陰キャVS魔王その2
「あいつは武器の海闊天輪で水をいくらでも放出する事が出来る上に、奴の霊基明神秘湯でそれを百度の熱湯に変えたり、温泉で自らの傷を一瞬で治癒してしまいます。それが奴の能力です。唯一の弱点は能力発動を封じられる事……そこしか無いと言ってもいいでしょう」
「それじゃあ私が技で攻撃するわ。だから二人は相手の能力発動の瞬間を見て!」
「はい、分かりました!」
「ええ」
エルドレットは二人にそう言って糸を出した。
伸びた糸は木々の間を縫って無数の五芒星を描いた。
「ーーー霧双睡蓮草薙!!!」
エルドレットがレイピアで糸を突いた次の瞬間、糸から桃色の斬撃が幾多にも放たれた。
それらは善方の体を貫き、夢の世界へと誘った。
「くっ、眠くなるだと……新手か……? 明神秘湯!」
善方は手で水に触れてから明神秘湯を発動させた。
「さっきは技ばっかり撃ってたから見る余裕が無かったけど……あれがあいつの能力の引き金だな!」
「つまりあれさえ防げれば勝てる、って訳ね。……問題はどう防ぐか、よね」
「とりあえず私の糸で奴の両手を封じてみるわ。それでカゲトラちゃんとカミルレさんが遠距離の攻撃をありったけ叩き込む。それでどうかしら?」
「なるほど、それで行きましょう。あと糸に隠行Ⅱを掛けておきましょう」
「なら私は魔術の詠唱ね……」
そうして三人の役割が決まった。
まず最初にエルドレットが隠行Ⅱの掛かった糸を射出して善方の両手を封じる事を試みる。
「白雪霊糸封じ!」
「……ん? な、何だこれは!?」
白糸は難なく善方の両手を封じる事に成功した。
「よし、それじゃあ撃つぞ! 空毒天叢雲!!!」
「真、ケラヴノス・ラーミナ!!!」
二人は同時に技と魔術を放った。
絶大な斬撃と強大な雷の刃が周囲に轟音を齎した。
水飛沫が霧状となって宙を舞う。
「水の中だから電気がよく通るわね」
「正確には電気を通してるのは水じゃないけどな。今度こそはやっただろ」
影虎達は霧の中を凝視して善方の様子を確認しようとする。
しかし……
「海闊天輪!」
「「「ガボッ……!!!」」」
一瞬の内に辺り一帯に津波が起きた。
(嘘だろ……!? まだ生きているのか……?)
影虎は今の攻撃で善方をまだ追い詰められていない事を確信した。
まるでどうやってあの状態で攻撃を防ぎ海闊天輪を行使したのか全く分からなかったが。
(とりあえず木に登らないと……溺れる……!)
影虎は急いで近くにあった木に登った。
「はあっ、はあっ、もう一回あの二人を探さないと……勿論他の皆だけど……」
「見つけたよ……はははははは!」
「何い!?」
影虎は目の前に海闊天輪で浮かんでいる善方を見て驚愕した。
「隠行Ⅱは掛けておいた筈なのに……何でだよ!?」
「ははは……それはね……俺の明神秘湯の中に相手の位置を映し出す温泉というものがあってね……それで探したのさ。やっぱり正々堂々と戦いたいものじゃないか……」
「もう何でもありかよ……」
影虎は善方の明神秘湯の反則ぶりに歯噛みした。
そしてあれほど修行をしても敵に勝てないという自分の運命を呪った。
「クソが……なんでてめえみたいな苦労知らずのチート野朗に止められなきゃならないんだ……」
影虎がそう吐き捨てると、善方は目の色を変えて影虎の胸倉を掴んだ。
「何だと貴様! 俺が苦労知らずのチート野朗だと? ふざけんじゃねえ! 俺だってな………いやこの話は辞めておこう。貴様には理解出来ない。さて……影虎君、俺の明神秘湯は水を温泉に変える事が出来る霊基だと言ったよね?」
「それがどうしたんだよ」
「なあ、人間の血って水に入ると思うか?」
「ま、まさか……」
影虎は善方の能力の真の恐ろしさを悟った。
もし人間の血も水と判断されてしまうのなら、血も温泉に変える事が可能という事だ。
つまり、触れられた瞬間に全身を沸騰させて一瞬で人を殺傷させる事が出来る訳である。
「まあ普通の人間だったらわざわざこんな事をしなくても百度の熱湯で殺せるんだけどさ、影虎君、君はとても頑丈だ……だからこれをしなくちゃいけないんだ。さあ、そろそろ死ぬんだな!」
「はあ、それで?」
「なっ……ぐああああああああああ!」
影虎の首筋に善方の両手が伸ばされようとしたその時。
善方の両腕が斬り飛ばされた。
「何でこんな事が出来たか分かるか? 今お前は空中を飛んでて海闊天輪は使えない状態だし俺の胸倉掴んでた所為で両腕も塞がってる。滅茶苦茶隙だらけだったぜ……さてはお前何の武術もやってないな? 先に明神秘湯使われなくて助かったぜ」
「な、何て奴だ……!」
善方は無くなった自分の両手を見ながら震え声で言った。
喧嘩で相手の胸倉を掴むのは愚かな行為である。
何故なら相手は両手両足の何処も封じられていないのに自分は相手の胸倉を掴んでいるが故に両手が塞がっているのだ。
即ち、胸倉を掴まれた場合にはむしろ絶好の好機であると考えた方が良いのである。
「クソが……明神秘湯! 水を傷を瞬時に癒す温泉に変える……!」
善方は海闊天輪で水を出して自身の体を包み込み、明神秘湯を発動させた。
先程もこうして回復したんだなと影虎は推測した。
「手切られても発動出来るのかよ……これじゃ本当に対処の仕様が無いな……どうしろって言うんだよ……」
影虎が新たに手が生えている善方を見てそう呟いていると。
「真、凍冴時雨月!!!」
「真、トレイスコンヘラル!!!」
「烈空脚八閃!!!」
聞き覚えのある声が影虎の耳に入ってきた。
同時に辺り一帯の水が凍り付き、さらに氷塊と衝撃波が善方に襲い掛かった。
「がはあ!」
「こ、この声は……」
影虎が声がした方を見ると、そこにはミコモとアルメリア、そして萌葱が居た。
更にエルドレットとカミルレも共に居る。
どうやら三人と合流したようだ。
「カゲトラ……皆で一緒に戦うわよ!」
「大丈夫、勝てる算段があるから!」
ミコモと萌葱が力強く影虎に言った。
影虎はそれを心強く思ったのであった。




