと森の出口が!長かった…ついに…」
さながら富士山の頂点にたどり着いた登山家のような気持ちで影虎は森林を出た。
森林を抜けると川に囲まれた大きな街が見えた。
よかった街が近い!あそこで冒険者ギルドに登録して冒険者になって冒険するんだ…と息巻いて街に向かって駆け出した。
しかし影虎はこの世界に冒険者ギルドがあるとは限らない上に仮にあったとしても身分も何も無い影虎に登録させてもらえる可能性は低いという事を失念していた。
※
※
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斯くして街に着いた影虎は街並みの美しさを堪能…
[対称Aに対し隠行を発動可能です。発動しますか?]
[対称Bに対し隠行を発動可能です。発動しますか?]
[対称Cに対し隠行を発動可能です。発動しますか?]
………………以下、省略。
「だああああああ!うるっせええええええええ!」
影虎の頭にあのメッセージが多数響いた。
「頭割る気かこの野郎…くそう歩く度にこれじゃ死ぬ…常時発動とか出来ないのかな…」
[かしこまりました]
「おっ、出来た!以外と有能!見直したぞ隠行!」
因みに何故常時発動オフにしなかったのかと言うと抜き身の刀を持っている上に服にエセ鶏の帰り血が付いているため、あまり目立ちたくなかったためである。
そして隠行に遮られたがこの街の街並みは。
中世風というのが最もしっくり当てはまるのだろうか。
建物は石造りで屋根は赤い瓦でふいており、街道は石畳で整備されている。
馬車や人が行き交っておりとても賑やかだった。
「おおお…すげえ本物のエルフがいる!あっちにはケモミミもいるぞ!やるじゃねえか異世界!」
影虎は冒険者ギルドを探しながらこの街の観光を楽しむ事にした。
歩いていると人々の会話が聞こえてくる。
「なあ聞いたか?王様が魔族の侵攻に対抗して翳の勇者を召喚してくださるんだとよ!」
「翳の勇者ってあの伝説の翳の勇者か⁉なら俺らは助かったって事だな!はあ~ホッとしたぜ。もう俺魔族が攻めてくるって聞いた時もう終わったって思った~」
「本当それだよ!いや~安心した!そうだ、助かった記念に飲みに行こうぜ!」
「いいなそれ!行こうぜ行こうぜ!」
「よっしゃ~今日はパアーっと行くか!」
「おう!」
その会話を聞いた影虎は翳の勇者って俺の事じゃないよな…と一瞬不安になったが、まあ召喚された時に誰も居なかったし他にも転生者が居るのだろうと自分を納得させた。
そもそも自分が翳の勇者だったとしても戦争なんて絶対に行きたくないので安心した影虎だった。
そして街を歩いていて幾つか気付いた事がある。
まず言葉が通じ、文字も読めるという事。
通りすがりの人が話している内容を完全に理解でき、看板などを見てそれが何と書かれているのかも分かる。
更に、隠行の効果は絶大である事。
影虎は少なくともこの街の住民から見ればかなり奇抜な格好な上に帰り血も付いておりこの街では珍しい黒髪であるのに通行人は影虎を一瞥もしなかった。
最後に、冒険者ギルドがあるとは限らないという事。
「何で見つからねーんだよおおおおおおお!」




