影虎の霊術その2
「え……毒?」
影虎は何それ……? という気持ちでオウレンにそう聞いた。
「毒だよ毒」
「そんな霊術あるんですか?」
「あるよ。これは結構珍しい適正だね」
「へ、へえ……」
影虎はこのかなり微妙そうな適正に困惑する他無かった。
そしてミコモが再び適正について教えてくる。
「毒かあ……瞬時に相手を仕留める事はちょっと苦手だけど相手を苦しませ続ける事においては右に出る適正は無いわ。やっぱりカゲトラの陰湿な性格が適正に出たのかしら」
「一言余計だお前……で、結局毒は霊術としては強いのか?」
「毒はまあ長期戦向きね。でもいずれ強くなれば瞬時に相手を気絶させたり仕留めたりできるようになって弱点も克服されるからかなり強くなるわ。晩成だけどいい適正よ」
「ば、晩成型か…正直微妙だけど強いんならまあいいか……」
「毒の霊術師はあんまり見た事が無いね……戦いを挑まれて一度戦った事はあるけどね」
「え!? どんな感じだったんですか?」
オウレンのその呟きに影虎はとても興味を惹かれた。
同時に戦いに挑まれるってオウレンさん凄いなとも思った。
「そうだね……大分昔の事だったから忘れてるけど、二度と戦いたくない相手だったねえ……」
「そう思わせる程の強さという事にしておきます……」
影虎はあまり深く聞かない事にした。
そしてもう一つ影虎が気になっている事があった。
「あの……オウレンさん、霊術ってそれ専用の道具がいるって聞いたんですけど、毒とか霊力剣の道具ってどこで手に入るんですか?」
「霊術の品物を取り扱う用品店がこの街にもあるから、そこに行けば大体揃うと思うよ。あと実はその毒の霊術師と戦った時に戦ってくれたお礼にと色々と物を貰っていてね……」
オウレンはおもむろに立ち上がって部屋の中にある箪笥を少し探って何かを取り出し、影虎の目の前に置いた。
それはアメジストのような濃紫色をした美しい勾玉だった。
「これがその時貰ったものの一つで、毒の霊術の依代になるからもし毒の霊術の適正のある者が居たら渡すといいって言ってたなあ。だから君にこれを託そう」
「ありがとうございます! それにしてもこれで何の霊術が出来るようになるんでしょうか?」
「そうだねえ……私は解毒も出来るし、勾玉の感じからそんなに強い霊術ではなさそうだし一回くらいなら今のカゲトラ君でも撃てるんじゃないかな? ちょっとメコルの森で試してみようか」
「おお! 是非お願いします!」
「私も付いて行くわね。何かあったら大変だし」
「おう。それじゃ行きますか!」
三人はメコルの森へと赴く事になった。
*
*
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場所はメコルの森の人の通り道から離れた所。
「ここなら迷惑は掛からないでしょう」
「最初は暴発するかもしれないから気を付けてねカゲトラー!」
「おいそういうの最初に言ってくれ……」
影虎は離れている二人にそう突っ込んだ。
「ていうか霊術撃つにしてもどうやって撃つんだよミコモ師匠~」
「あっ、確かに。忘れてた」
「お前の記憶力その辺のゴミムシダマシか何かと同レベルじゃないのか?」
影虎はミコモの記憶力の無さに呆れ返ってしまった。
「ゴミムシダマシが何かは知らないけどとりあえず教えるわよ。まず私の手を握ってみて」
「え? マジで? 分かった……」
影虎は若干恥ずかしいなと思いつつミコモの細い手を握った。
何か自分の手とは違う感覚にドキマギしていると、次第に人肌の暖かさとは違う何か別の暖かいものがミコモの手から感じられた。
「はい、もういいと思うわ」
「何今の……」
「このほんのり暖かいのが霊力よ。さっきのを想像して手に力を籠めてみて」
言われるがままに力を籠める影虎。
すると先ほどの暖かいものが手から感じられた。
驚いた影虎がミコモの方を見ると。
「それがカゲトラの霊力よ。霊力は霊力に関わると認識出来るようになるのよ。次は勾玉に霊力を流してみて。そうしたら撃てる準備が整うわ」
そう言ってミコモはオウレンのいる影虎の後方に下がる。
「分かった、やってみるぜ……おりゃ!」
影虎は勾玉を取り出して手に持ち、霊力を勾玉に注ぐようなイメージで霊力を流してみた。
すると影虎の霊力が勾玉に流れ込み、勾玉が紫色に光り出した。
「カゲトラ、標的を決めて。そうすれば撃てるわ」
「おう了解!」
そして影虎は少し距離のある木を目標にして手をそちらに向け、力を溜めていたデコピンを撃つ要領で霊術を放った。
勾玉からバレーボールサイズの紫色の玉が射出され、目標の木にヒットする。
バシャッ!
どうやら毒液を飛ばす霊術のようだ。
「おお~凄いな……これが霊術を使う感覚か~」
「カゲトラ、木を見て」
「え?」
影虎がミコモにそう言われて木を見てみると、健康そうな緑色をした葉がしなびて黄色になっている。
影虎はえ? 毒って即効性無いとか言われてたよね? あれ? などと考えていると、ミコモが駆け寄ってきてこう言った。
「霊術を使い慣れていないとあんな風に威力が大変な事になるのよ。だから一発でこんなに霊力を使ってしまうのよ。最初は色々と調節が出来ないの」
現に先ほどの木は枯れて葉が落ちてしまっている。
さらに毒が周囲の土までも侵そうとするのを、オウレンが慌てて浄化している。
「あと今体がちょっとだるいでしょ? それは霊力を使い切った証拠ね。霊力はあまり使い過ぎると体調を崩すから気を付けるのよ」
「それも最初に言えよ……」
「今回はオウレンさんも居たし大丈夫だと思ったのよ。それにあんたリスク背負ってまで霊術撃つようには見えないし」
「た、確かにそうだけど……」
「それでも霊術撃たせたのは習得が早まるからよ。いずれそれに詠唱も加わるから大変になるし。さて、それじゃあオウレンさんの土の浄化が終わったら戻るわよ」
「はいはい……」
影虎の初の霊術は中々凄まじいものだった。
※ゴミムシダマシとは?
あの飼育動物の餌であるミールワームの成虫。
黒い体の甲虫で、とにかく地味なのが特徴と言える。




