勇者の力
「はあっ、はあっ、もう限界だ……超眠い……」
影虎は霊力、集中力共に使い果たし倒れるかのように深い眠りに落ちた。
そして影虎は夢を見た。
その夢のなかで自分の周りは黒一色で、そこはさしずめ田舎の街灯の無い夜道のようだった。
「これは……? 夢か?」
暗闇の中で何か無いかときょろきょろとあたりを見渡していると、前方にうっすらと人影が見えてくる。
「だ、誰だ!?」
影虎がそう叫ぶと、人影は影虎の近くまでやって来てこう言った。
「やあ。君が俺の後輩かな?」
「はい?」
影虎は暗闇でぼんやりとしか顔の輪郭と服が判別できないその人物の言葉の意図が分からず、そう聞き返す。
「おっと、自己紹介もまだだったね。俺は先代翳の勇者だよん」
「せ、先代……? あんた俺と同じ……」
影虎がそう言うと、先代勇者と名乗るその人影はコクリと頷く。
「何であんたがここにいるんだ? これは夢だよな……?」
「俺は君の能力について教えに来たんだ」
「な!? 何かあるのか……? 教えてくれ!」
先代勇者は秘密基地を教える子供のような口調で静かに語り出した。
「まず隠行だけれど……何でこっちに来てから使えるようになったのか分かる?」
「さっぱり分からない。霊力か何かが作用したとか?」
「何で当てるんだよ……つまらん奴め……」
先代勇者軽くしょんぼりとした様子でこう続けた。
「俺達異世界人は転生時に霊力がこの世界の住人が生まれる時とは違った形で付いてきます。その時の影響でその人自身の才能が能力として見に付くんだよ。霊力の適正とは別にね」
「成る程、じゃあ俺の能力がこんなに陰キャっぽいのは……」
「つまり本人の素質って事さ。俺もそんな感じだけどね」
「マジかよ……」
影虎は自分は根っこの部分からそんなのだったのかと地味にショックを受けた。
「さてお次は……刀の事だね」
「ああ、あれね。蜃気楼って何なの?」
「あれの力の事については詳しくは言えないけど、君が思っている内容で間違ってないよ。ただ……あの刀はまだ完全では無いのさ」
「だろうな……」
影虎は刀が成長するのではないかとなんとなく勘付いていた。
だが、何故完全な状態ではないのかが腑に落ちなかった。
「刀が不完全なのは、召喚された人がいきなり強い力を持ったら悪い事考えるかもしれないだろ? だから俺がばらけさせた。そういう事さ」
「そうか……じゃあロゴスは何なんだ?」
「試練を与える番人ってとこかな……力を盗まれて悪用されたら本末転倒だし。扉だけじゃあ不安なんだよ。それに宝を守るボスがいるのはファンタジーの醍醐味だろ?」
「はあ……」
影虎にとってその醍醐味はいい迷惑だった。
「だから君はその力を集めるんだ。世界のあちこちにばら撒いておいたその力を。それが君のやるべき事さ。そしてそれを人の為に役立ててくれ」
「いいぜ了解! せっかく異世界に来たからには無双したいし」
影虎が軽い口調でそう言うと、先代勇者は重い口調で。
「くれぐれも悪い事はするなよ。それで俺達は大分苦労させられたからな」
「勇者の間で何かあったの? 心配しなくても俺はそんな事はしないさ」
影虎がそう言い放つと、安心したように先代勇者は息を吐き。
「そうか……それならほっとしたよ。それじゃあ、時間だ……異世界ライフ頑張ってくれよ。またね」
「また会いましょう」
影虎がそう挨拶すると、ふと夢から覚めた。
先程のロゴスと戦った洞窟だ。
「ん……? いてて……技の所為で体が痛い……」
「カゲトラちゃん! 良かった、起きたわ~」
「おお起きた! おはようカゲトラ」
起きた影虎を二人が覗き込んでいた。
「心配したわ~ミコモちゃんがカゲトラちゃんが混合技を放ってからこのままだって言うから~」
「カゲトラ大丈夫?技失敗して自爆したのかと思って私焦ったわ」
「お前がやれって言ったんだろ……」
影虎はミコモをじろっと睨む。
その一言を聞いたエルドレットはミコモに。
「あら? ミコモちゃん、今聞き捨てならない事を聞いたのだけれど……」
世にも恐ろしい形容しがたい表情でミコモを問い詰める。
ミコモは生まれたての小鹿のように震えながら必死に言い訳をする。
「うわあああああ! 許してエル姉ー! あいつに止めを刺さないとこっちがやられると思ったの! カゲトラの変な能力もいつまで続くか分からなかったし!」
「そう……それならしょうがない所もあるわね」
エルドレットはそう納得して殺気を抑えた。
そしてミコモが影虎に謝ってくる。
「ごめんカゲトラ……あの技使ってもらうしか無いと思って……」
「いやいいっての。そういう訳があるなら別にいいさ。死ぬわけじゃ無いんだし」
「ありがとう……今度何かお詫びを……」
「ああそう……期待しておくわ」
影虎はエルドレットの怖さを直接体験した訳でもないのに深く心に刻みつけられた。
「あとカゲトラ、あいつが死んだ所にこんな物が落ちてたんだけど……」
そう言ってミコモは影虎にそれを渡す。
それは見事な漆黒の鞘だった。
「これあんたの刀の鞘に使えるんじゃない?」
「そうだな。貰っておくか」
影虎はこれをミコモから受け取った。
(これがあの人に言ってた……力ってやつかな?他には何も無いみたいだし)
影虎は刀を漆黒の鞘に入れ、腰に下げた。
「さて、カゲトラちゃんも起きた事だし、ギルドに報告に行くわよ」
「分かったわエル姉。それにしても私達、どれくらい寝てたのかしら……もう夜になっていたら大変だわ」
「それは無いと思うぜ……とにかく早く戻ろう。帰ってしっかり休みたいぜ……」
三人はそうしてギルドへの帰路を進み、洞窟を出た。
日は沈みかけていたが。
「刀の力とやらを集めるのはもっと強くなってからだな……」
影虎は夕日を見ながらより強くなる事を誓った。




