陰キャ修行その2
「それじゃあ剣術を教えていくわね。まずは剣の持ち方からね」
「はい」
説明するエルドレットにそう頷く影虎。
「レイピアは突くのが主な攻撃方法だけど、カゲトラちゃんの刀は相手を突いて攻撃する事も切り裂いて攻撃する事も出来るみたいだから、突く構えと切る構えの両方を教えるわね」
「なるほど、分かりました」
「まずは突く構えから教えるわ。私の構え方を真似してみて」
そう言ってエルドレットはレイピアを構えた。
いわゆるフェンシングの構え方に近いようである。
その構え方を真似る影虎。
「どうですか?」
「腰が落とせていないわ。あと足の位置も変よ。もっとずらして」
「なるほど~ではこんな感じですか?」
「そうよ。これをきちんとしておかないと突きの技が上手く出来ないから覚えておくのよ?」
「分かりました」
「切る構えも私の真似をしてやってみて」
このように影虎は様々な構え方をエルドレットに教わった。
しかしやる内に構え方を忘れてしまったり何故かずれたりしたためあまりコツは掴めなかった。
これには影虎の運動神経の悪さもあるが、何よりも素人である事が大きい。
「な、何で出来ないんだ……」
「最初はそんなものよ。いずれ上手くなるから気にしないで! それじゃあ次は素振りをやってみましょう! 素振りは回数をこなせば段々と上手くなってくるわ」
「はい!」
影虎は刀を抜いて構え、振り下ろした。
ビキッ!
「ぎゃあああ! う、腕が~」
「ちょっとくらいなら出来ると思ったのに……」
影虎は筋肉痛で痛かった腕が更に痛くなってしまった。
エルドレットはこれは前途多難そうだわと危機感を持ちつつ、そして懐からトランシーバーのような物(先代勇者の産物らしい)を取り出し、それに向けてこう言った。
「こうなったら仕方が無いわ。ミコモちゃ~んもう出番よ~」
『早っ! 今行くわね~』
「ちょっと待っててねカゲトラちゃん。今ミコモちゃんを呼んだから」
「……? 何でミコモを呼ぶんですか?」
そうしてしばらく待っていると。
「お待たせ~」
「じゃあお願いね」
「は~い。全く、何でこんなに貧弱なのお前は……」
ミコモは影虎の腕に手をかざし霊術を唱え始めた。
「え?今から俺何されんの? 怖い怖い怖い……」
「大丈夫だっつの。ほれ動くな」
「え、ちょ待っ……」
「ーーー水恵」
「お?」
影虎の体を水色のひんやりとした光が包み込んだ。
痛くて重かった体がたちまち治っていく。
「あれだけ痛かった腕が……痛くなくなってるし……それになんだか体に力が入るような……」
「霊術で筋肉痛を治癒したの。体が軽いのは筋トレの効果ね」
「凄いな……ありがとなミコモ」
「どういたしまして。その代わり一日五回も使ったら霊力が切れちゃうわよ」
「おい霊力って何なんだよ。いきなり新しい単語出すなよ」
「それも知らないの……? じゃあ後で説明するわ……」
「え?別に今教えてくれてもいいじゃん……気になるじゃん」
「いいえ、筋肉痛も治った事だし私の修行が先よカゲトラちゃん。誰が修行終わるなんて言ったの……?」
「誰もそんな事言ってませんねははは……エルさん分かりましたからそのトイレの赤ちゃん椅子に付いてる怖いピクトグラムみたいな顔やめて下さい!」
あの"目を離さない"と書いてある奴である。
「何の事だがさっぱり分からないわ~? ふふふ…」
「あの……早く始めましょう……修行……」
影虎は未知の恐怖を味わい続ける事よりも苦しい修行を選んだ。
「そうね。それじゃあさっきの筋トレからやっていきましょうね」
「はい……」
そうして影虎はこの日非常に実りのある修行を積んだ。
腕立て伏せも次第に楽になっていき、構え方と素振りもやっていく内に少しづつコツを掴む事が出来た。
そしてミコモの霊術を四回使用した後、エルドレットが。
「今日の私の修行は終わりでいいわよ」
「やったあ……! シンプルな修行内容だったけどきつかった……!」
「ーーー水恵」
「ん?」
影虎はミコモに霊術を掛けられた時、ふと気付いた。
そういえばミコモはまだ四回しか霊術を使って無いからあと一回使えるんだったな、と。
あれ何で一回分霊力とやらを残しておいたんだ、と思考をめぐらす影虎の肩を、ミコモがポンポンと叩いて、
「それじゃあ、霊術の修行をしようか、カゲトラちゃん♪」
と言った。
影虎は脱兎の如く森の奥へと逃げ出した。
突然の逃走に一瞬反応が遅れたミコモだったが、すぐに影虎を追いかけた。
「逃げても無駄よ~それに別にきつい修行とかじゃないから~」
「いや今言ったの完全にやばい奴の台詞じゃん! きつくないとか絶対嘘だろ!」
そう言った影虎の目の前にミコモがギュン! と回りこんだ。
「うわっ! 速っ! 何なのお前……」
「ふふ、だから逃げても無駄って言ったでしょう?」
「くっ、観念するか……きつくても強くなれるならいいか……」
「あんたは霊力がどんなものか知らないんでしょう? その修行方法を知ったらきっと驚くと思うわ」
「ああそうですか……もう好きにしてくれ……」
影虎はきつさ無しに強くなる方法は無いと半ば諦めていた。
しかしその霊術の修行は影虎の想像の範疇を遥かに超えているものだった。




