小さな勇者
「やったか……?」
影虎は手応えが今ひとつ分からず意図せずに伏線を建築してしまった。
その所為かどうかは不明だが。
「グッ……辛うじて避けられたわ……少し食らっちゃったけどね」
エリスは体の所所に傷を負っており、血を流しているがまだ致命傷ではないようだ。
「な、何だって! 俺の奥義が破られるなんて……」
影虎はオウレンが苦戦する訳をようやく理解した。
下級魔族でそこまで力が強くないとはいえ、このエリスは素早さと飛翔能力でそれを補っている。
速いが故にこちらの攻撃が当て辛いのだ。
「でもそれがどうした! また奥義を使えばいい話だろ?食らえ霧双突き……ぎゃあああ! 何てこった、腕が痺れてて刀が持てねー!」
影虎は先の技の負担が腕にきており刀が握れない。
「キャハハハ! やっぱりこいつはただの間抜けだったわね! まさか敵の前で自爆するとはね! だけど私の腕に傷を負わせたのは絶対に許さないわ! 死ねクソ残念頭!」
怒りが心頭に発したエリスは手の鋭い爪で影虎は引き裂こうとした。
だがそれは影虎に当たる寸前の所で空振りする。
影虎はニヤリと笑う。
「おいおいどうした? 俺をそれで引っ掻くんじゃなかったのか?」
「は……? 何故? 確かに今のは当たったはず!」
エリスは困惑しつつもさらに攻撃を加えるが、どれも当たらない。
「何で……? さっきからお前は突然消えたり現れたり……お前は一体何なんだよ!」
怒りで口調が変化しているエリスを見て、影虎は勝利を確信した。
(修行のついでに実験しておいて良かったぜ……『蜃気楼』)
そう、影虎はエルドレットとミコモの修行以外にも、刀の能力もついでに調べていたのだ。
影虎は勝手に『蜃気楼』と命名し害獣相手に実験した。
そのため霊力の低下は無く、そして様々な事が分かった。
(この『蜃気楼』は切った回数に応じて敵は俺がもっと近くにいる、ように感じる能力だ……それで刀の能力で間違いない……この刀で切った時でしかその能力は使えなかった)
と、そんな便利な代物だった。
(欠点としては攻撃を当てないと意味がない事ぐらいかな……)
因みに、影虎は霧双突きを放つと手が痺れるという事も当然分かっていた。
それでもわざわざ霧双突きを使ったのは、能力の効果を最大限に引き出したかったのと、仮に全て外れたとしても霊術は撃てるようにしていたので問題は無かった。
「さて、混乱している所申し訳無いけど次で止めだエリス」
「クッソ……こんな所で終わるなんて……」
エリスはもう打開しようがないと判断したのか力を抜いた。
「けどその前に……何でここを襲ったんだ?」
影虎がそう聞くと、エリスは溜息をついてこう言った。
「お前に教える義理は無いね。自分達でよく考えな……」
「そうか……教える気は無いんだな。それなら冥土の土産と言っては何だけど、俺が編み出した技で倒してやるよ。
………空毒斬!!!」
影虎は霊力剣で刀に毒の霊術を宿らせ、それをエリスに向けて振り下ろした。
「ぐはあああああ!」
エリスは毒に蝕まれ、やがて動かなくなり、光の粒子となって消えた。
*
*
*
影虎とオウレンはすっかり怯えていた子供達を落ち着かせ、子供達は気分を取り戻した頃、
ようやくミコモがやって来た。
「ハアッ、ハアッ……あれ? 魔族はどこに行ったのカゲトラ…」
そう聞いてくるミコモに、影虎は得意顔になって答えた。
「俺が倒したぜ」
「はあ? あんたが? 嘘でしょ? オウレンさんに聞……」
「いやあ素晴らしい戦いぶりで、私の出る幕が無かったくらいだよ」
オウレンがしれっと言うと、ミコモは信じられない物を見るような目で影虎を見た。
「あの修行に逃げてたカゲトラが……? 魔族だなんて……」
「お前は俺を何だと思ってたんだ。俺だってやる時はや……いや本番弱いわ俺」
気落ちするミコモと勝手に過去を思い出し自爆して落ち込む影虎。
何故か二人とも庭の隅に一緒に座り何かを唱えている。
オウレンがその光景を見て不可解な気持ちに陥るのをよそに、すっかり調子を取り戻した子供達が二人を取り囲む。
「ミコモおねーちゃん! カゲトラおにーちゃん凄かったんだよ! 剣であの魔族バシュバシュ攻撃してたんだよ~」
「うっ……」
子供の無邪気な言葉がミコモの心に容赦なく突き刺さる。
「そういえば霊術も使ってた! 何か紫色の玉をカゲトラおにーちゃんが出して、それに当たった魔族はすごい苦しそうだったよ!」
「ウン……ソウダネ……」
言葉は次々とミコモの心に突き刺さり、ミコモも半分魂が抜けたかのようにしていたが。
「でも途中カゲトラおにーちゃんちょっとかっこ悪かったよね~」
「「「「そうだね~」」」」
その一言にミコモは活力を瞬時に取り戻す。
それに対して影虎の心は抉れる。
「え?どんなのだった?具体的に教えて?」
「ちょ……ミコモおねーちゃん顔怖いよその顔やめて……」
「話してくれたらやめるわ」
「わ、分かったよミコモおねーちゃん……」
子供を半分脅すミコモに、影虎は我に返った。
「おいやめろ! ガキを脅すんじゃねえよいい大人が!」
「あのね……」
「おい言うなこのクソガキがー! 恩を仇で返すなー!」
影虎はもうこいつらほっといても大丈夫だったんじゃ、と思い始めた。
しかし、子供達が影虎を名前で呼んでいる事に気付くのは少し先の事だった。




