陰キャ修行その4
「それにしても掃除以外のボランティアってのは何なんだ?」
「孤児院の子供の世話よ。私はよくそこに顔を出してて馴染んでるから多分カゲトラも大丈夫」
「多分っておいおい大丈夫なのかよ!?」
「こんな事もあろうかとカゲトラも来るって電話で言っといたわ」
「そうか……って先代勇者の所為で俺の異世界へのイメージが崩壊しそうだぜ……」
「ん? 何を言ってるのよ」
「いや何でもない」
影虎はもうそのうちスマートフォンとかが出てくるんじゃないかと思っていた。
便利さと有難みを感じる反面、少し興ざめを食らった気分だった。
影虎がそうやるせなさを感じていると。
「おい、影虎、何急にボーッとしてるの? 行くわよ」
「あ、悪い悪い」
ミコモに訝しげな顔をされた。
空想から帰った影虎はあわてて歩き出した。
そうして人通りの多い通りをこんな店あるんだななどと感心しながら歩き続け、大分足が少し疲れてきた頃に孤児院に着いた。
「え……何でこんな所に?」
影虎は他の建物とはあまりにも異彩なその孤児院を見てかなり驚いた。
その孤児院はお寺のような建物で、苔むした岩や若い竹などが生えている庭があり、そこで数人の子供達がボールで夢中になって遊んでいる。
「ああそういえば説明し忘れてたけど、ここの院長のオウレンさんも霊術師なのよ」
「なるほど、それでか。この建物も何か意味があんの?」
「そうよ。霊術はそれ専用の道具を必要とするけど、極論を言えば建物も霊術の為の媒体になったりするわ」
「何か凄いな……」
そしてミコモが孤児院の扉を叩いた。
「すみませ~ん。お手伝いしに来ました」
「はい。ちょっと待っててね」
優しげな声でそう返事が返って来てしばらくしてから一人のお爺さんが出てきた。
そのお爺さんはお袈裟を羽織って頭は坊主にしており、優しそうな顔に感じの良い笑みを浮かべていた。
影虎は霊術って髪坊主にしなきゃいけないの?大丈夫?と少し不安になったがミコモも髪は切っていないので多分大丈夫だろうと自分を安心させた。
「よく来たね。いらっしゃい。それで……新しく子供達の面倒を見てくれる子って言うのは君かい?」
「そうです。尾野影虎って言います。因みに影虎の方が名前です。よろしくお願いします」
「そうかそうか、私はここの院長のオウレン。よろしくねカゲトラ君」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
そうして影虎はオウレンと握手を交わした。
ギュ。
ブンブンブンバキィィッ!
オウレンの熱い握手は影虎の手を激しく破壊し、その勢いで木製の扉に激突させた。
「ぎゃああああああ!」
「あ…ごめんカゲトラ、オウレンさんは握力がとんでもない上に加減を知らないのを言い忘れてた!」
「そういう大事な事忘れるなよ……」
「あわわ……本当にごめんなさいカゲトラ君……ひさしぶりに人と握手したものだからつい……」
「ついで人の手破壊しないで下さい……」
手に力が入らない影虎。
「お詫びと言っては何ですが……ーーー典薬頭」
「うおっ、何これ。あれ? 手が元通りになったぞ?」
影虎の手を黄緑色の淡い光が包み込み、手を治癒した。
「これで痛くなくなったでしょう。本当にごめんなさいね……あとできちんとお詫びを……」
「いえそんないいですよ。もう痛くないですし。それよりも子供達に会わせてください」
「いえいえお詫びは後で是非させてください。では子供達の所へ案内しましょう」
そして和装の廊下を通り、先程の庭に入った。
すると人が来たのに足音で気付いたのか六人の子供達がいっせいにこちらを振り向いた。
子供達はミコモの顔を見てミコモの元に笑顔で駆け出した。
「「「「「「ミコモおねーちゃんだ~! わ~い!!!」」」」」」
「遊びに来たわよ~」
ミコモに次々と子供がしがみ付いていく。
「懐かれてるなお前……コバンザメみたいにくっついてるぞ……」
「何よその例え……」
「ミコモおねーちゃん、この人だれ?」
くっついていた子供の一人が影虎を指差してそうミコモに聞いた。
それを聞いた影虎は子供達に自己紹介をした。
名字の概念はこの世界の子供には理解出来ないかもしれないので名前だけ言う事にした。
「ああ、俺は影虎って言うんだ。よろしくね」
「今日からこの変なお兄さんも来てくれるのよ」
「えーミコモおねーちゃんだけでいい~変なおにーちゃんいらない~」
「おいてめえ今何て言いやがった……っておい何で俺から逃げる!」
「みんな、変なおにーさんが追いかけてくるわよ!速く逃げてー!」
「「「「「「キャーーー!!!逃げろーーー!!!」」」」」」
「ミコモてめー! 俺を売りやがったな! うわどうしようこの状況!」
「ここまでおいで~おしりペンペン~」
子供の一人がお尻を叩いて影虎を挑発する。
「クソ……何で子供ってこんなに人を煽る事が好きなんだ……」
「ふふ、それではお願いしますね。私は仕事がありますので」
そう言ってそそくさと中に戻っていくオウレン。
「いやあんたここの院長だろ! 何とかしてくれ……いや逃げるな院長ー!!!」
影虎が叫ぶのも空しくオウレンは中に戻ってしまった。
そしてそれに追い討ちをかけるように子供が影虎を煽る。
「あれーお兄さん僕達より断然年上なのに何で僕達を捕まえないんですかー?もしかして足遅いんですかー?」
「わー黒いおにーちゃん足おそいんだー! これは余裕だね」
「いいからさっさと追いかけてきなよー。つまんないじゃん」
影虎は子供から容赦なく飛んでくる煽りに堪忍袋の緒が切れた。
「黙れクソガキ共ー! 一人残らずとっ捕まえてくれる! そしてミコモは罰として耳撫でまくってやるー!」
「うわーおにーちゃんそういうのセクハラって言うんだよ~いけないんだー」
「そうよね~本当にそういうのよくないわよね~。ーーー神速」
子供達に補助霊術が掛けられる。
それは子供の持つすばしっこさをさらに引き立てる。
「おいミコモ何霊術使ってんだー! 反則だぞそういうのー!」
「相手は子供なんだからちょっとはハンデあげなさいよ」
「いや要らねーだろ! 現にこのガキども速すぎてぶれて見えるわ!」
こうして影虎の鬼畜な鬼ごっこは始まった。
影虎は俺が子供の時はもっと大人しかったと心の中でぼやきながら何としてでも子供達を捕まえようと走り出した。
オウレンの握手の元ネタ分かる人がどれくらいいるんでしょうか…




